【デートノート⑯ 2012.5.10〜5.18 8泊190時間】(後編)
(T子記す)
あんたが死んだら泣くよ、と私。
泣くな、とうとう死んだか、よかったねと思え、それでオナニーでもしてくれればいい、とK。
いや、1週間は寝込むと思う。
死んじゃうしかないだろ、もうどうにもならないんだから、あとはマンション住み込みの管理人にでもなって掃除するくらいしかないんだぞ。
私、それやったよ。
俺はできない、生活保護もいやだ、そんなことまでして生きていたくない、生きていればおまえに金の迷惑かけるだけ、あと3回も無心したら恥ずかしくて死んじゃう。
☆☆
Tちゃんごめんね、ありがとう、というのは何度も聞いた。
(奥さんに対してありがとうと思う気持ちはあっても、ごめんねとは絶対に言わないと聞いたけどな)
ごめんねって何が? おまえはこんなにも俺のこと好きなのに、俺はそれほどでもなくてってこと?
Kは否定。
(それは謝るようなことじゃない、というつもりなのだろうか)
ごめんねって、お金出させたこと?
そう、それは悪いと思ってる。
☆☆
おまえがこのまえ怒ったのは、俺が家に入れる金を要求したからだろ。
奥さんと喧嘩していても、「俺の気持ちとして金入れてやりたい」と、あんたは言った、そのために私を犠牲にするのは平気なのか、と私は気分を害した、でもそれよりも、私はあんたがいると仕事ができない、執筆ラストスパートの時期だったのに、あんたは勝手に突然おしかけてきて仕事の残りを私におしつけた、私はあんたがいると書けなくて、そのストレスから爆発した。
☆☆
そんなに奥さんが好き?
きらいだよ。
あんたの生活態度も問題あるけど、奥さんも悪いよ。
(ここでKは怒り出した)
おまえがそんな分析をしても、俺の気持ちはちっとも楽にならない。
(家族のことを悪く言うとKは怒る)
あんたは、ほんとうは家族と一緒にやっていきたいんだろうと思うよ、あんたを家庭に返すにはどうしたらいいんだろう。
☆☆
私どうしていいかわからないから石井さんに相談しようかな、それとも、あんたの奥さんに会って話してみようか、あなたの旦那さんをくださいと言うんじゃなく、高校時代からの古い友人なんですけど、K君がこんなになっちゃってどうしたらいいんでしょうと。
やれよ、勝手にやれよ、女房は「関係ありません」と言うよ、「知りません。どうにでもしてください。死んでください」と言うよ。
☆☆
保険に入ってる?
たぶん入っていない、健康診断書を出せと言われたことないから。
だったら、あんたに死なれても家族は困るだけだよ、ましてや自殺なんかされたらたまらないよ、奥さんはなぜ離婚届を出さないんだろう、そこにはやっぱり何か理由があるのだと思うよ、子供たちに父親が必要だと思っているんだよ。
女房にそういう気持ちがあったら成立してる、そうじゃないから成立していない、壊れたものはもう直せない。
なぜそこまで奥さんを怒らせてしまったんだろう。
知らねえよ。
☆☆
家族は家族なんだ、たとえ離婚しても気持ちは変わらない、とK。
(うわあ、ショック)
だけど子供さんたちみな大きくなっていずれは自立する、あんたが離婚するのは奥さんとであって、子供さんたちと縁を切るわけじゃない、私はあんたが家族を大事にするのはいいと思ってるよ、だけどお金入れてもあんたが家にいられないなら甲斐がない、それならいっそアパート借りてくれたほうがいい、楽に書ける環境をつくってほしい、私はあんたと一緒に住む気はない、それだと書けないからね、その点、一人暮らしは快適でいい、あんたも一度やってみなさい、そして離婚はしてほしい、そうしないと私と結婚できないからね、結婚すれば私はあんたを隠しておかずに済む。
☆☆

「T子さんに書いてもらうとヒットするよ」と業界で有名だったのよ、という話から、「T子さんに男のブレーンがついたようだよ」と、すでに業界で噂になっているんじゃないか?とKが冗談めかして言う。
いえ、むしろ逆なのよ、「T子さんに男のライターがブル下がっているようだよ」と噂されているんじゃないかと思うと私は怖い、編集者氏が見た第1稿は、Kの原稿に私が朱筆入れしたものを誤って送信してしまったのだから。
そんなの勝手に思わせとけ、「私の恥ずかしいバンドです」と言えばいいだろ。
バンドって何?
