【2012 March】
2012.3.14
(交信なし)
(私は読書に気をとられているので、Kから連絡がなくても平気)
(森瑶子デビュー作にして「すばる」新人賞受賞の『情事』を数年ぶりに再々読し、文体のすごさに気づいた)

2012.3.15
●T子──今日は仕事で朝から今まで、講談社○○さんと一緒でした。
双方あえて武山の話はしなかったが、彼は今いつにも増して多忙であること、ノンフィクションを手がけることもよくあるので歴史を再学習したいと思っていることなど、聞かせてくれた。
☆☆
さっき築地で、鯨ベーコン売ってた。
買わなかったけど。
…………………………
(Kから返信も電話もなかったが、私は早寝したので平気)
…………………………
2012.3.16
●T子──○○さんと話した。
あなたにはメールで伝えるよりも電話でと思ったのですが、つながらない。
私も今は取材で移動中。
なので、以下に○○さんから聞いたことを記します。
☆☆
彼は今、○○新聞に掲載された「レ○ル7」という記事原稿を単行本にまとめているそうで、それに匹敵する内容が欲しかった。(と言われてもねえ)
現在のあなたの原稿は、上司に「これでいきたい」と訴えるだけの焦点が見えない。
著者の個人的な話は必要か? と○○さんは言い、そのほかにも色々と言ってたが、私を介すると伝わりにくい。
ズバリ言って、現状のまま講談社からばらまき出版するのは厳しい、無理、というのが結論。
だが、○○さんは著者と会って直接ディレクションのような話はできるとのこと。
あなた、会っていただく?
現状は小さなネタが複数あり、絞りこんだほうが良い、そのネタを料理すればいけそうか?という話をしてもらいたい。
私は24日に○○さんと会うので、話の続きを聞く。
それ以外の日にあなたが面談するかどうか、希望は?
…………………………
(ホテルで取材中にKから電話あり、「かけ直す」と言って切る)
…………………………
(駅カフェより電話。つながった)
…………………………
(T子記す)
さっきはすみません、私のメール読んだ?
読んだ、あれでいい、先方の言っていることは理解できる、俺も同意見だから。
やはり武山原研にテーマを絞って、志村代議士のことを書く、その太い幹をつくってから、傍流として井上大将そのほかの話を盛り込むべきだということかな。
そうだろう、それはわかっていた。
月刊誌に連載するならこういうやり方もアリだが、講談社の単行本は全国一斉に売り出してしまうから、テーマを明確にしないといけない、それから、あなたが何者かわからないので、個人的な話題に読者をつきあわせるのはどうかと思うと言われた、あなたがまだ無名なので、その背景を描いても商品価値を認められないということだと思う。
わかっている、だから全編書き直す、組み立てなおす、文章力と構成力がだめだったと自覚している。
「文章力がない」とは言われていないが、構成は考え直したほうがいい。
佐野眞一「津波と原発」は新宿のおかまから書き出している、ああいう作品にはどうしたって負ける、勝てない、俺はそこを回避してしまって、ちゃんと自分の文章で書いていない、企画本のような形で引用に終始している、逃げてる、おやじのことも書いていない、Tちゃんはおやじのことをもっと書けと言ったが、やはり私小説の部分はやめにするべきだった。
小説を書くならああいうアプローチでいいし、私小説に事実を盛り込むという手法もあるが、今回はノンフィクションなのでそれに徹したほうがいいということでしょうね。
そういうことだよな。
でも、ああそうですかとこれで終わりにするのじゃなく、このあとどうしようかだよ、問題はそこだよ。
書くよ、負けないよ。
だったら会って直接話をしたほうがいい、先方は会ってくれると言っているのだから。
ちゃんと書いてからにしたい、今はまだ、会うのは失礼になる、会わなくても先方の言いたいことはわかる、俺もいろいろ本を読んでいるからわかる。
会うためのセッティングはしなくていいのね?
