【2011 October】
●K君──昨日は植物図鑑を眺め、花の名前を書き出した。
今日は、『江戸の閨房術』(新潮新書)を書き写した。
隣に中学生の娘が座ったので、はらはら。
図版を見られてはまずい。
見せてはなるまい。
…………………………
●T子──
>隣に中学生の娘が座ったので、はらはら。
↑おかしい。目に浮かぶ。笑える。
☆☆
図書館ステイが癖になった?
そういう生活、いいよね。
☆☆
「海の向こうで戦争が始まる」を予約した。
今日も書けた。
…………………………
(毎日順調に連絡とりあっている。うれしい)

●K君──たまたま例として『海の向こうで戦争が始まる』を出したが。
解約せよ。
予約してまで読むものか。
T子ワールドに寄与しない。
同時代の池田マスオの方がありはしないか。
資質は近い。
多分、唐十郎とか、たけしとかに近い。
また怒らせたか!
…………………………
●T子──
>解約せよ。
↑図書館予約だよ。
☆☆
>池田マスオ
↑かつて読んだ。ピンと来なかった。
今なら、どうかな。
☆☆
>唐十郎とかたけしとかに近い。
↑誰が?
☆☆
>また怒らせたか!
↑怒ってない。
なに言ってんだか、まったく。
…………………………
●K君──ハードボイルドに拘りはあるか?
ローマンスハードボイルド。
…………………………
●T子──私が?
唐十郎、北野武に近いの?
何故そう思うのか、興味津々。
☆☆
ハードボイルド、好きです。
レイモンド・チャンドラー好き。
出てくる女が謎めいてる。
しかも非情。
☆☆
あとはよく知らない。
矢作俊彦含め、日本のハードボイルド作品は子供っぽい。
おとなの男という感じがしない。
☆☆
原点はダシール・ハメット?
リリアン・ヘルマンのパートナーだよね。
彼の作品は、いずれ読んでみたい。
☆☆
要は文体。
ヘミングウェイもそうだけど、簡素で短い文章で行動を描写。
ぐずぐず言わなくても内面が伝わる文章。
フィリップ・マーローはちょっと語るけど、彼はナイーブだから。
…………………………
●K君──それやりたいんだろ。
でも、主題は先人もいる。
おまえしか、書けないこと。知らないこと。だと思う。
それはそれでスタイリッシュ。
☆☆
出来る限り、対立概念に立ってあげる。
助言します、という意味。
でも、固茹で卵だろう。
…………………………
●T子──
>それやりたいんだろ。
↑やりたい。
YHM迷路、もうひとつのYHM迷路、いずれもスクランブルに組み入れた。
後者は固茹で文体やってみた。
…………………………
●K君──It’s good!
…………………………
●T子──スクランブル、書き終えた。
PCメール送信していい?
…………………………
●K君──送っておいてください。
図書館で勉強中。
…………………………
●T子──(「スクランブル・ラブ・ホテル」原稿を送信)
批判、提言、何であっても謙虚に受けます。
責めたりしないで、やさしく言ってよね。
…………………………
●K君──最後までたどり着いて、おめでとう。
エンドマーク〈了〉まで書き通すのは、大変なことです。
これはこれで、この時点での完成作品なのだと思います。
どうぞ寿ぎ酒を。
…………………………
●T子──え? もう読んでくれたの?
ご意見はないの?
…………………………
●K君──まだ。
感想は明日。
…………………………
●T子──さっき、ブレ○デン君から電話があった。
ほら、このまえドブ板で知り合って一緒に飲んだ男の子よ。
パパが肝臓悪くして緊急手術なんだって。
落ち着いたら横浜へ遊びに来ると言っていた。
英語個人レッスンしてもらうつもり、とウーちゃんに話したら、彼女もお願いしたいと言っていた。
…………………………
●K君──イッツ ハッピー!
…………………………
●T子──とりあえず書き終えたけど、全然ほっとしていない。
あなたに何言われるかと思うと、緊張が解けない。
…………………………
●K君──今日、松平盟子『たまゆら草紙』を読んだ。
くちなし月綾香月かぜふけば半透明にランジェリー乾く
ランジェリーすべりおちゆくたまゆらの うすべにいろの迷いたのしむ
女には女の事情ドライシェリー飲みほすまでに答えを決める
54年生まれだ。
…………………………
●T子──たまゆら 魂の揺らぎ?