ハズバンドだよ。
T子笑。
☆☆
それで結婚式を挙げてその日のうちに喧嘩して別れるのかな、と私。
結婚式なんかやらないよ、とK。
結婚しようと言ってくれたのに。
もうじき死んじゃうんだから意味ないだろ、おまえがつきあっている男は老人なんだよ、それを理解しろよ。
☆☆
俺、60まで生きられるかわからない、あと3年だ。
そう聞いて、私は少しは気が楽になった、今日明日にでも死にたいと言っているのかと思っていた。
できればそうしたいよ。
でも痛いのや苦しいのはいやだよね。
一瞬だよ。
だけど死にはぐったらつらいよね。
Kうなずく。
☆☆
ベッドで寝ている私を起こして、小説の話やら何やら、聞かせたがるのは、さみしいからだね。
☆☆
Kは私の髪や首筋に触れる。
胸元にも手を入れかけるが、おっぱいはさわらない。
「おまんこもさわらない」とKは言う。
(なんで? はじまっちゃうと面倒だから?)
☆☆
あんたはどうしてまた私と仲良くしてくれたの?
別に仲良くしているつもりはねえよ。
死ぬ前に私と仲良くしておきたかったの? おかげで私はだいぶ気が済んだ、あんたは話し相手がほしかったんだよね、私は書く仕事の窓口になってくれそうで、お金も融通してくれそう、だから私だったんだよね。
そんなこと、お互いわかっているのに、あえて言う必要がどこにある、そんなことを言われたら俺は恥ずかしくて、でかい傷になる。
☆☆
女はけっこう薄情なんだよ、どんなに好きな男でも、むさぼりつくして気が済んだらとっとと忘れる(相手にとことん尽くすことはできないということ)、だからたぶん私は……。
(と言って、Kの目を見た)
☆☆
その夜、Kはいつにも増してうなされていた。
というか、寝ながら変な声を出して苦しそうにしていた。
だいじょうぶよ、と抱きしめてあげた。
☆☆
おまえ口あけていびきかいてたぞ、俺は30秒ぐらいじっと見ていた、写メは撮らなかったけど、最後にTちゃんのかわいい寝顔が見られてよかった。
☆☆
「俺は最後の晩餐に塩鮭といかの塩辛食ってんだよ。鮭も塩辛もT子なんだ。なんでこんなにうまいんだろう」なんてことも言っていた。
(リップサービスのつもりか)

☆☆
最後の朝、Kは飲みながらまた阿部薫の小説の話をした。
私があくびしながら聞いていたので、K怒る。
女房もおまえも同じだ、俺が何言ってもわからない、どうでもいいと思っている。
☆☆
小説、文学、仕事、諸々の話題が続く。
阿部薫、高橋治、立原正秋、みんな戦っていた。とKはテンション高く、私が何か言うごとに即座に反論して封じ込め、きつい口調で私を追い込む。
(これも一種の外連、けれんみ、ごまかし、はったり、見た目の奇抜さ狙いなのか)
☆☆
俺いじめっ子だよな、昔はいじめられてたほうだけど、だけどおまえ、いじめてくださいといわんばかりの態度なんだもん。
☆☆
おまえのやってる仕事は便所掃除と同じだ、何の意味もない、だけど今は金稼げるほうが正義なんだよな、くだらない本をいいかげんにつくっているから、そういう恥ずかしい金なら、引っ張り出していいと俺は思った。
そんな恥ずかしい金を女から引っ張り出すのは、もっと恥ずかしいことでしょ。
恥ずかしいよ、だけど責任があるからしょうがない。
(私は泣いた。Kは「嘘泣きだ」と言った)
☆☆
書いていくことは闘争だというのはわかる、まずは自分との闘いであり、世界と闘うことでもある、しかしその苦しさを私に向けてどうする? 書いている者同士が争って何になる? 傷つけあい、消耗し、書けなくなるだけじゃないか。
☆☆
私じゃなく、もっと大物を狙えばいい。
俺がデビューしたらまず林真理子がくるだろ、あいつにはない絶対的なものを俺は持っているから。
私にとっても、自分に絶対的にないものをあんた持ってるよ、知性と感性。なのにどうしてデビューできないの?
