【デートノート⑮ 2012.4.25〜4.27 42時間】
(T子記す)
Kが携帯電話不調だというので、auショップへ。
Kは私と無料通話できるようにするためにauに機種変更したのだろう。
それをKは認めようとせず、携帯を服のポケットに入れたまま洗濯してしまった、販売店で新機種への変更を促された、在庫処分の目的で支給された携帯はすぐ壊れると思っていたが案の定壊れた、などとこじつけていた。
携帯の修理は井土ヶ谷店ではできず、購入した店ですることになった。
しばらくの間は携帯電話を使えないかもしれないね、と私。
別に困らないじゃん、とKは言った。
(おまえと一緒にいれば、携帯を使う必要もない。そう言われて、少し嬉しかった)

☆☆
Kは単行本代筆の仕事はもうしたくないと言った。
それではお嬢さん芸ですね、誰かに生活の面倒をみてもらって趣味で書いていくのね、と私。
それでいい、金をもらう相手が出版社か人かの違いがあるだけ。
私にできるなら、そうしてあげたいけどね、と伝えた。
☆☆
井土ヶ谷マルエツで不二家ネクターと酒を購入。
スーパー入口前のベンチに腰かけ、飲みながら○○本について話す。
既刊本から流用する原稿と俺の原稿は噛み合わない、既刊本原稿を読んでいると腹が立つ、それで毎晩おまえに電話した。
私にあたらないでほしい。
主題を明確にするために編集者と打合せしろ、俺の原稿を送って、この方向性でいけるのかどうかを確かめろ、と直接の依頼主(つまりT子)に言いたくて電話したのだ、とKは息巻いていた。
☆☆
中華発来でチャーシュー、ワンタン、肉野菜炒め、燗酒。
隣り合って座った。
Kいわく、○○本の企画意図が見えない、編集者は馬鹿だ、○○の言うことにも共感できない、納得できない、金に目がくらんでこんな仕事をしてしまった自分が情けない、ライターの仕事はもうやりたくない。
だったら離婚して生活保護を受ければいいじゃん、単身者になればそういう手もあるでしょ、と私。
(Kは否定せず)
生活保護を受けながら仕事の斡旋もしてもらえるらしいよ、割のいい仕事があるらしい、と私。
☆☆
Kは連休中に横須賀の母上を訪ねる計画はやめたとのこと。
娘さんたちを連れていくべきだと私が勧めると、大きなお世話だと言われた。
☆☆
いずれ実家を処分して残ったお金は、妹が受け取る、おにいちゃんはお父さんからずいぶんお金もらっているからいいでしょう、と言われているとのこと。
☆☆
Kは不平不満を訴えながらも、「橫浜のチャーシューはうまい」と喜んでいた。
私もくつろいで食事ができた。
☆☆
Kはレンタルビデオショップで『Aサインデイズ』を借りようとする。
しかし在庫なし。
他作品を2本借りる。
おまえと一緒に映画を観たこと一度もない。そう言ってもらえて嬉しかった。
しかし結局、Kが持参したPCを使っても映画DVD再生できず。
一緒に映画鑑賞する夢は叶わなかった。
☆☆
コンビニで買い物。
レジに並んでいるとき、Kが私の肩に腕をまわしてきた。
機嫌よろしいようだった。
☆☆
1晩目は何事もなく過ごした。
しかし時々口論になりかける。
「おまえばかだから」「ばかだから理解できないだろう」という台詞を何度となく聞かされた。
☆☆
嘘で固めた下らない本をつくるのはもうやめにしろ、やめさせろ、とK。
いいじゃん、言論の自由だよ、と私。
それで切り返したつもりか、おまえごまかすな、「これはわたしの本じゃなく著者の本だ」とか、「仕事だから」とか言ってるんじゃねえ、おまえが書いたんだからおまえの本だ、仕事だからと割り切って手を抜くな、いいかげんなこと書くな、ゴーストライターの仕事なら作文のうまい小学生にやらせればいい。
あんた、私が頭いいから嫉妬してるんでしょ、私の文才にも嫉妬してるのかしら。
おまえは文才ない、俺は文才がある、おまえは馬鹿で単純でいいなあ。

☆☆
翌朝、私は少し仕事をした。
佐○○雄本の原稿執筆、A4判で2枚。
☆☆
Kに緑茶を淹れてあげた。
寿司が食べたい、ずっと食べていないと言うので、出かけることにした。
☆☆
寿司屋で一杯飲みながら楽しく過ごしたが、Kは私に相談があると言いだす。
なかなか切り出さないので、促してみた。
家に15万入れたいので、約束した残りの金を用意してくれ。俺の気持ちとして、女房と喧嘩してはいてもそうしてやりたいのだ、とのこと。
(女房と家族を大切にするために、私に犠牲を求めている。頭にきた。傷ついた。でもこの場ではそれを示さなかった)
12万か14万まとめて渡したら、そこで打ち止めということにしていいのね?
