恋愛かくれんぼ

恋愛かくれんぼ・デートノート2011㉔

投稿日:2021年7月26日 更新日:

【2011 December】

●T子──講○社新書の原稿仕上げた。

明日は休み。

明後日から三田向け小説書き直しにかかる。

タイトル「束の間パラダイス」にしようかと思ってます。

●K君──薫の映画見つけた。

音楽。

ラストに出演。

サックスを吹く『夕焼け小焼け』。

川崎多摩川河原。

薫が練習をした場所とみた。

今年33回忌か。

誰か知らないまま、深夜の電話の短い会話。

何を話したんだろう。

ぼそぼそと「女なんてくだらぬえ、早く別れてしまえ」。

そんな言葉を聞いた、気がする。

あの時点での、もはや死の直前の薫を考えると、正しい想像だろう。

薫が亡くなって、薫を知った。

すでに充分に伝説だった。

80年、12月。

J・レノンが射殺された暮れ。

新宿ゴールデン街はずれの飲み屋の2階に上る踊り場に、いた。

薫の遺影だった。

☆☆

『エンドレスワルツ』おれもプロデューサーとして映画化したいと、若松孝二と飲み明かした話は、あとがき。

☆☆

多摩川六郷橋で33回忌をやるところから、はじめるか。

フリージャズのままに死を選んだ。

清志郎のように癌じゃなくてよかったね。

いづみはビリーホリデーか。

清志郎にチェルノブイリ批判の曲がある。

清志郎の高校の同級生が三浦友和。

百恵というアイコンも浮かぶ。

…………………………

●T子──阿部さんが河原でサックス吹く映画は、たしか若松プロの作品だよね。

別作品では、いづみさん全裸で、やはり河原で男に抱かれていた。

☆☆

阿部さん葬儀の日の葬送曲は、ジャズ仲間生演奏による「アカシアの雨がやむとき」。

いづみさんから聞いた話です。

☆☆

「なしくずしの死」というのは、阿部さんのアルバムタイトルか。

セリーヌからとったな。

☆☆

いづみさんが亡くなって、追悼本をいち早く出したのは白夜書房。

晩年に「写真時代」という雑誌で対談の仕事してたから。

末井編集長がムック形式で追悼まとめた模様。

阿部さんのときは、そういうのは、なかったみたい。

しかし今は、文遊社から出ている。

『阿部薫1949-1978』

『鈴木いづみ1949-1986』。

2冊とも、すでに私は手放したが、図書館にある。

☆☆

いづみさんはGS好きで、阿部さんの音楽にはあまり興味示さなかった。

ただ、彼の奇矯な行動と、やたら難解で哲学的もしくは宗教的なことを口走ったり思い詰めていたりするところに眩惑されていたと思う。

☆☆

阿部さんのサックスに「やられた」人が多いのは、あの時代に、ああいうスタイルで、あんな音を出す人がいなかったから?

今は、もっとすごい音を出す人、たくさんいると思うけど。

私の耳には、阿部さんそれほど「こない」。

聴いて切なくなる、たまらなくなるサックス奏者は、ほかにいる。

☆☆

阿部薫はなぜあの時代のアイコンとなり、伝説的存在となったのか。

あなた、それを書こうとしているの?

たぶん違うよね。

阿部薫という男がいた。

鈴木いづみという女がいた。

跳ねて、墜ちて、散っていった。

その散り際、自分にこんなものを残した。

と、その残されたものを描くのがいいんじゃない?

…………………………

●K君──末井明、な。

(↑違うよ、昭だよ!!)

薫に対して、いま思うのは、「生き恥さらさなくてよかった」な。

生きるとは、恥さらして生きてるわけよ。

フリージャズを追求すれば、あの結果。

生き延びて坂本龍一になったか、やったか。

「男の美学の究極は、野垂れ死に」

薫は嘯いた。

純だった。

薫の音を、録音再生して聞くことは、そこに評価をすることは無意味だ。

その状況の「一回性」にしか、意味はない。

その一回性という絶対性を生きた。

☆☆

恥じる。

恥じるから薫を思うのか。

☆☆

「33年の夢」は雲衛門。

孫文革命を応援した誰だっけ、名前がでない。

☆☆

どれを書くか?

どれなら成立するか、ではないのかなあ。

今なぜ薫なんだよ!

いづみさんなの?

それは明確にしないといけない。

そう思う。意識として。

☆☆

補助線として百恵を置くか。

さらに補助線として清志郎。

媚びる。

「ファイティング80」

☆☆

薫がいったあとの、いづみは山下公園にいるのか。

生きていれば還暦になるはずの、「せいしゅん」に還暦間近がふれてみたい。

その謎は、田戸台での深夜の電話だ。

…………………………

●T子──あなたは「生き恥さらす」が痛いのか。

私は「愚行を重ねてしまう」が苦しい。

…………………………

●K君──生き恥

さらすの好きです。

今夜の生き恥はこれくらいで。

…………………………

(T子記す)

なによ、と泣きたくなった。

だがすぐに電話あり、30分ほど話す。

Kが書こうとしている小説について、そして阿部薫と鈴木いづみについて話す。

作品のイメージを明確にするために私が話し相手になってやろう、と。

結局、Kの私小説クロニクルになるだろう。

それでいいのだ。

Kは言う。

この35年、折に触れ、自分の出所である横須賀に、磁場に引き寄せられるように思いが戻っていく、そのとき強烈に浮かび上がる記憶の一つが、阿部薫との会話(これがまた強烈に東京新宿に呼び寄せる力でもあった)、いづみ、百恵、そしてもちろんT子、クロニクル小説の点景として諸々を使えばいい、あの時代を描けばいい、自分自身を描く小説であるが、時代批評の要素があっていい。