しそびれたんだよ。
☆☆
おまえと一緒に暮らしたら大変だな、おまえはばかだから、「勉強しろ」と毎日教えなきゃならない。
☆☆
家族の話をするのは、おまえがかわいそうだから避けてきた。
それでもけっこう言ってるよ。
おまえ自分の家族をもったことないからわからないだろう。
私の家族は両親と弟、それ以外のことは実感をもってわかってあげられない。
(「家族は家族なんだ」というKの言葉の意味がよくわからない。気を許せる相手、一緒に眠って疲れない相手、好きとか嫌いとかを超越している存在、ということなのか)
☆☆
結局、Kは家族が恋しいのだろう。
子供たち、奥さん、家庭、心安らぐ場所、そういうものを失ってしまったことがつらいのだろう。
☆☆
「やっぱり家族を捨てられない」
「離婚しても気持ちは変わらない」
言葉の裏にずるい言い訳があるとしても、この二言を聞いてしまったら、私はもうあきらめるしかない。
☆☆
おまえ、俺に、「もう死んじゃえ」と言えばいいんだ。
そんなこと言えない。
おまえにできるのは2つに1つ、俺に死ねと言う。
あと1つは?
言わせるのか?
お金出せ、っていうんでしょ。
そう。
有り金全部、いっぺんに?
そう。
預金残高160万あるのを知ってるよね?
知らない。
別の口座にあるのは、少し増えてる、仕事したからね、でも全部出しちゃったら私はここでやっていけない、だからお金は出せない、様子をみながら少しずつ、やり過ごしていくしかないじゃないの、そのうちどうにかなるだろうってさ。
(それじゃだめなんだ、と言いたげなK。なぜだめなんだろう)
☆☆
結婚した男の、責任だよ、とK。
なんで結婚したの?と私。
射精したかったから、中で、毎日なかで射精したかったから。
あんた子供ほしがっていたもんね。
そうじゃなくて、ただ射精、相手は誰でもよかった、「それでできちゃったのがおまえだよ」と娘に言ったらどんな顔するかな、だけどしょうがないよな事実だから、男と女がいればやるだろ、それで子供ができる、歴史がつくられていく、人類の歴史はまぐわいの歴史だ。
☆☆
もう何もしてくれなくていい、これで終わりにしよう、おまえの電話番号もアドレスも消す。
じゃ私も消す。
(消した)
ああ楽になった。
だろ、だから○○の本に書いたんだ、人と人はたとえば携帯でつながっているだけだと、おまえと俺もそうだ、精神的につながっていたわけじゃないんだ。
(Kは心と裏腹のことを口から出任せに言っている。私がそんなことをすれば、たちまち嘘を見抜いて糾弾するくせに)
☆☆

最後にひとつ聞いていい? 絶対に怒らないでよ、と私。
言いたいことは想像がつく、とK。
なによ、言ってみて。
愛してる、だろ。
違う、誰でもよかったのなら、どうして私を選んでくれなかったの?
(あぁ、とKは虚を突かれた様子)
その選択肢はなかった、とK。
(私がほかの男といたからか?)
そのときは俺、別のことを考えてた。
(ものを書くことではなく映画のこと?)
あんたが来いと言えば、私は何もかも捨てて行ったのに。
(と女に言われても、ふつう男はそこまで自信もっていないだろうな、と私も今ならわかる)
3年で別れてただろうな、3日ともたなかったかも、とK。
仮にそうだとしても、あのときそうできていれば、こんなに長く引っ張らずに済んだ、と私。

☆☆
そこまで話してもなお、Kはここに残って飲んでいる。
「この土日もいようかな」などと言う。
帰ってよ。
このまえは出て行け、今度は帰ってよ、か。
☆☆
うちに帰りたくない、ぜったい目を合わせないもんな。
だけど娘さんたちに会えるじゃないの。
あいつらはもう大きいから、それぞれ勝手にやっている。
☆☆
(以下3つのエピソードは、食事しながら聞いたことだけど)
切れてるバターとパン、買っていってやろうかな。
誰に?