そういうことになるかな、印税入金は9月だから、それまでバイトするかなと思っている。
そうしなさいよ。
☆☆
カレー専門店でテイクアウト。
☆☆
帰宅後も平穏に過ごした。
Kは日活時代の武勇伝を語って機嫌がよい。
入浴しようということになった。
Kが先で、私はあとにした。
服を脱いで全裸になると、「T子こっち来い、見せろ」と言う。
私は嬉しかったが、応じなかった。
☆☆
Kがつかった湯に私はひたった。
☆☆
セックスについての会話。
俺おちんちん小さい。
そんなことない、若い頃は先端が太くて大きかった、私が10歳も年上だったらさぞ楽しめただろう。
☆☆
俺はセックスおざなり。
あんたよりも○はもっとおざなりだった、イ○ポのくせに、だけど味がいいかどうかを敏感にキャッチする男だった。
俺と似てるじゃん。
そう、似ているところのあるタイプだった、だけどあんたは私をだましきれない、○のだましのテクニックは手品みたいだった、あんたにはできないだろう。
俺は、いじめてもしょうがないと思ってるから。
☆☆
(Kは酔いの勢いも手伝ってか、冗談まじりに言う)
金、あるだけ引き出すぞ、と。
かわいい、でもあんたにはできっこない、詐欺師というのは、まず自分をだます才能がある、と私。
(このとき、私はうっすら気づいたのだと思う。Kと復縁したのはいいが、○のときと同じ愚行を繰り返していると。私は都合よく利用されている。あのときと異なる点は、Kがものを書く人であるということ、私はKじゃないとだめだということ、ほかの男は要らないということ)
☆☆
俺、最初の3回までは一生懸命やる。
あんたと最初にセックスしたときどんなだったか覚えていない。
おまえまだ子供だった。
☆☆
編集者から電話およびメールあり、○○本のタイトル変更が知らされた。
Kは自分の原稿が通らないのではないかと危惧していたが、私がリライトしておいたので無事に通った。
☆☆
Kの求めに応じるかたちで、編集者と原稿内容について話した。
その結果、Kも多少は満足したようだったが、いろいろ話しているうちにゴネだし、怒り、ついには怒鳴った。
俺はどんな仕事に対しても真剣、誠実、筋を通す、おまえらみんな仕事をなめてる、俺もなめられた、解読しづらいインタビューデータや資料と格闘した俺の2週間は何だったのか、俺の2週間を返せ、200万よこせ。
そしてKは、私たちライターが書いた既刊本データのプリントアウトを読み上げ、「なんだこれは!! まったく意味のないことを書いている。嘘だらけだ。仕事をなめてる。人をなめてやがる」と怒鳴って、老眼鏡を窓硝子に投げつけた。
私も怒って、資料ファイルを掴んでKを叩いた。
「人の気も知らないで!!」と言ってやった。
☆☆
Kは「どんな仕事も筋を通すべきだ。俺はそうしてきた。それで食えないなら仕方ない」と言うが、その自負心に私は共感できない。
Kはライターとしての資質に欠ける、との思いもある。
骨太の企画を構想する力がありそうだと感じることはあるが、構成力と文章力が弱い。
ライター稼業で巻きかえしをはかろうという意欲がないことも問題である。
☆☆
このままでは、Kは完全にヒモになってしまう。
今すでにしてそうなのだが。
☆☆
それにしても、私のお金でKの家庭の面倒までみるのは筋が通らない。