その後の80年代、TVK番組で出会った宇崎、清志郎、佐野元春など、そして東京へ出てからの映画界漂流、プロデューサー稼業、日活就職、石井監督との出会い、を経て、落魄の現在から過去を照射する。

阿部薫はインプロビゼーションに生きた、そして死んだ、それでよかった、そうしか生きようがなかった、薫といづみ、あのふたりは熱くて、クールで、ぎらぎらしていて、つんのめっていて、そんな彼らにみんな惹かれた、昂奮した。

俺は忸怩たる思い。

私は言う。

全共闘世代の多くが彼らの夭逝を賛美したり、羨ましがったりする傾向にあるが、私は違う。羨ましがる人には、あんた本気でそう思っているのかよと言いたくなる。

あなた、表層的に書いてうまくまとめてしまわずに、本当の気持ちをこめて書いて、読者に肉声を聞かせて、熱と空気を伝えて、それには文体が大事。

俺一人で三十三回忌をやるという描写、これで誰のことを言っているのか、わかる人にはわかる、薫は彼、いづみは彼女という表記、これなら問題ないだろう、とK。

それでいい、「エンドレスワルツ」はいづみさん自身が語っていたことや書いたことを基に、さらには関係者に聞き回って、薫いづみのプライバシーを暴いたが、あなたは自分を書くのだ、と私。

おまえとの関係をどう書くか悩んでいる、「あいつ」と書く。

いいよ。

どう書けばいいか、わからない。

あいつがこんなことをした、あんなことをしたと情景を書けばいい、あいつのことがわからない、でいい。

おまえの存在から、いづみを引っ張り出す。

☆☆

「エンドレスワルツ」は唯一、俺がプロデューサーとして能動的にやりたいと思った内容。

だから今、あなたが書くのだ、これまでの思いを全部ぶちまけてしまえ、あなたは私よりでかいことやるかもしれない(と言って励ます)。

自分にひきつけて書く、しかし、おまえとのこともそうだが、どう書けばいいかわからないことがある。

(↑K君よ、いい機会だからよく考えてくれ。あなたは私をどう思っていたのだ、本当のことを書いてくれ)

話は尽きないが、最後は「また報告する」とのことで会話を終えた。

…………………………

(再び電話あり)

もし若松プロに入っていたらどうなっていたか、今とまったく違っていただろう、だが俺は日活という商業資本に流れた、これを告白しておきたかった。

私に告白してもしかたない、書いてくれ、ついでに言うと、司馬遼太郎と平岡正明は女性が読みたくなる人文地理学だよ、ああいうのも書いてほしい。

●K君──図書館へ行く公園。

(黄色い銀杏の葉が並木道いっぱいに敷き詰められた風景写真が送られてきた)

…………………………

●T子──平岡さんの本を8冊予約。

たちまち届く。

さすが地元図書館。

読み出してすぐ、「K君このフレーズ使えるじゃん」の箇所がいくつか目にとまる。

「19歳の自分、という測定器の目盛」

「俺はすでに俺だった。その薄情さでも」

など。

☆☆

さて、「MOVE YOKOSUKA」誌を作っていた当時、竹○○枝さんがK君の原稿を評して、私に言った。

「シャープだよね。平岡正明みたいな感じ」。

私は応えた。

「似ているところはあると思う。だけど今は、言葉が足りない。書ききれていない」。

☆☆

ある夏、しばらくの間、あづさをあずかっていた。

海へ連れていったときの写真があるはず、と探したら、出てきた。

私がボートを漕ぎ、あづさを乗せている。

まだ十にもなっていない。

すっかりなついて、満面の笑みで私を見ている。

ちょっと涙。

☆☆

あづさは天然ぼけ。

しかし、その母いづみさんは…。

あれほど「荒ぶる女」を私はいまだ他に知らない。

そばにいると、こっちも昂奮してくる。

そのうち、鬱陶しくなり、げんなりする。

私だけでなく、おそらくみんなそうだったと思う。

彼女は、生きづらかったことだろう。

いづみさんは自分を話題にされること好きだったから、あなたもせいぜい作中に取り上げてほしい。

賞賛、でなくていい。

「忘れていない」、があればいい。

…………………………

●K君──池中から大津、横浜国大、連合赤軍。

殺された大槻節子がいる。

彼女の残した日記『優しさをください』再読。

彼女も「忘れて」はいけない。

アンフォゲッタブル。

節子に涙しているところへ、あづさ。

また、泣ける。

その写真貸してね。

正統性の証明書だ。

『エンドレスワルツ』読んだ。

いづみさん横須賀にいたのか。

どこの小学校か知ってる?

リリーっていう、いづみと同い年の人は?

…………………………

(電話あり、話す)

↑の質問に、私は記憶が薄いので質問に答えられない。

いづみ本にあたって調べることにした。

…………………………

●T子──おはようございます。

今日、川崎と言ってたわね。

日ノ出町まで足を延ばす気はある?

野毛よ。

あなたは私について知らないこと多いから、まとめて聞き出す機会を設けるべきだと思うけど?

私、今日ならヒマ。

…………………………

●K君──その想定、おりこみずみ。

品川駅。

京急の自由乗降パスを買おうか、迷っていたところだ。

(六郷土手の写真2枚を送信してきた)

…………………………

●T子──川崎の風景は、かなり憂鬱。

日ノ出町へは、まだなの?

私もう出られる。

…………………………

●K君──15時20分。

関連記事→恋愛かくれんぼ・デートノート2011㉕

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