しなくていい、ここまでやってくれたTちゃんの労に感謝している。
引き続き書く、ということね、阿部薫にいくのではなく。
同じことばかりやってると飽きるから、いろいろやるけど。
○○さんに、「T子さんはこの企画にどう関わっているのか、単に原稿の橋渡しをしているだけなのか」ということも聞かれた。
(薦めるのは)なんで?ということだろうな。
私が企画段階からもっと深く関わるということにしようか、そうでなくても24日にまた○○さんと会うから話の続きをやる、その後も話をして引っ張っておくよ。
うん、そうしてもらえると助かる。
(そしてここで)、
愛してるよ!
(とKははじめて言った。私は少し驚いた。Kはたぶん追い詰められた気分でもあったのだろう。そうした気分高揚から思わず言ってしまったという感もあり、同時に、ちょっと軽い感じでもあり、友や仲間や同志に対して「愛してるよ」と言ったニュアンスもありだが、それもまた良し。愛してると言ってくれたことの意味は大きい。この一言で、私はまだまだ頑張ることができる。しかしあれは私をつなぎとめておくための一言だったのか。いや、私は考えすぎだ)
…………………………
(T子メモ)
愛してるよと言われて、私はちょっと笑った。
そして、身体は大丈夫なの、気をつけて、と言った。
大丈夫だよ、こういうふうにはっきりすれば俺はすっきりする、納得する、闘志が湧く、とK。
オーケー、それじゃ、またね、バーイ。
…………………………

2012.3.17
●K君──
共同で
幻想持てた
日々のあり
…………………………
●T子──
吉本隆明がいた時代のこと?
最近の我々のことでもある?
夢と幻想を叶える過程はエキサイティング。
…………………………
(T子記す)
連休。あいつを少し休ませたい。私はあいつのそばにいたい。
と思うが、私は雑誌の仕事で連日忙しい。
仕事に頭をとられて、あいつのことはさほど考えずにすむ。
K君、酒タバコ控えてよ。
うるさいやつだとお思いでしょうが……
…………………………
●T子──あなた、大丈夫?
何か書いている?
今ふと、今朝のメールを思い出して、不安になった。
…………………………
(T子記す)
Kは、私に助けられて生き延びるのがもういやになったのかもしれない。
連絡を絶つつもりなのではないか、と不安が胸を過ぎる。
メール返信がないので電話をしてみたが、通じない。
☆☆
うらぶれた狭い部屋で 泣いている おまえを置いて
なけなしの金をつかみ 安い酒をあおる俺のことなんか
忘れちまいな それが身のためさ
白い花びら 散らした夜を おまえが憎む その前に
通り過ぎた男だと 割り切れば なんでもないさ
やさしいおまえだから 悪い夢の続きを見ることはないさ
捨てちまいな それが身のためさ
白い花びら 散らした夜を おまえが憎む その前に
傷つけた そのぶんだけ 幸せを見つけておくれ
この部屋を出ていくとき うらはらな 俺の愛のあかしなのさ
忘れちまいな それが身のためさ
☆☆
(↑何を勝手なこと言ってやがると思うが、耳に残って仕方ない、この歌詞)
…………………………

2012.3.18
●T子──連休。
あなたを少し休ませたい。
私はあなたのそばにいたい。
と思うが、雑誌の仕事で連日忙しい。
仕事に頭をとられて、あなたのことはさほど考えずにすむ。
「のっけからノンフィクション」という意識で臨めば、書き直しの方向はっきり見えてくるよね。
残る問題は、「軍転法と武山原研」というローカルなネタがどれだけ注目を集められるか、ということかしら。
酒タバコ控えてよ。
うるさいやつだとお思いでしょうが……
…………………………
●K君──心配無用。
原研の話は、ドキュメンタリーならば、志村含めて取材。
ミステリーの遠景だったら、ネタ。
落とし前、短歌物語「武山挽歌」「武山断想」で、遊んでる。
…………………………
●T子──あなたは日々、気分も考えも変わる。
書く仕事をうまくいかせたいなら、(とりあえず)編集者が求めているものに応えること、だと思う。
…………………………
(T子記す)
Kは身勝手、そのうえ、分からず屋だなあと思う。
少し距離をおこう、と自分を戒める。
どこまで実行できるか心許ないが。
☆☆
なんだか急に恋しさも冷めて、以下の文面、送信こそしないが書いてみた。
☆☆
思い立ったが吉日、なので伝えます。
つきあい方を変えましょう。
送金打ち切り、にさせてください。
だったらおまえとはもう終わりにする、ということになってもやむを得ない。
☆☆
しかし、↑そんな早まったことして後悔しないか?