☆☆
Kは痩せた。白髪が増えた。人相が悪くなった。
燃え尽き症候群とでもいうのか、あるいは失業中の屈辱感と挫折感に冒されているのか、世をすねている。
「やることはやった、長生きしたくない」と何度も言う。
☆☆
私が求めていたものは、もう手に入らない。
持ち主であるK自身が失ってしまったのだ。
失業、失望、失恋。
☆☆
○○本の件で文句を言い続けるKに、「その話はもうやめよう」と何度も伝えた。
「しつこいわね」と怒りもした。
「こっちに来て」と甘えても、「そうはならない」と拒絶された。
私も酔っていたので、せめてもの思いで、隣に横たわるKの身体に触れていた。
ねえダーリン。
ダーリンって呼ぶな。
(私はショックを隠し)あなたダーリン、私サマンサ、あなたゴールデンウィーク中はずっとここにいればいいじゃん、日中は図書館かネットカフェで書けばいい、武山の図書館に通って志村議員について調べることもできるでしょ。
往復の交通費が高い、そうしたくない。
(と却下されてしまう)
☆☆
Kの首筋にある血管2本の結束点に小さな瘤を発見。
リンパ節なのか? 悪いものじゃないといいけど。
そのことを指摘すると、「そういうものがあることは知っている。だけど病院には一切行かない。どこかしら悪いところが見つかって入院させられる。(首筋血管のことなど)そういうことは奥さんが気づくべきだよな」とKは言う。
(私もそうは思うが、なぜここでKは奥さんのこと持ち出すのか、奥さんの無関心を不満げに言うのは、じつは期待しているということではないのか)
☆☆
Kの肘、ふくらはぎに、細かい血管が紫色になっている。
血流が悪いために、足がしびれるのだろう。
酒と煙草、運動不足のせいだ。
1日10時間も書き続けるのもよくない。
そんなことをするから、燃え尽き症候群のようになってしまうのだ。
☆☆
Kは長生きしたくない旨の愚痴を繰り返す。
「やることはやった。あとは死ぬだけ」と言われて、私はどう対応していいかわからない。
あんた、奥さんや他の女の前でもそんなふうなの?
女房には、こんな話もなにも一切しない。
☆☆
借金を返すためにだけ生きている、と言うK。
その切羽詰まった気持ちはわかる。
返す気があるだけ偉いとも思う。
だが何としてでも働こうとする意思がない。
仕事がない、就活しても断られる、そんな厳しい状況下にあることは同情するが。
☆☆
俺は孫の顔を見たいわけでもない、子に名前をつけるときは、とても傲慢なことをしていると思った、だが子供たちはみな名前の通りの子に勝手に育ってくれた。
(そんなこと聞かされて、私がいい気分になるわけがない)
☆☆
俺が残した日記ノートをおまえに送ろうかと思ったが、おまえは読んでも理解しないだろう。
短歌のねえちゃんのほうが理解するというの?
そうかもな。
だったら送ればいいじゃないの。
送らない。
(そう明言されても、私はおもしろくない)
☆☆
以前、肺気腫を発症したときに軽い脳梗塞を併発したのかもしれない、足がしびれている、とKが言うので、隣に寝たまま、足裏マッサージをしようと触っていた。
するとKは、不機嫌そうに何事か言った。
その一言で私はキレた。
何と言われたのか記憶定かでないが、とにかくキレた。
帰ってよ!! 今すぐ!! さっさと!!
