【2011 September】
2011.9.20
●K君──家には、すえむすめがいた。
金は置いた。
立ち飲み屋に、やっぱり、避難。
新宿泊は、タクシーに乗ることで回避したが。
もっとも、赤羽まで行ったけどね。
家で寝かせて貰うよ、3日くらいは。
ありがとう。
…………………………
●T子──無事帰還されて良かった。
今日もわりと面白かったので良し。
だけど何故そんなに奥さんを怖がる?
気が知れない。
私のことはちっとも怖くないでしょ。
その要領で臨めばいいんじゃないかなあ。
急に寒くなった。
風邪などひかぬよう。
…………………………
●K君──サンキュー。
君が、怖くないわけじゃない。
明日、メールできたら、まぁ、ハッピーか。
まだまだ。
足が重い。
返信不要。
…………………………

(T子記す)
K君、あなたはこの長いメールを飽きずに読んでくれるでしょうか。
私は今日あなたとの三浦・ドブ板・中華街をノートにまとめ、やっと半分まで書き終えました。
あともう1日これをやらねばなりません。
仕事も、小説の執筆も締切が迫っているのに、まずはあなたとのことを吐き出してしまわないと、何も前に進めないのです。
今日は8時間、そのデートノートの執筆に費やしました。
明日も同じくらい時間と集中力が要るでしょう。
そう思って、早く寝ようとしたのだけれど、ついナイトキャップにカナディアン・クラブの水割りを飲んだら、YOUTUBEで音楽を聴きたくなって、どうしても最初は下田逸郎の例の曲、続いて宇崎という流れになるほかなく、ドブ板時代のマイフェイバレットである「恋のかけら」「涙のシークレットラブ」「哀しみのディスコティック」「沖縄ベイブルース」ときて、そして宇崎が歌う 「橫浜ホンキートンクブルース」。(これがなかなか良い。原田芳雄、松田優作なんか問題にならない)
ちなみに、おそらく芳雄さんに恋焦がれて、そして酒飲みすぎて、ゴールデン街のママは死んだそうな、「八月の濡れた砂」を毎晩かけてくれたパパも年で死んだそうな。
さて、宇崎も歌っているけど裕次郎と兄慎太郎がデュエットする「夜霧のブルース」にも寄り道しながら、再び宇崎の「裏切り者の旅」「イミテーション・ゴールド」、宇崎と阿木燿子が百恵のために創った「絶体絶命」「蔓球沙華」ときて、改めて横須賀モードの「ベースキャンプブルース」、そして「乾いた花」「ハッシャバイシーガル」なんか聴いてしまうと、もうだめ。
「そんなに何を生き急ぐのか、同じさ俺もアホウドリさ」というのはハッシャバイ(Hush-a-bye しーっ、おやすみ)シーガル(カモメ)。
「ここまで来たらサクセス」という詞もたまらない。
「待たせたね、おまえばかりに苦労をかけた」と詞はいうけれど、私たちの場合はそうじゃない。
私は随分と男のひとに守られてきた。
剥き出しじゃなかった。
あなたのほうが命けずって苦労してきたと、今ならわかる。
泣けた。
それに実は私、「九月の冗談クラブバンド」を劇場で観ている。
街のグラフィティに「T子」と大書きしてあったのはK君がやったのではないかと、私は勝手に思っている。
(待たせたのはお互いさま、ということ)
では何故もっと早く一緒にならなかった、と人は言うだろうが、答えは明白。
怖かったから。
考えすぎてしまったから。
当時の私は混乱していて、つきあいのいい男に受けとめてもらわねばやっていけなかったから。
K君もまだ荒れていたし、お互い男出入り女出入りを経験する必要のある年頃でもあったし、別の人と所帯を持ってしまえば簡単に別れられないという事情もあった。
☆☆
ところでさ、私たち「ドブ板派」でいいと思うけどさ、「ミッドウェイ世代」なら宇崎夫妻がとうにやってしまったよ。
あのふたり、あの若さで何故あそこまで出来たのかな。
よほど頭がいいか、もしくは素直に愛し合っていたのかな。
だからストレスなしに表現活動できたのか。
そもそも宇崎さんがよくできた男みたいだしね。
5年前、ある編集者が私にデビュー話を持ちかけてくれたときも、阿木さんと宇崎さんの仲良しぶりにインスパイアされて「愛され上手」という読み物を書いた。
しかし、熱海の先生がミリオンセラーを出した混乱のなかで自著刊行計画はつぶされ、それは私自身の力不足と準備不足のせいでもあり、デビューはまだだよという必然的な流れを天に示されたのでもあろうし、根本では、宇崎夫妻が到達していた愛し方の境地に私の理解が及ばなかったことが原因であろうと、今つくづくわかるのであります。