まずは連絡を控えてみること。
群像、すばる、三田文学、アルファポリスの結果を待ってからにしたほうが良いのでは?
…………………………
2012.3.19
●K君──まことに
連休はつらいなあ。
…………………………
●K君──無題
バーガーキング パック酒飲む ごめんなさい ピクルスだけを 肴でくれよ
…………………………
●T子──言うまい、と思っていたが。
あなたが金欠になる前に苦言を呈す。
新聞・雑誌・書籍は努めて図書館で。
節煙・節酒は身体に良い。
食事はちゃんとするべし。
…………………………
●K君──さん、きゅ、ー。
…………………………
(T子記す)
雑誌の仕事で頭ぐちゃぐちゃ。
加えて、単行本代筆の依頼がまた1本入った。
5月連休明けまでに2本書かねばならない。
ライトノベル執筆も半分残っている。
当分、Kと遊べないわ。
仕事に没頭していると、Kのことはあまり考えない。
好きは好きだけど、もう夢中になれないという気さえしてくる。
Kの「武山」がうまくいかなかったことや、書く仕事に対する姿勢にいくらか失望を覚えたことも一因となっているのかもしれない。
この先どうなるのかなあ。
恋心、ぶり返すかな。
それとも、このまま沈静していくのかな。
☆☆
私たち、一緒になれるのだろうか。
仮に現状のままいったとしても、末娘さんが大学を卒業する4年後には、Kも家庭から解放される、あるいは見放されるのだろう。
変化は必ず訪れる。
☆☆
それにしても、Kには借金がいくらあるのか。
それが大きな問題である。
そしてKはいくら稼げるのか。
それも大問題である。
私の仕事がうまくいって余裕ができれば、うるさいこと言わずに面倒みたい。
そばにいられるだけで幸せ、と思い続けてきたけれど、果たしてそれで楽しい暮らしが送れるものだろうか。
よくわからなくなった。
☆☆
駄々っ子ちゃん、蜜月は終わったのかしらね。
1年半、いや正味半年しか続かなかったよ。
だけどあなた、少しは燃えて蕩けたでしょ。
私はさらにすごかったけど。
今はその炎も鎮まって固まりつつある。
これから、どう仲良くしていけばいいのだろう。
連絡とりあっていきたいよ。
そしてたまに会って遊ぶくらいが丁度いいのかな。
結局、今と同じだけどさ。
☆☆
無理して一緒になることはないのだろうね。
私はあんたの奥さんのような苦しい目にあいたくないの。
好きで一緒になったはずなのに、亭主を重荷に感じて嫌いになったり、亭主に疎まれて逃げ回られたりするなんて、さぞつらい毎日だろう。
奥さんのこと、気の毒に思う。
☆☆
あんたも大変だろうけど、自業自得とも言えるよ。
だってあんたは、やりたいようにやってきたし、今もそうしているじゃん。
これからも、それが続くのかな。
続けられるものならば、だね。
☆☆
私は当分の間、忙しい。
休みなし、です。
つらい。
…………………………

2012.3.20
●K君──飯
食わしてくれない?
…………………………
(電話で話す)
(T子記す)
資金援助をしても、これでは意味がない。
あなたが計画性をもってくれるなら、私もできる範囲で応援するのに。
雑誌の仕事が忙しかったが、やっと一段落したので、あなたは今後どうしたいのか、話を聞いてあげるよ。
…………………………
●T子──こっちに向かってる?
何時になる?
駅で待つよ。
…………………………
●K君──日吉。
…………………………
●K君──京急。