娘に。俺が食べようと思って買っておいたものを、あいつ食ってるんだ。
☆☆
俺がつくったけんちん汁を、帰省していた息子が食って「うまい」と言った、あいつ正直だから言っちゃった、それで女房が怒った、あたしのつくったものはおいしくないのかって。(とKは笑いながら話していた)
☆☆
パパ2千円貸してと娘に言われれば、俺はぜったいに言うこときいてやる、俺が娘に小銭を借りたら倍にして返す、上の娘はボーナスも出るし交通費も支給されてるからいいけど、下の子は金足りないだろうと思って、毎日電車賃600円くらい置いておく。
それは親心だね。
親心なんかじゃねえよ。
(だけどたしかに家族の存在は大きいよね。それは私もよくわかる)
☆☆
おまえとおふくろさんの電話での会話、聞いていてうらやましかった、「あんたまた変な男と一緒にいるんじゃないの?」と心配してなかったか? おまえの弟も怒ってるんじゃないか? なんてこともKは言っていたっけ。
☆☆
おまえ、もう何もしてくれなくていい。
うん、わかった。
帰るよ。
ゴミ出していこうか?
うん、頼む。
ドアを閉める前に、「K君」と呼び止めた。
そして、「バイバイ」と言ったら、Kは「あばよ」と笑顔(横顔)を見せてくれた。
こうして終わった。

☆☆
↓以下は追記。
順不同だが、適所にはめこむのは面倒なので、思い出すままに書く。
☆☆
Kはバスルームで鏡を見ていたが、出てきてこう言った、「白髪ふえた、皺ふえた」。
うちにいる間に一度は剃ったが、3、4日もすると髭が伸びる、ほとんど白い。
☆☆
俺、身体頑丈だからなかなか死ねない。 (何分間に何リットル酒飲めば死ねるか、ネットで調べて読んでいた)
冬場なら、酔って外で寝て凍死ということもあるだろうけど、これからの季節は無理でしょ、と私は言った。
俺が死んだあと、子供たちは勝手にストーリーをつくるよ、頭いいから、いいお父さんだったね、お酒飲んで本読んでたねって。
☆☆
あんまり長く家を空けてると帰りづらくなるでしょ、帰りたくないのはバツが悪いから?
違う。
だけど大変なことになっちゃうかもよ、帰っても家に入れてもらえなかったらどうするの。
それならそれで、ひとつ終わる。
☆☆
早稲田の子はむさくるしい、あんたは慶應の子とも違う。
俺は明治だよ。
高校の頃はそういう感じじゃなかったけど、4年もいるとそうなっちゃうのかしらね。
慶應の文学部出てるくせにそんなことも知らないのか。
☆☆
お○ぱいつくったんだから、顔も少し整形しようかな?(しわとり、リフトアップ)。
そのままでいいんじゃない、とK。70になったT子なんか考えられない。
☆☆
俺は自動校正機を持ってるんだ、橫浜に。
(私のことね)、その機械、大事にしないと、時々ぶちキレて壊れるよ。
おまえ初読でリライトかけられるだろ? 俺はできない。
私だって、あらかじめ通しでざっと読むことはあるよ。
ざっとじゃだめ、よく読んで理解しないとリライトできない。
(そんな不器用なことじゃ、校正リライトもライター稼業もやっていけないよ。要領が悪いのか、生真面目すぎるのか)
☆☆
映画の仕事で偉くなりすぎちゃったから、今さら低姿勢になれないんでしょうね、(だけどあんたはライターとしては初心者)、編集者もあんたにいろいろ言いにくいだろうと思う、だから私が言ってあげてるのに。
☆☆
五木寛之や松岡正剛クラスの著者なら、あんたもゴーストライターをやる気になるというの?