(声も口調も乱暴になった)
☆☆
見返り(愛情表現、セ○クス)も満足に与えられないまま、一方的に尽くすなんて、ばかばかしい。
怒りを覚えた。
☆☆
「出て行けってことだな、女房と同じだ」とKに何度も言われ、私はいやだった。
☆☆
「おまえ、そんなことできる子だったの?」とKは小声で言った。
☆☆
Kは私が急にキレたと思っているようだが、じつは寿司屋での会話から怒りがはじまっているのだと説明した。
Kは執筆に入るたびに大騒ぎをする、ライター仕事で稼ぐ意思がない、Kがそばにいると私は仕事に集中できない、つねにKのわがままにあわせてやらないといけない、それにKはさっき○○本の件で暴れた、そうした諸々が私にとって少なからずストレスであり、不満の種となっているのだ。
☆☆
Kは「もう会わない」と半ば疑問形のようなニュアンスでつぶやいてトイレへ行き、しぶしぶといった様子で支度をして出て行った。
私は解放感を得て、ベッドで身体を休めた。
☆☆
しかし、しばらくするとKが戻ってきて呼び鈴を鳴らす。
しつこかった。
「寒いよ〜」と情けない声がする。
無視した。
Kは、しつこく繰り返す。
30分以上、いや1時間近くも、呼び鈴が鳴り続けた。
だがあまりにしつこいので、ドアを開けた。
電車賃もないの?
電車賃はあるけど電車がない。
それは知ってる。
とドアを閉めた。
なおもしつこく呼び鈴。
私は再びKを迎え入れた。
「始発まで」という約束で。
Kは部屋に入るなり態度を変え、怒った、すごんでみせた。
私は「警察を呼ぶ。弟を呼ぶ」と脅した。
そして、携帯電話でKを殴った。
Kは殴り返しこそしないが、「俺もやり返すぞ」と私を睨み付ける。
それから、「おまえも1時間外に出てみろ」などと理不尽なことを言う。
☆☆
Kはゴム草履を履いていたので足裏が汚れている。
「そんな汚い足でベッドに入らないでよ」と、きつい口調でののしった。
「女房と同じことを言う」と聞かされて、私ますますおもしろくない。
☆☆
Kは、「おまえに殴られて指の骨が折れた」(といちゃもんをつける)
「臀部に腫れができた」とも言う。
あんた私を訴えて金せしめようとしているのか? なんなら市大病院の夜間救急に行くか? それで異常がなければ訴えたりしないか?
俺はそんなことしない。
じゃ私は安心していいのね、仕返しにぶっていいです。
いや、ぶちたくない。
☆☆
ふたりともウイスキーを飲み続けたので。酔いがきつくなっている。
Kは、私が「○○本で1500万稼げる」と期待させた、などと不満ぶちまける。
俺の文章を雑だと言ったことにも腹が立った、失礼だ、いい加減な仕事をさせて翻弄したことについても謝れ、と言う。
私は泣けてきた。
やりづらい仕事をさせて悪かった、でも仕事の進め方は私が決める、あなたの書き方が丁寧でないことは事実で、そう伝えたのに改善されなかった、だから私は「雑です」と言った、あんたこそ、書き飛ばして、脱字さえある原稿を私に送ってきたのは失礼だ、印税を期待させたことは悪かった、そうなってほしいと望む気持ちがそうさせた、あなたが執筆しやすい環境をつくってほしかった、そのために支援した、私も仕事を頑張ろうとした、私も今は無欲なので、あなたにお金を分けたかった、1億でも2億でも注ぎ込みたいと言った、でもそれができなくて悪かった、(今日は)ひどいことをいっぱい言った。
誰が?