たまごひ 恋の招魂の歌。
挽歌や相聞歌。
相手の霊魂を呼び迎えてわがものとすることが恋の成就を意味していた。
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●K君──拝読しました
「本人」としては、赤面の極み。
結局、「俺に対してのラブレター」です。
それを外すと、「愛と青春の旅立ち」。
あの時代、あの場所、男に惚れっぽい女がいた。
時代に翻弄され、それでも街に包まれて。
決して器用な生き方ではないが、それなりに逞しい。
スクランブルを渡り、迷路を抜けた。
しかしそこもスクランブルだった。
☆☆
出稼ぎの、言葉の通じないアジュモニとの会話はいいね。
☆☆
メイズの「龍」、夢は、難解。
2回目の飛び込みも唐突。
でも、あそこに『メイズ』を入れるのはよい。
☆☆
抽象概念語だけですませてはいけない。
具体な場面シーンでありたい。
☆☆
最初に同棲している男と最後に電話する男、読み手は混同するだろう。
時間差はあるのだが。
☆☆
処々薀蓄描写が長い。
それよりもディテールの描写を。
☆☆
韓国語はあるが中国語はない。
香港返還前という時代は、限定されている。
☆☆
マルクスの引用。
有効需要論のケインズって人もいる。
☆☆
香港の彼氏の背景がわからない。
広東語人なのだ。
☆☆
「アンドーさん」って描かれても、説明しないと。
胸の名札に<アンドウトロワ>とある、とか。
☆☆
女性に読んでもらうべきだな。
☆☆
『群像』という純文学ならば、これでいいと思う。
☆☆
ドブ板の話と併せて、ハードカバー1冊になる。
☆☆
本日のメインテーマは、読んで感想を送ること。
読後、酒を買いに行きました。
飲みながらメールです。
正午まで、PC繋いでおきます。
ご苦労様です。
…………………………
●T子──ご高覧に感謝
>「本人」としては、赤面の極み。結局、「俺に対してのラブレター」です。
↑K君は、私ほど異性への思いが深くないんだなと、ちょっと落胆。
人を好きになったことあるのかしら。
今さら赤面することないでしょう。
デートのたびに酒の力を借りて言ってしまった、聞かせてしまったことばかりなのだから。
それからね、これは唯一あなたに向けて書いたものではなく、性愛と官能に関しては殊に「だめんず好き」の女の心理を赤裸々かつ誇張して描くことで同好の士と「何か」を分かちあいたい、という思いで綴ったのよ。
当初の予定よりも「昔の男」の影が濃くなったのは、執筆期間にあなたの存在が身近にあったから。
つい、引っ張られるのです。
…………………………
●K君──アルファポリスの『週末鉄道旅行』ってのが、本棚にあった。
☆☆
私小説こそ、より客観的に。
と私小説芥川賞作家西村賢治が喋ってた。
まだ直してる?
…………………………
●T子──かつて映像の仕事をしていて、今あぶれてる人の書いた業界ネタ本もアルファポリスから出ていたなあ。
蔦王リライト問題なかったかどうか、担当さんに問い合わせ中。
きっと大丈夫。
返信あり次第、あなたにも伝えます。
☆☆
>私小説こそ、より客観的に。と私小説芥川賞作家西村賢治が喋ってた。
↑自分がそうせい!と言いたい。あのひと好きになれない。
☆☆
>まだ直してる?
↑締切ギリギリまで手元において加筆する。
今は距離おいてる。
☆☆
『新潮』に掲載の古川日出男を読んでる。
震災直後の福島へ行って、自作小説や歴史のこと考察するんだけど、あなたに読ませたい。
似てるよ、多分に。
…………………………
●K君──校正の仕事
実は、混乱しているところ、次々に気付く。
例えば、この気付く。
付く→つく。
心配。
…………………………
●T子──いいよ、些細なこと、心配いらない。
…………………………
●K君──分かち書ち、漢字ひらがな使用の不統一。
実は、これらはパート1に準ずるべきなのだが。
…………………………
●T子──パート1と2とで表記異なる、はアリ。
1冊の中で統一されていればOK。
これまで、そうしてきた。
1はあくまでも参考図書。
世界観つかんでもらうための資料。
…………………………
●T子──返信きた
以下のとおり。
☆☆
お世話になっております。
アルフ○ポリスの○○です。
到着のご連絡をせずに申し訳ありません。
まずは校正・リライト、ありがとうございました。
「蔦○2」の原稿を確認させていただいたところ、誤字脱字が残っている部分がありました。
今回初めてお願いした著者さんの作品だったのですが、T子さんとしてはどんな感触だったでしょうか?