☆☆
K君と私は、「This is No Ordinary Love」なのだわ。
だからミッドウェイ世代であることに変わりはなくても、それとは別の何かなんだわ。
そこを考える。
というか、書きながら掴むよ、私は。
☆☆
今度遊ぶときは、カラオケで宇崎を歌いまくろう。
あなたが私の着物姿について幾度となくふれてくれるので、和服写真も出しておいたよ、見てね。
(オーダーメイドの下着も持っていく)
☆☆
追伸
私の「ドブ板トランジット」は、大手出版社で新人賞受賞もしくは単行本として扱ってもらうには、もひとつ事件というか出来事を書かないと、という某社長の提言に私も納得しておりまして、それにはやはり、セーラーが何かやらかして一波乱あったというのが良いと思い、あなたにジャーナリスティックな視点で加筆していただけたらと切望する次第であります。
あの拙作が三田文学に掲載されても、大幅に加筆して別作品にするなら他誌来春の応募に問題ないかを確認します。
問題ないようなら、ぜひ力を貸していただきたいと存じます。
詳細は後日あらためて。
…………………………
●K君──ありがとう。
謝謝。
連絡遅れましたが、「帰宅」、眠ることができました。
といっても、「関係」が修復したわけではなく、工面に対する「対価」みたいなものだ。
☆☆
アメリカに渡った従兄弟たち。
「家庭内差別」。
これとオレのヨコスカがリンクできれば、成立する。
☆☆
もうひとつ。
網走刑務所で死んだ兄の遺骨を引き取りに行く、弟と妹の話。
☆☆
>Have you read my PC mail?
↑Yes, I have read it, but be here open.
…………………………
●T子──
>but be here open.
↑What do you mean that?
…………………………
●K君──朝の散歩
公園で新聞を読む。
書斎、ブライベートスベースがないのだな。
ゆえに、パークホテルのベンチ。
8時過ぎには、PC起動する。
やぶ蚊がいるんだよ。

●K君──PCより
♪ お前と会えない寂しさだけから~
♪ 九月の雨の中に~
~どちらにしても熱くなれりゃいいさ
磯子の岸壁に「映画美術」として、落書きを書いた。
撮影の1週間前。
当日捕まったら元も子もないからね。
☆☆
若○とも、この間の黒人兵に似た体型の後輩たちとも、飲むとDTBWBを聴く。歌う。弾く。
介護老人ホームにお世話になろうと、おいらはクラプトンを聴くよ。『レイラ』を。
☆☆
少しはスティミュレイトできたか。
『宿題』考えておく。
♪ 知らず知らずのうちに~
…………………………
●K君──どぶ板トランジット
異物として、ホモの自衛隊はどうか。
…………………………
●T子──オハラのマスター「ダニー」は、お客の自衛隊員を家に連れ込んで、「パンティ脱ぎなさいよ」と迫っていた。
それを書いてもいいけど、事件は起きない。
事件を考えてよ。
合作前の原稿、再送信します。
なお、「どぶ板」という表記はだめ。
私がいた頃のあそこは、ドブ板。
…………………………
●K君──反戦脱走の米兵をかすめるか。
…………………………
●T子──田○台に住んでいるホステスの女性が米兵に惨殺されるという事件は実際にあった。
うちにも聞き込みが来た。
でも、そういう陰惨なのじゃなく、何かバカバカしいことをしでかして本国へ強制送還、のほうが良いと思わない?
…………………………
●K君──そう。大事件じゃない。
とるに足りない、ささいなエピソードだ。
しかし、それが日米関係を象徴している。だな。
…………………………
●T子──賛成
…………………………
●K君──反則だが、クリスマスという日を設定するというのもある。
…………………………
●T子──あの日タクシーのお姉さんも言ってたけど、東京あたりの女の子がセーラー、特に黒人兵を追っかけるというのは、私がドブ板にいた頃から兆候があった。
白人よりも黒人がモテる。
調子に乗った黒人がタブーを冒し、軍の逆鱗に触れる、というのはどう?
…………………………
●K君──今の時代を語る。
古い時代をステージにしても、今を表現できるエピソードならよし。
1974クリスマス。
ベトナム戦終結前年のクリスマス。
…………………………
●T子──開高健も書いてる「テト休戦」のこと?