お互いに。
俺が言ったんだな。
☆☆
明け方4時頃から10時過ぎまで眠った。
眠れたのは、酔っていたからだと思う。
☆☆
意識が戻ると、猛烈に腹が立った。
隣でKが寝ているので怒りが増幅していく。
Kを起こし、「どこへでも出て行ってほしい。どいて!!」と叫んだ。
あなたが必要としている15万を渡せない、○○本は私が引き継いでちゃんと仕上げる、9月に印税支払いをする。
いらない、そんな先になって金もらっても意味がない。
☆☆
連休中、俺は居場所がない。
こうなる以前の私なら、連休中はずっとKと一緒にいたかった。
私は家で仕事をし、Kには図書館かネットカフェで書いていてほしかった。
でも今、私は、Kを追い払おうとしている。
T子にまで追い出されるのか、とKは言う。
T子だと? おまえだと? 気安く呼ぶな。
☆☆
「俺はもう死んじゃえばいいんだ」とKが言うのは何度も聞いた。
死についての話題を好む理由は何?と尋ねたら、「それが文学者の資質だ」とKは言っていた。
☆☆
始発で出て行く約束だったのに、もうこんな時間、だけど動けない、あと数時間あればなんとかなるから、とK。
そういうのを「なめた真似」という、もうやだ!!!!!!!
Kは起き上がり、身支度をする。
あんたが悪いのよ。
そうか、こういう結末か、だけど俺は怨んでなんかいないよ、感謝している。
そう、だったら、よかった。
最後に、「これが結末か」と不服そうに言われた。
私はそれには応えず、Kの煙草、ライター、眼鏡を手渡した。
じゃまた、またはもうないのか、とK。
私は無言のまま、Kの顔を見ようとしなかった。
Kから目をそらしたままドアを開けて送り出し、ドアを閉めた。
わりと平気だった。
重荷をおろしたような解放感があった。
Kと復縁し、仲良くできて満足だった。
おかげでだいぶ気が済んだ。
そして私は次第に、Kに落胆しだした。
(完全にではないが)愛想をつかしたのだった。
☆☆
以前、Kは私にこう言った。「三田文学が相手にしてくれるのは名誉なことだ。だから悩まずに頑張りなさい。純文学は病気の告白なのだ。おまえもそれをやれ」と。
そんなふうにKがアドバイスをしてくれるのが、ありがたかった。
それで私も、ドブ板トランジット全編を文体修正してみようという気になった。
しかし病気の告白ばかりしているから純文学は弱々しくなった、読まれなくなったという思いがある。
私は不純文学でいい。
Kも言っていたように、私なんかはライトノベルに向いているかもしれない。
次に書く予定の『パリの夕焼けショー』ではミステリー要素のあるハードボイルドをやりたい。
書くたびに成長している実感がある。
どこまで行けるか知りたい。
(そこがKと違うところなのだ)
☆☆
この先、Kと一緒にいても、いいことあると期待できない。
私が切望していたものは手に入りそうにない。
持ち主であるK自身が失ってしまったのだ。
彼が気持ちを切り替え、行動も変えて、気力体力ともに盛り返してくれないかぎりは、私の失望と落胆は強まるばかりだろう。
☆☆
しかし、Kと没交渉でいられるだろうか。
今は、やっていけるという気がする。
☆☆
Kは未練たらしく、「結局、こういう結末か」と最後の台詞を言い捨てたが、その未練と執着は、私が提供するお金に対してであり、食べさせ寝かせてくれること、居場所を与えてもらうことに対してなのだと思う。
私と話すと楽しいから別れたくない、という思いも多少はあるだろうが、それよりも彼は金と居場所を求めている。
切羽詰まっている。
彼の求めに応じて提供し続けることもできるが、そうしたいという気が薄れた、意欲が萎えてきた。
だから、やめてみる。
おそらく彼は、私を利用しながらつきあうことしかできないだろう。
利用されてもいいからKと一緒にいたい、お互いに好きだということに変わりはないのだから、と思っていた時期もある。
だが今は、見返り(愛情表現、セ○クス)も満足に与えられずに利用されるのはいやになった。
怒りを覚える。
現在がこうなのだから、先々はもっとひどくなるかもしれない。
だから、一方的に尽くすのはやめることにしたのだ。
☆☆
(追記・備忘録として)
私はほかの仕事をしていたので、Kが着手した○○本のことはそれほど考えていなかった。
「他のライターよりもおまえのほうがちょっとだけうまい」とKは言った。
「ふと不安」の本はパッチワーク、おまえ俺のことも書いてる、俺にはわかる、とも言った。
