【2011 September】
●T子──やっと返信くれたと思ったら、無言メール?
相変わらずこれじゃ駄目だよ、面白くない、ピンとこない、全然成立してねぇ、そう簡単に直せるもんじゃねぇ、もっと苦しめ、と暗に伝えているのでしょうか?
…………………………
●K君──前半の付け加えた分よかったよ。
当方それどころじゃない。
明日、実家も立たなきゃならない。
返信不要
…………………………
●T子──どうしました?
まさか母上の具合が悪い?
…………………………
●K君──実家を出た。
東京に戻れるとも思えない。
三浦海岸の安民宿に寝る。
クーラーありテレビありなら、バンコク並みの都会か。
…………………………
●T子──映画の仕事が入って、どこかに飛ぶのかと思った。
実家に居づらくなったの? なぜ?
野坂の本、もうすぐ届くと思うけど。
実家にも東京にも帰らないなら、どこ行くのよ。
お金が続かないでしょ。
私のアパートはだめよ。
家族や身内の方々と、あまり揉めなさるな。
仕事の目途を立てたいなら、校正校閲の資格とることを勧めます。
詳しい事情がわからないし、気になるから、返信ください。
…………………………
(返信なし)
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●T子──この前私と遊んだ際に、母上のお金をだいぶ遣ってしまったのかしら。
そんな諸々が発覚して、出ていけと言われた?
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(電話で話すも埒あかず)
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(T子記す)
要するに、あいつは「お父さん」だから(と本人が言った)子供のためにお金つくって持ち帰りたかった。
でもアテがはずれたので実家を出たということ。
そして空手では東京の家に帰れない、帰っても居場所がない、つらい、ということ。
Kが毎日母上の面倒をみるかわりに月30万を、小遣い経費+仕事できない分の保障として支払ってくれ、というプランは妹のMちゃんに認めてもらえなかったということか。
もしくは母上から200万か300万受け取って東京に渡し、来年の2月まで手を打つ、そして来春に次女が大学進学すればあとはもう勘弁してもらうという計画だったが、それも駄目だったということか。
母上を施設に入れて実家を売りに出す、その金を分け合うというのも駄目。
動産も不動産も妹のMちゃんが管理していて、財産分与に応じてくれない。
「俺には一銭も出すつもりがないらしい」とKは言うが、実際のところは不明。
ただし、実家の権利書はMちゃんが何かに使っている可能性あり。
…………………………
(電話での会話)
(T子記す)
あなた大丈夫? 何やらかしたの?
別に何もしてない。
こうなったらもう、何かしら仕事をするしかないでしょう、選んでいられない、校正校閲、私経由でリライトの仕事をするという方法もあるのに、あんたはいうこと聞かない。
その話、つらいからやめよう、仕事しろという話は、もう200倍くらい言われている、おまえから聞きたくない。
ドン詰まりだね。
もう十年前からドン詰まりなのだから、今さらどうということもない、これが最後のドン詰まりということで、海を見ながら考える。
でも結局、空手で東京に帰って、そこから何かして稼ぐしかないでしょ。
そう簡単に結論づけるな、だからおまえの書くものはつまらないんだ、おまえが言うように、目途を立てるとか、活路とか、再生、復活、そういうふうに考えられない、人生黄昏れている。
私は黄昏の感覚がない、性懲りもなく再生の兆しがあるという感じ。
このまま情けないまま終わるというのもアリ、俺はもうそれほど長い先のこと考えられない。
実家を処分したらあとがないよ、それに、ここで数百万持ち帰ったとしても、いずれまた困ることは目に見えている、だから仕事をするしかないのに。
それはわかっているが、あとのことなんか考えていられない、今しかない、そのアテがはずれたんだから、いつまでも実家にいてもしょうがない、だけど長男だから……
(と、ここでKは長男としての義務や責任についてではなく、財産をもらう権利があることを言った)
ともかくお母さんのところにいれば食べていけたでしょ。
俺だけ食べていけてもしょうがない、情けない父親でも、子供のことは心配している。
だけどあんた、映画の仕事のギャラはほとんど全部家に入れて、借金までして家族に渡してきたんでしょう、だったら……。
それは俺じゃなく家の者に言ってくれ、どう受け取るかはそいつら次第、娘は免許ローンのことで電話してきて以来一度も連絡寄越さない、俺は実家で婆さんの飯つくって、お袋は俺がいれば喜んでいたらしいが、このままいればいいとも言うが、ヘルパーさんが来る日は同居者がいてはいけない、タイミングの問題だ。
それはわかる、だからヘルパーさんの日だけ外出すればいいのよ、お母さんはあんたがいなくなっても大丈夫なの?
