【デートノート⑩ 2012.1.31〜2.2 43時間】(前編)
(T子記す)
井土ヶ谷駅隣の書店で『横須賀歴史読本』『読めますか?小学校で習った漢字』を購入。
改札口横で本を見ながら待っていると、Kに「T子ちゃん」と声をかけられる。
「髪切ったのね」と言われるが、切ってない。コートの襟に隠しているだけ。
それよりもK君のほうこそ、床屋さんに行ったのかと思った。
疲れているのか、また老けた。
食欲は戻ったはずなのに、また痩せた。
しょぼくれてる。
昔の彼じゃないみたい。
別人?
なんだか急にテンション下がる。
そのせいで気分モヤモヤ。
さみしいような侘びしいような虚しいような。
いつも単純明快で気分クリアな私なのに。
(と翌日飲みながら愚痴ったところ、「もう50代なんだから考え方(見識)がクリアになっていないといけないよ」とKに諭されてしまった)
☆☆
Kも駅前の書店を覗いた。
昭文社の地図を求めているが、ない。
☆☆
蕎麦屋「志」で飲む。
丸干し、あじタタキ、天麩羅、その他。
Kはごはんも食べた。
「この店のコたち、器量も気立てもいいんだよ」と教えると、「それじゃTちゃんみたいじゃん」とK。
☆☆
会話のメインは、武山について。
時々Kが言う。娘たちは俺のことわかっている、お金稼がなかったけどいつも本読んでいたよね、書いていたよね、と言ってくれるだろう、息子はちょっと違う。
娘さんたちは(女だからやはり現実的だろう)、あんたが作家として稼ぐようになってこそ認めるはず、私はそのようにもっていきたい、と私。

コンビニに立ち寄り、アパートまで歩く。
このまえの雪が降ったときのことを話題にするK。
こっちは積もらなかった、もし積もったらうちから出られない、あんな急坂ころんじゃう。
☆☆
帰宅。
Kの第一声は「おまえきれい好きだな」。
そしてKは例の自作ラブソングを口にする。
私は、「歌詞が意味不明。いい気なもんだ」と受け流す。
T子ちゃんと結婚すると思ってた、とおふくろが。
(その話はもう何度も聞いた。人を持ち出して間接的にしか言えないのか)
☆☆
私はPCメールをチェックし、○○先輩からの返信をKにも見せ、ふたりで笑う。
同タイトルの類書があるのに、そのタイトルで企画書つくらせたのか、と。
先輩やる気ないのかね、仕事できるひとじゃないね、腹が立つのはT子をぬか喜びさせたこと、とKは言う。
すぐ喜ぶんだからよ、ばかだから、とK。
喜んでないよ、それほど計算してやったわけじゃないけど、この企画なら他社にも持ち込めると思ってサンプル原稿をつくっただけ、と私。
あのサンプル、俺が編集者だったら完全に没。
まだ没と決まったわけじゃない、もうしばらく待ってくれという返信じゃん。
頭にくる、編集者のほうが偉いと思っているのか、なぜT子が今さらこんな仕事を(というようなことをKは言っていたような気がする)。
おまえ信じやすいな、もっと疑ってかかれよ。
いちいち疑っていたら疲れるもん。
俺の書いたものだけは疑ってかかるみたいだけど。
(↑私のリライト原稿を見たあとのKの感想なのでしょう)
☆☆
私がリライトした「武山」を読ませる。
なるほど、の反面、ここは違うという箇所もあり、とK。
そうなると二度手間じゃん、と私。
だからまだリライトするのは早いんだ。
じゃ早く原稿仕上げてよ。
ふつうの人なら何年もかかって仕上げる仕事だぞ。
☆☆
弟から電話あり、しばし話す。
Kは耳をそばだてていた。
「弟?」と訊かれ、「ううん」と答えてしまう私。
☆☆
買ってきたワインを飲む。
カナディアンクラブもだいぶ空いた。
ジェーン・バーキンをかけながら、飲んだ、話した、遊んだ。
詳細は記憶にない。
だが、ひとつ憶えている。
私はいつもこうやって遊ぶのよ、私といるとこんなに楽しいの、別れちゃった男たちは後悔しているだろうな、と言った。
ジェーン・バーキンをKも気に入った。
そばにいたら好きになっちゃうね、と。
男の子に電話するときは「ジュテーム」をBGMにするといい、と女友達に入れ知恵されたことがある、その当時のボーイフレンドは電話の向こうで「男が女を愛するとき」をかけていた。
おまえ、面白いネタいっぱい持ってるじゃん、そういうのを書け。
書かせてくれるなら、いくらでも書きたい。
☆☆
『Aサインデイズ』という映画、当初のタイトルは「男が女を愛するとき」だった、あの作品で俺は一番下っ端の製作スタッフ、だけど某シーンで音と演技がタイミングあっていないと指摘して撮り直しをさせた。
☆☆
俺が自発的にこの作品をやりたいと思ったのは、薫といづみの話だけ、あるひとに話をもっていって若松プロに出向いた、朝まで飲んで話したが、何を話したかまるで憶えていない。
☆☆
日活に勤めていたのは3年間ぐらい、債権者と話し合う際に肩書きが必要だからと部長にされた。
☆☆
薔薇、憂鬱、檸檬、私は漢字で書ける、これなら夏目雅子、篠ひろこ、松田聖子、全部私のものだね。
伊集院静か。
☆☆
俺が酒飲んでボロボロになるか、酒やめて少しは長生きするか、どっちが可哀想なんだろう。
可哀想だなんて思わない、あんたは好きなようにやってるじゃん。
あとどれくらい生きるのだろう。
18年。
(少なくともそれくらいは生きてもらわなくちゃ。もちろん、もっと長生きしていいのよ)
俺ここでは死なないからだいじょうぶ。
じゃ、どこで死ぬの?
☆☆
「沈香」だめか、先輩に企画書を送ってダメだったか。
今のままでは引用文の羅列、アンソロジーに過ぎない、自分の論述がなされていない、多忙な編集者に読んでもらうからには中途半端ではだめ、貴重な時間を奪うにはそれなりのものを提供しないと。
☆☆
Kは風呂にもはいらず、そのまま寝てしまった。
☆☆
その前に、ベッドの中で少しおしゃべり。
あんた頭いいんだか悪いんだか、仕事が早いんだか遅いんだか、わからなくなった。
Kは笑って、セックスがうまいか下手かもわからなくなった?と聞く。
それははっきりしている。
下手?
下手というよりも、サービス精神に欠ける。
3度目までは一生懸命やる、あとは知らない。
誰に対してもそうなの?
そう。
女性から苦情が出たことはないの? 私の数少ない男性経験からいうと、男はみんなもっと、情交にふけるよ、あんたは淡泊。
☆☆
おまえ脇の下の毛はもう生えないの?
うん、なぜか知らないけど生えなくなった。
(Kは私の脇の下に手を入れてさわっていた)
☆☆
あれは翌朝のことなのだろうか、セックスした。
耳の奥までなめられた。
部屋着の白いパーカーを脱がされた。
Kの恋情を感じた。
抱擁、キス、インサート。
ふたりともいかないけれど、「気持ちいいよな」とKは何度も言った。
☆☆
おまえバイブは使わないの?
前に男が買ってきたことがある、あれ使うとぶっ飛ぶけど飽きる、今はポテンシャル高まっているからバナナにコンドームかぶせてやろうかな。
そしてまた眠ってしまう。