それで私は言った。○○本でいう「羊が狼になるとき」なんてほんとにあるのか? うちの弟は、昔は女の子みたいにソフトだったけど、仕事を通じて男らしくなった、うちの飼い猫ですら弟に対する反応が変化した。
○○はもっと政治家の顔を出さないと、とKは言った。
○○が選挙区で配れるような本にしなきゃ、とも言った。
「通信簿原稿は、あれじゃだめ」、おまえにそう言われたら、もう書けない。俺は最高の出来だと思っても、おまえは否定してかかる。
文章に造詣が深いと思わせるものを書くときがある、とK。
そういうのをやって、と私。
☆☆
納得のいかない仕事だと、あんた言うけど、映画の場合でもこういうことはあったでしょ。
☆☆
編集者と電話中の私に、Kはメモを書いて見せた。「著者の○○は今どこにいる」と。
☆☆
連休中必死にやればなんとかなる、と私。
俺は知らない、とK。
ネタはあげる。
だったら下書きしてよ。
仕事としてじゃなく、ならいい。
☆☆
こういう本の原稿書くのは、女を口説くのと同じ。
あんた女を口説くのにそれほど熱心になったことはないじゃない。
女のほうから寄ってくるもんな。
☆☆
俺の葬儀に集まる女達が「あなたそんなに気持ちよかったの?」とか語り合う、「そうなのよ、アレが右に少し曲がっていて」とか。
女同士なら会って一瞬でわかるのよ、その人がどんな気持ちだったか、どんな状況だったにもよるけど、どんなセックスをしてどんな快感だったか、おおよそ想像がつく。
☆☆
あんたは女を愛したことがないでしょ、私は愛されたことがあるからわかるの。
愛されるってどういうこと?とK。
あんた、私のことなんかちっとも好きじゃないでしょ。
だからこのまえ言っただろ、上も観音、下も観音って。
だいたいわかるけど。
K笑。
私となら頭の中身を交換できる、顔も気に入ってる、セ○クスも最高っていう意味?
Kうなずく。
☆☆
Tちゃんありがとうね。
何が?
全部、わけわかんないことも含めて、全部。
☆☆
昔、私のベッドで、私が隣にいるのに、あんたは私の同級生に電話しながらおち○ちんいじってた。
☆☆
私がほかに男をつくったのは、あんたがちゃんと相手してくれなかったからよ。
☆☆
私、○と結婚して子供産むつもりだった。
☆
フランス人形、かわいいね、パンツはいてるのかな?
私、昔はこんなふうだったのよ。
☆☆
(60数冊のノートが)愛と性の日記なら幸せだった。
このノートを若○君にあげたら、三浦映画舎の神棚に祀っちまうだろう。
☆☆
おまえのことは俺が一番よく知っている。
☆☆
Tちゃん、こーゆーのやったら? スポーツ新聞の見出し毒舌。
☆
(仕事の原稿を朝2時間書いたあと)お昼寝して頭すっきりさせてから、また書く。
おまえばかだもんな。
私はライターとしてミーディア系だと思う、のりうつり・なりきり派。
☆☆
Kは、「トミー」と私を呼んだ。
☆
おまえ俺がいると書けないみたいだな。
☆
私の場合、文学の感動は散文詩から始まった。
悩みのない文学、それは文学じゃなく文芸。
☆
五木寛之が仏教関連の本を書くようになったのは税金払うため、売れるから。
☆
男が多すぎて読者は混乱する。
それはスクランブルでしょ、トランジットでは男はあんたしかいない。
Kにんまり。
☆
10本くらい同時進行できなきゃだめだ。
私は一途だから、そういうやり方はしたくない。
☆
ドブ板、横須賀、あれが内的モチベーションを決定した。内的志向性を決定づけた。
☆
私とあんたとでは文学観が違うよ。
違っていていい。違いを認めることが相手を尊重すること。
☆
無意識のうちに構成をしている。
それは作家として不可欠の資質、才能。
☆
私、あんたよりも、あんたのおとうさんのほうがいい。
☆☆
おやじが一時期逗子に住民票を移していた理由は謎。
おやじが好きだったのは前妻だと思う、おふくろは恋愛の対象にならなかっただろう。
おやじは軍で東大出の仲間と出会い、生涯つきあった。
おやじの最期、俺は1ヶ月病院に通った。
おやじの葬儀は妹が手配した、小泉事務所の力を借りた。
当時はまだ一間のアパートだった、妹に飯つくって食わせたりドライブに連れていったり。
創価学会、高校時代まで勧誘があった、断固として拒絶し、脱退した。
映画は毎日が闘争で、テンション高かった。
☆☆
あんた、じつは女よりも男のほうが好きなんじゃない?