お聞かせいただければ幸いです。
なんて言おうか?
…………………………
●T子──編集者はいつも私に感想を聞いてくるよ。
だから今回も他意はない、と思う。
率直な感想を伝えればいいよ。
…………………………
●K君──作品自体の世界観、感想なのか、文章文体用語方などの感触なのか。
世界観を掴むまでと掴んでからとでは、校正ポイントが異なる。
のちほど電話する。
…………………………
●T子──編集者に返信するから、早く!
確かに私がリライトした、とわからせる感想を述べよ!
…………………………
(電話あり)
…………………………
●T子──返信しました
以下の通り。
☆☆
○○様
お忙しいなか、ご連絡をありがとうございました。
誤字脱字の修正もれがありました件、深くお詫び申し上げます。
すみませんでした。以後気をつけます。
この作家さんは、かなり書ける方だと思いました。
多方面に知識のある方だとお見受けしました。
世界観がつかめるまで、ちょっと時間がかかりましたが、ナルニア国物語に似ているところもあり、世界に入ってしまえば、わりと楽でした。
ワープした先が中世ヨーロッパ風の世界で、そのあたりのロマンチックな感じが女性受けすると思います。
結末はまだ決着がついていないので、続編が楽しみですよね。
いい意味で「ひっぱるなあ」という感じです。
勝手なことをあれこれ述べまして恐縮です。
今後ともよろしくお願いいたします。
…………………………
●T子──『海の向こうで戦争が始まる』著者あとがき
この作品を書きあげた夜、あるバーでリチャード・ブローディガンに会った。「二つ目の本になる小説を書いたよ」そう言うと、ブローディガンは「ふうん」と横を向いた。この野郎、おめでとうくらい言ったらどうだ、と思ったが、彼はその時機嫌が悪かったらしい。もう一度僕に向きなおるなり、「大事なのはね、三作目だ」と短く言った。
「処女作なんて体験で書けるだろ? 二作目は、一作目で習得した技術と想像力で書ける。体験と想像力を使い果たしたところから作家の戦いは始まるんだから」
脱稿の酔いが、あっと言う間に醒めてしまった。そのバーからの帰り、昔の友達のことを思い出した。「俺が生きてる時は注射針が腕に刺さっている時だけだ。残りは全く死んでいる。残りは注射の中に入れる白い粉を得るために使うんだ」歩きながら、小説は麻薬とそっくりだと思った。
…………………………
●T子──新潮と群像からコピーして、あなたに郵送してもいい?
よろしければ、明日か明後日、手配する。
…………………………
●T子──ねえ
何か怒ってる?
謝っちゃう。ごめんね。
今月末ハロウィンの日に「スクランブル」を群像に発送。
翌朔日は万聖節・私の誕生日。
3日まで連休。
どこか出かけようよ!
ソウル?
あなたに考えてほしいな。
…………………………
(T子メモ)
ふたりの恋愛相性。
相性が抜群のふたりです。お互いの個性を理解することができ、相手を尊重し合えます。
行動的で、どんなことに対してもチャレンジしていけるあなたに対して、知的好奇心が強くアイデア豊富な相手です。
そんな価値観や考え方が根本的に違うにもかかわらず、一緒にいるとお互いが大きな力を発揮できる関係でしょう。
…………………………
(T子記す)
昨年10月末頃に再び関係をもってからの、この1年間に大きな変化があった。
私が小説を書き出し、出来がよかったこと、三田文学新人賞をとりそうになったこと、2作目を書いて群像に応募しようとしていること、作家になろうとしていること、それらにKが著しく反応を示したのである。
そして今年8月末に茅ヶ崎の開高健記念館へ一緒に行き、デートを重ねた。
この2ヶ月、Kは毎日のようにメールをくれるようになった。
電話の回数も増えた。
ふたりの親密度は増した。
Kは私に文学的提言を続けている。
しかし自らは書こうとしない。
書けずにいる状況ではあるが、書くことへの情熱はあり、私たちはそれを共有している。
成長していこうとしている。
…………………………
(T子記す)
明らかにリビドーが高まっている。
自分でして、ぶっとんでいる。
身体が変わってきていることを感じる。
下腹部の内側がうずく。
性的ファンタジーはKへの恋慕でふくらんでいる。
「もうほかの人とは寝ない」とKに言った。
その気持ちに偽りはない。
だが心とは裏腹に、毎晩のように、いろいろな男の夢を見る。
リビドーが昂進しているのだ。