…………………………
●K君──9.11の日。
まったく関係ない時間でいい。
関係ないほうがいい。
その無関係が、つながっていくか、世界へ。
返信不要
…………………………
2011.9.25
●T子──家族で墓参
(墓前に感謝)
私たちは行く先々で「仲がいいね」と言われます。
「夫婦でしょ、お似合いだよ」「いい男連れてるね」「いい女連れてるじゃん」とも言われます。
☆☆
(墓前で母に報告)
ボーイフレンドが何人いても、皆ただの友達にする。
生涯の恋人は決まった。
高校時代につきあっていた人。
お互い好きなのに一緒になれなかった人。
それでもたまに連絡取り合っていた。
去年からまたすごく仲良くなって、私は言った、「もうあきらめた。あんた以外を好きになってうまくやっていこうとしたけど、やっぱりあんたじゃないとだめ」と。
向こうも私が一番いいって、「40年変わらなかったのだからこれからも変わらないだろう」と。
だからこのままずっと仲良くやっていこうということになった。
彼は結婚しちゃったけど、もう離婚するって。
でもここまできたら、私も今さら急がない。
私は心が満たされた。
☆☆
(母の助言)
よかった、それでいい。
結婚はしないほうがいい。
結婚しちゃったらおしまい。
このまま時々会っているほうがいい。
たまに会うから楽しい。
盛り上がる。
自分ひとりで自由気ままにやれる生活を手放すな。
☆☆
(墓前で弟に告げる)
もし他の苗字になっても私、半分はここに入る。
…………………………
●K君──T子っ
結婚しようか。
☆☆
昨日、終日映画を観た。
『戦場のナージャ』ロシア映画、ニキータ・ミハイロフ。
『あぎーれ』ヘルツォーク。
『昼間から呑む』韓国映画。
日本映画『マイバックページ』は、5分で出た。
誰とも『映画』を語れない。
感動を「語れない」哀しみ。
居場所がない。
また、紹興酒を呑む。
…………………………
●T子──私が結婚するなら、相手はあなたしかいない。
でも今あなたは弱っている。
酔っている。
家庭に居場所がない男は大勢いる。
頑張れ。
今の私の力では、あなたを幸せにしてあげられない。
まずは、ふたり、作家になりましょう。
映画の感動を語り合うなら、またデートすればいいのよ。
☆☆
追伸
本日家族と墓参。
「生涯の恋人決まった」と母に報告。
喜ばれた。
行く先々で、「仲いいね、お似合いだよ」と言われます、と墓前に感謝。
私がもし他の苗字になっても、半分はここに入る、と弟に告げた。
…………………………
(23:23 電話あり)
(T子記す)
もしもし。
……。
ハーイ、ダーリン、どうしたのよ、大丈夫?
(ふっと少し笑って)ダーリンダーリンダーリン、か。
(とKは嬉しそう。安心した気配)
声が聞きたくて、とK。
あなた、せっかくおうちに帰ったのに、外で飲み歩いていちゃだめでしょ、おうちにいなさいよ、あなた飲みすぎ、あたしといるときはあれくらい飲んでもいいけど、ふだんはそんなに飲んじゃだめ、困るよ。
困るよな、はい、わかった。
(このひとならきっと大丈夫、と信じられる何かがあった)
………。
おまえ仕事してたの?
してない。
遊んでた?
うん、音楽聴いてた。
ただちょっと声が聞きたかっただけ、また、な。
………。
切るよ。
うん……
(10代の頃みたいな感覚)
……
(しばらく沈黙。やがてKのほうから電話を切った)
…………………………
(T子記す)
これって、婚約?
「T子っ、結婚しようか」
この文字を見たときは驚いた。
というか、ちょっと意外だった。
わりと冷静に受け止めた。
受賞デビューのときもきっとこうなのだろう、と思った。
紫陽花
私たちは40年来の念願叶って、初恋のひとと結婚しました。
そしてもうひとつの念願も叶い、ふたり、作家になりました。
…………………………
(弟にメール送信)
昨日ついに私は、生まれて初めてのプロポーズをされた。
もちろん、相手はKです。
拒絶など、するわけがない。
でも色々とクリアせねばならぬ事柄があるし、今さら急ぐ必要もない。
だから、とりあえず、婚約。
私たちは40年来の念願叶って、初恋のひとと結婚しました。
もうひとつの念願も叶って、ふたり、作家になりました。
と言えるように、頑張って図っていく所存です。
お母さんは結婚に反対だから、当分言わずにおく。
…………………………
(弟から返信)
今一度、冷静に考えよ
暴走を食い止めろ、と言われているからね。
即座ではなく、まぁ婚約くらいでいろいろ考えな。
…………………………
(T子返信)
了解。
婚約を楽しみながら、良い流れをつくりたい。
無理はしない。
Kは、私のアパートに一度も来ていない。
危ういときはあったが、転がりこんだらどうなるか、お互いわかっているから、そんな馬鹿なことはしなかった。
結婚に至らなくても、生涯の恋人と心が決まっただけで素晴らしい。