できるわけがない。
あらそう、私はやれと言われれば頑張ってやるけどな。
できるわきゃない。
☆☆
「放屁力」の原稿を編集者に見せてくれ。
引用だけじゃなく自分の文章を加筆し、見開き単位にまとめてくれたらね。
(引用ボリュームが多すぎることの問題点について、参照すべき校正教材が丁度手元にあったから渡したのに。それ、ちゃんと読んだほうがいいよ)
☆☆
Kに電球を取り替えてもらった。
背が高いので、椅子を必要としなかった。
洗濯物を干してくれたことも一度あった。
洗剤を切らしていた。
頼んだら買ってきてくれた。
☆☆
(ネットで英語クイズやっていて)あんた声を出して英語読まないでよ、よけいわかんなくなるから。
(私が読んでみせたら)Tちゃん発音きれいだね、とK。
☆☆
おまえいっぺんに作りすぎ、俺ひとりでこんなに食べられるわけがないだろ。
野菜はあるだけ全部切って使っちゃう、「少しずつ使えばいいのに」って昔からよく男に言われる、「ネギだって少しずつ使えばラーメン食べるときにも使える」って男は不満げだった、「じゃ自分でやれよ」と男に言い返した。
K笑。
☆☆
いい爪切りだな、俺なんか百円ショップの爪切り百個ぐらい持ってる。
いいわかめ使ってるな。
☆☆
ハニーローストピーナッツ、これをKは案外よく食べた。
☆☆
ルッコラと生ハム、これがなかなか合うのよ。
これ食べるにはウイスキーがいる、じゃないと生ハムがかわいそうだろ。
☆☆
フライパンで焼いた鮭を、あーん、と箸で食べさせてくれた。
「うまいだろ、飲めよ」と日本酒パックも口に運んでくれた。
☆☆
暗くなったら私は外を出歩かない、友達と飲んで帰ってくるときは酔ってるから怖いも何もないけど、ひったくりに気をつけないとね、お金だけじゃなく鍵、携帯そのほか被害が大きいよ。
あとは、レイプ。
それ、私はもう大丈夫でしょ。
☆☆
Kは、私のグレーのシルクのパジャマがよく似合う。きれいに見える。
だけどあんた、派手できれいな色が似合わないのね、このまえマフラーを顔に当ててみてそう思った、ヨンジュンはあんなによく似合うのに。
☆☆
どいつもこいつも、と昔の男の悪口を書け。
やだよ、怨んでないもん、考えたくもないし。
☆☆
だけどね、中華街の彼はかわいかった。
全部持っていかれたんだろ。
全部じゃないけど、やむにやまれぬ事情があったのよね。
俺はそうじゃないと言うのか。
あんたのは別の、やむにやまれぬ事情なんでしょ。
☆☆
T子の寝顔、口あいていびきかいているのを見て、俺のこと怨んでなさそうだなと、ほかの男のこと怨んでるみたいだなと思った、とK。
☆☆
男性ライターの知り合いでボーイフレンドになれそうな人が一人もいない、書く男はあんただけ、でも私が作家になってステージが変われば、いい男との出会いがあるかもしれない。
おまえそんなこと考えてんの?
☆☆
芥川賞田中さんの作品読んだよ、たいしたことない、選評のほうが面白かった、あとは私に任せなさいという感じ。
おまえは気楽でいいなあ。
☆☆
慶應義塾大学出版会『中国怪異小説選』六朝志怪・唐代伝奇から「人虎伝」を見つけ、これ大事だからコピーしようということになった。
そういえば私、中島敦の素晴らしい文章に感動して文学を志したのだった。
全然違うじゃんかよ。
☆☆
平山三紀いい女だな、一発やりたい、ねてみたい、とK。
私も。
☆☆
俺、愛のコリーダ無修正版をネットで見た、15分くらい延々とフ○ラチオしてる、藤達也のおち○ちん小さい。
(何度も言うから)
なによ、まるで鬼の首でもとったみたいに。
K笑。
☆☆
ソフィア・ローレンなら俺いつも勃つ、大好き。
☆☆
(高校時代?私とつきあう前?知り合う前? ということは高校1年生のときのことかしら)
おまえには黙ってたけど、もう一人家に連れ込んだ、1級上の子。
そのこと、お母さんたちは知ってるの?