「友よ静かに瞑れ」、邦画で一番かっこいい、これがスペイン映画だったらどうなっちゃうだろうと思う、とK。
☆☆
薫の小説は、セリーヌ文体でいく。
セリーヌ「なしくずしの死」、リルケ「マルテの手記」。
☆☆
阿部薫 大槻節子 京浜急行 ガード下、そのイメージは素晴らしいと思う、と私。
☆☆
ウーちゃんは阿部薫の音楽が好き、だから鬱病になっちゃう。
☆☆
(中華料理屋で)モツやレバーを食べられないと旅行できないぞ、このまえ語り合った旅にもね。
(寿司屋で)Kは4巻しか食べなかった。飯は重い、と言う。サンドイッチならよく食べる。
(カレー店で)安吾、太宰、みんな死んだ、生き延びて料理の話なんか書くのは可哀想だ。
スピンシティ、ソープオペラも(落語も)いいけどね。
猫を飼ってたことあるよ、俺の隣で上向いて寝てた、自分を猫だと思っていないようだった。
このあたりは熱帯だな、植物を見るとわかる。一軒おきに空き家になってる。
目の疲労から肩にきて、背中が痛い、とK。
あんた足首に紫色の血管が浮き出ている、私の足首はきれいだよ、見てごらん。
おまえばかみたいだもん。
今度の冬にはもういない。
なんでそんなこと言うのよ。
死、あきらめ、震災後の心情、うつが心配。
勝手にしろ、人は変えられない、様子みる。
みんないつかは死ぬ、死も含めて人生。
酒タバコが好きな人はやめずにやればいい、できなくなったらあきらめる、死ぬ。
Kは自分のことで精一杯、だけど父親として子供たちのことは大事にしたいのだろう。
家族がいないすきに大根漬けた、3日ぐらいかかる。
家ではもう誰も俺の食事つくってくれない。
あんたの顔が好き。
俺、顔と頭はいいんだ。
俺は計算して暴れてる、おまえのはただの暴力。
…………………………

2012.4.28
(T子は仕事を再開)
(T子家賃を振り込みに出かけたところ、郵貯銀行と三井住友銀行、それぞれの通帳にはさんでおいたカードが入れ替わっていることに気づいた)
…………………………
(T子記す)
Kは、私がシャワーを浴びているすきに通帳を盗み見て、残高を確かめたのかもしれない。
○の手口を真似たのだろうか。
しかし、預金は引き出されていない。
とりあえず、セーフ。
Kが勝手に通帳を見たという確証はない。
おおいに疑わしいのだが、問い詰めることはせずにおこう。
こんなことで連絡をとるのは避けたい。
…………………………
2012.4.29
(交信なし)
…………………………
2012.4.30
●T子──(○○本原稿料を送金した)
価格860円×1万部×3%÷2=12万9千円
全80本のうち40本に対する原稿料