妹は大丈夫だから出ていけと言う、でも俺がいなくなったらおふくろは食べられないだろう、食べるけど、ろくなもん食べられない、俺も小説ごっこが多少はできた、少し書けたんだよ、おまえに送らなかったが。
やっと落ち着いて書ける雰囲気になったのにねえ。
おまえが書くものはおまえが考えるというのと同じで、これは俺の問題だから俺が考える。
だけど、とにかく無事でいてよね。
うん、まあな。
だけど本当に、どうするんだろ、こっちはどーんと気分落ち込んだ。
おまえにもう迷惑かけられないと思って、電話番号もメールアドレスも消した。
(うちのアパートはダメよとメールで伝えたから、頭にきて衝動的に消したんだな)
黄昏れてるわりに、やることが子供っぽいね。
あんまり心配するな、ドン詰まりで考える、だから文学になる。
そういうものかしらね、どうも違うような気がするけど。
…………………………
●T子──私が、うちのアパートはだめよと言ったから、頭にきて衝動的にアドレス消したんでしょ。
200万は無理だけど、50万なら用立ててもいいかな。
但し、それで東京に戻って、稼ぐ手立てを私と一緒に考えるのでなければ駄目。
どうする?
…………………………
●K君──お気持ちたいへん嬉しくぞんじます。
それはそれで。
アドレス削除は、前日。
まあ、寝ます。
クーラーとテレビがあって。
ここはタイの奥地じゃない。
…………………………
●T子──アドレス削除が前日なら、なぜ今日、「実家を出た」とメール送信できた?
消したのは電話番号だけだったのか?
まあいい。
おやすみ。

●T子──兄と妹は遺産相続の権利が等分ですよね。
父上の生前に現金もらっていても、借用書や領収書などの証拠がないなら、たいした額じゃなかったととぼけ、もらった額に見合う親孝行、こんなこともあんなこともした、今だって母親の介護をしていると主張して、等分の相続を要請できると思います。
だから実家に戻るのがいいと思う。
ここで頑張っておけば、あとで子供さん達に、少しまとまった仕送りができる。
それまでは、ご家族に我慢してもらう。
母上に長生きしてもらいたい気持ちと矛盾するけどね。
母上の余生のためにも、あなた自身とご家族のためにも、実家で介護しながら、書くというのがベストの選択では?
パソコンがあれば、多少は仕事もできるだろうし。
…………………………
●K君──
(海で撮影した日の出ほか3枚を写メール送信してきた)
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●T子──三浦海岸1泊2千円?
いいね。
遊びにいこうかな。
PC持って。
あたしに会いたい?
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●K君──珍しく早起きだね。
いや、まだ床に就く前か。
潮騒は、心痛を和らげる。
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●T子──今朝は4時に目が覚めた。
PCニュースをチェックしてびびる。
世界経済は新たな危険水域に突入?
欧州破綻で大恐慌の懸念?
☆☆
執筆はまあまあ順調に進捗。
文学になっているかどうか心もとないのですけどね。
☆☆
来てもいいよ?
それとも、来るな?
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●K君──東南アジアの奥地に行く覚悟があるならば、お待ちします。
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●T子──面白いかも。
だけど、三浦海岸駅から遠いの?
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●K君──徒歩5分。
宿の親父が午後に帰って来ないと、今夜の予定はわからない。
と、親父の母親が言っている。
学生の団体が泊するのは知っているが。
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●T子──泊まれないようなら、泊まらずに帰るよ。
私も気分転換がしたい。
海のそばで軽く飲みたい。
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●K君────アンダスタンド!
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●T子──駅まで迎えに来て。
昼頃。
車中よりメールする。
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●K君──了解。
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●T子──今、上大岡で快特三崎口行に乗換。
三浦海岸何分着か、わかんない。