家に誰もいないときだったもん。
☆☆
女はね、30分に3度いくこともできるんだよ、一からやり直してさ、それ男には無理でしょ、あとね、いったと思ったらまたすぐいっちゃって、5回も6回もいくことがある。
知ってる。
☆☆
女が寄ってこなくなった、誰もいない。
誰よりもいい女がひとりいるじゃないの。
☆☆
昔おまえが食わせてくれたピラフ、ドブ板で飲んで朝帰りのとき、あれうまかった。
☆☆
橫浜ホンキートンクブルース、おまえうまいよ、俺も歌いたくて練習した、まだ3、4回だけど。
私なんかもう30年も歌ってるからね、あの歌には複数の男の思い出がからんでる、それから、橫浜を好きじゃないと歌えない歌だと思う。
☆☆
仏教やキリスト教が発祥する500年も前に、ギリシャ哲学があった、そのことを知ってショックだった、と私。
(これにKおおいに反応し、むきになって教えをたれた。ギリシャ哲学のずっと以前に東洋で、儒教、道教、老荘など諸々の思想が生まれていたことを私に教授した)
慶應義塾大学出版会の本に書いてあった。BC8~3Cの500年に、儒教、道教、仏教、ゾロアスター教、ユダヤ教、初期ギリシャ哲学の出現があった、と。
日本史、西洋史、東洋史、地理、これらを体系的に頭に入れないとね。だけど国際政治は歯が立たない。
☆☆
おまえ抗弁しないで、「はいわかりました、ごめんなさい」と言っていりゃいいのに。
あんたの言うことはもっともだと思うよ。
だけど言うこときかないだろ。
☆☆
おまえ、また三田文学にだまされるのか、かわいそうだな。
こんなふうに書き直しましたと、もう俺に送ってくるなよ。
おまえがデビューしても、うらやましいとは思わない。
スクランブルよりもトランジットのほうが力はあるのかもしれない、とK。
(Kは、この2作をわざと逆に間違える。「似すぎていて区別がつかない」と言う)
☆☆
私は今後、「パリの夕焼けショー」を書く。
パリで鮭を食うというコンセプトならいい、パリでパリの食いもの描くんじゃ感動しない、とK。
☆☆
(状況はつねに動いていると言うが)武山のときもトランジットについても、あんたは言うことがコロコロ変わる。だから私はもう、あんたの言うことを言葉どおりに受け取らない。
☆☆
俺おまえにひとつだけコンプレックスがある、俺なんか武山の田舎育ちだから。
うそみたい、15歳からあとは同じ環境で育ったのに何言ってんのよ、私の田戸台だって田舎だよ。
☆☆
俺おまえの生活の邪魔してるな。
☆☆
Tちゃん豹変しない?
しないよ、する理由がないじゃん。
☆☆
あんたの顔が好き。
じゃこの顔に1千万くれる?
(そういう人間性に問題がある、と私は感じる)
☆☆
最近のKの心境の変化はどう解釈すればよいのだろう。
この1年は何だったのだろう。
☆☆
私だって「武山」に賭けたのに。
わかってる。
☆☆
Kは自信過剰のようでいて、自信に欠ける。
自意識過剰の人は他者に自己アピールおよび自己セールスをすることができないらしい。
黙っていてもわかってくれて当然、と思っているせいだと、ものの本に書いてあった。
☆☆
あんたとのこと、誰にも相談できない、言えば心配かける、どう言われるか聞かなくてもわかってる、だけど以前弟に言ったことがある、「あいつと私は魂の双子だ」と、弟は嫉妬したかもしれない、それで私がちょっとでも弱音をはくと、「魂の双子だなんて、ふだんあれだけ強気なこと言ってるんだからガタガタするな」と言われる。
☆☆
結婚はしたいけど一緒に暮らさない。
それじゃ意味ねえじゃん。
じゃ私はどうすればいいのよ。
パトロン。
女だからパトローネでしょ、だけど何のために支援するの?それで私にどんないいことがあるの?
文学者をひとり育てると思ってくれ、パトロンを納得させるために原稿を書いて送ってる。
☆☆
T子、裸になれ。
やだよ寒いもん。
裸でものを言えよ。
心のネイキッド?
心はもともと裸なんだよ。
☆☆
私がこれから書いていくにあたって、あんたに力になってほしかった、私もあんたの力になりたかった。
☆☆
あんた素敵なひとだから、私のあとにまた別の女が面倒みてくれるよ、そういう人が現れるよ。
☆☆
もう、あんたにいじめられたくない、昔あんなに若くて子供だったときもいじめられた、今はだいぶ強くなったからいいけど。
☆☆
当時の私は今に輪をかけてばかだったから、つきあいのいい男じゃないとだめだった。
☆☆
あと10分で出てくよ、とK。
あんたも年とったね、昔なら、「行かないで」と私が泣いてすがっても、すぐに出て行ったよ、今は10分かかるのか。
K笑。
☆☆
最高で最低の男。
厄介な男。
男はみな厄介だけどね、一緒に暮らすとなると。
☆☆
私、もうどうでもよくなった。
よくつきあってみてわかった、あいつのバカさ、ダメさ、良さも。
俺ばかだよな、「感動的なばかだ」って言われたらいいなあ。
☆☆
○○先生も言っていたけど、男って要するに、自分を受け入れてくれる女が好きなのね。
☆☆
私は夢をみながら、声をたてて笑っていたらしい。
その夢の中では、ものすごく面倒見がよくて頼りになる男が私に惚れて、私を抱きかかえて移動していた。
私はその男に会う直前まで、どこかのホテルで中華街の彼かKかどちらかと一緒にいたようけど、部屋に残してきたのだった。
頼りになる男とデートしている最中に、男のすきをみて部屋に戻ろうとしている私。
それがおかしくて、笑えた。
眠っているのにげらげら笑っている私だった。
☆☆
白髪三尺 三十石船 土一升金一升 三尺の秋水
☆☆
邪馬台国は中国がつくった。
それにのみこまれなかったやまと民族は偉い。
☆☆
フジタ、荻須、佐伯祐三、エコール・ド・パリの時代の日本人を映画にしたい。
☆☆
ショーケンって若く見えるね。
ばかだから若くいられるんだ、戻り川心中という映画のロケで使った熱海の宿でショーケンが暴れた、目薬のさし方が悪かったと言ってスタッフの女の子をいじめた、それで俺がやつを羽交い締めにした、そんなことから宿の女将とできちゃった。
☆☆
業界では俺、「Kコーユー」と呼ばれてる。
☆☆
そんなことも知らないでよくやってこられたよなと思うよ。
あんたこそ、フェリーニもゴダールもオーソン・ウェルズも知らずに、よく映画人やってこられたよ。
みんな知らねえよ。
うそでしょ?
黒澤とチャップリンだけわかっていりゃいいんだ。
☆☆
チャップリンの独裁者、あれが彼の初のトーキー、そこでメチャクチャな言語で演説した、ヒットラー批判、反ファシズム、チャップリンは日本に2度来てるけど、1度は、ドイツと手を組むなと言いに来たんだと思う。
チャップリンの「独裁者」よりも、キューブリック「博士の異常な愛情」のほうが面白いと私は思う。
☆☆
2歳年下の妹が年頃になって、胸なんかにさわるってことしなかった?
した。
ひどいね、そういうのがトラウマになってる女友達がいるよ。
(妹は)喜んでた。
幻滅。
☆☆
明日武山へお袋に会いに行く。
偉い。
偉くなんかねえよ。
(実は無心するつもりだったのか)
☆☆
(女房)あいつとはとっくに終わってる。
☆☆
どうして熱が出たかわかってる、具合悪くなったのは、うちに帰りたくないせいだ。
だったらもう一晩泊まって、明日帰れば?
(そのままずるずると、さらに数泊となった)
☆☆
スーパーで買い物するとき、私はいちいち値段なんか見ない。
うちの女房とおんなじ、それで金がない、ないと言ってる。
(奥さんはやり繰り上手じゃないみたい。それに見栄っ張りみたい。だから生活レベルを落とせないのだろう。離婚しないのも、世間に対する見栄のせい?)
☆☆
Kもかなり見栄っ張りだと思う。
意地っ張り、プライドが高い、やせ我慢、そのくせ女に甘えて利用して、みっともないとは感じないみたい。
☆☆
女房ももう定年近いから、きついのだと思う。
それはみんな同じじゃないの。
いや違う。
(我々と彼女では職業・職能が異なるから、という意味なのだろうか。それにしても、定年後の生活のことまで心配しているとは恐れ入る)
奥さんは子供さんたちのお母さんだから、やはり特別な存在に思えるのだろう。
☆☆
(新聞を読みながら)世界中どこも大変だね、新しい秩序を打ち立てないとやっていけないから模索している、とK。
原発が稼働しなくなったら電力をどうするか、日本もドイツみたいに他国から買うのかな、と私。
それはヨーロッパが地続きだからできることで、日本は外国と電線がつながっていないからできない、とK。
天然ガスは?
あれだってパイプがつながっていないから、船で運んでくる、電気はそうはいかない。
☆☆
曾野綾子は(新聞記事)文章で勝負してくるもんな、とK。
政治の無駄、税金の無駄遣い、これをやめさせないと。
月曜(日曜?)は全紙に短歌欄がある、だから全紙買う。
☆☆
働いても月15万がいいとこだぞ、生活保護を受けてるやつらのほうが金もってるって、おかしいだろ。
☆☆
立川談志、俺きらいなんだ、よくわかってもいねえくせに、と思う。
☆☆
俺は石原慎太郎に近い、慎太郎が1ヶ月総理をやって、そのあと小泉進次郎がやればいい、あいつは突くところが的確だ。
☆☆
ネットサーフィンで雑学ネタを仕込む、こういうことやっておかないとだめ、とK。
