【デートノート⑰ 2012.6.11】
(T子記す)
駅まで迎えに来たKを見て、またしても別人のような違和感を覚えた。
以前の輝きが感じられない。
☆☆
梅ヶ丘から豪徳寺、山下まで歩いた。
財布にあった1万5千円を渡して、そのお金で、居酒屋にて祝杯。
Kは10日ぶりの煙草と酒。
☆☆
三田文学掲載に伴う感動的な出来事(編集長の言、校正の的確さ優秀さ、友達の反応、なかでも殊に母が喜んでくれたこと、原稿料をいただける件など)をKに報告する。
何よりも嬉しいのは、三田文学でまた作品を見てもらえて掲載される見込みが高いこと、商業誌につながる可能性もあること、と三田を通じての今後の活動を語り合う。
著者紹介の文を用意するにあたっては母と相談しながら、「1956年、神奈川県生まれ、慶應義塾大学文学部卒」とした、と私。
横須賀生まれ横須賀育ちとするべきだった、とK。
そんなふうに書いたら、「田舎者みたいに思われる」と母は言うだろう、私も、横須賀生まれとしたなら橫浜在住と続けたい。
だが横須賀のことや百恵のことを書ける、とK。
そういう注文が入ったら、あなた代わりに書いて。
ネタは提供できるが、文体が違うからだめだ。
☆☆
○○本では俺が足を引っ張った。
そんなことない、私が書けないことを書いてくれた、だけどあなたは私のやっているようなライター仕事を嫌がるから、仕事をさせたくてもできない。
おまえもわかってるだろうけど、俺に向いていない。
(Kは自分の能力不足を認めたかたち)
☆☆
あなた3・11から1年目のとき動揺してた、このまえは薫のことを書くと言って、まだ書き出してもいないのに喋っているだけで荒れた、そして暴言を吐いた、なぜそう情緒不安定なのだろう、大人の男とはとても思えない、と私。
文学者の資質なんだ、とK。
(文学をやる男はそんなふうに弱いものなの? だとしたら嫌だな)
☆☆
今日は友達感覚の逢瀬だった。
6時から8時の2時間で切り上げた。
私のほうから、「もう行こうか」と言ってお開きにした。
☆☆
山下から世田谷線で三軒茶屋、田園都市線で長津田、ブルーラインで弘明寺というルートを教わり、帰宅。

…………………………
●T子──長津田じゃなく、あざみ野だったよ。
…………………………
●K君──ありがとう。
頑張ってください!
…………………………
●K君──もう、着いた?
頃だろう。
ハッピーとサンキューなのだが。
アフターどぶいた。
もあるかな。
…………………………
●T子──
>ハッピーとサンキューなのだが。
どういうこと?
☆☆
>アフターどぶいた。
それは、あなたがお書きよ。
☆☆
トランジット原稿の三田文学掲載版をPCに送信しました。
メールサーバーにより拒否された。
送信できないよ。
…………………………
(T子記す)
送信できた。
喧嘩別れしてKのアドレスを削除し、再登録の際にアドレスを間違えたことが原因だった。
Kが受信拒否したのではないことがこれではっきりした。
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2012.6.12
2012.6.13
2012.6.14
(交信なし)
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2012.6.15
●K君──先々月は、1万円超。
先月は、千円。
わが携帯である。
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2012.6.16
●T子──あなたは雑誌記事に向く資質、のような気がする。
○○出版の雑誌でも研究して、連載企画を立案してみたら?
単行本よりも話が決まりやすいと思う。
『武山』の件で新聞社の協力を仰ぐこと、短歌50句を送って撰者になること、も是非やってみてください。
『放屁力』はアルフ○ポリスがいいでしょう。
あなたが自分の文章を加筆した後、社長に見てもらうようにしたい。
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2012.6.17
●K君──金子恵美か?
…………………………
●T子──何故にPC送信するのよ。
金子恵美か、って何のことよ?
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●K君──ミス日本。
…………………………
●T子──ノン、違う女性。
明日また取材。
今日は銀座だった。
忙しいよ。
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2012.6.18
●K君──連絡は
当分、PCアドレスへお願いします。
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●T子──携帯電話使用料、少額なんでしょ。
払っておけばよかったのに。
ばかだね。
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●K君──17時PC切断。
本日、渋谷まで、可能。
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●T子──渋谷も何も、私は真っ直ぐ帰る。
あなたの今の金欠は家庭の事情によるもの。
家族と相談しなさい。
女の愛情、弱さ、やさしさにつけこむな。
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2012.6.19
●K君──USBメモリースティック(白)を、御宅に、忘れていないでしょうか?
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●T子──ない。
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2012.6.20
(T子記す)
Kは自作短歌集「独立旅団」「壮春譜 相模湾レッド」「夏の女神 九十九首」を送信してきた。
読んでみる。
以前読んだ句と同じ、と判明。
返信はせずにおく。
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2012.6.21
●T子──短歌拝読。
ずっと以前に読んだものと、ほぼ同じ。
字余り、その他、削ぎ落としを徹底すべし、と思う。
エッセンス凝縮の美を求む。
☆☆
三島『豊穣の海』4部作は絢爛豪華な歴史絵巻。
遠藤周作『深い河』も同テーマを扱っているが、こちらは日常から描いた庶民的な小説で、読んでみたらけっこう面白かった。
カトリック作家遠藤周作は壮大なテーマを追いかけていたのだと知った。
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2012.6.22
2012.6.23
2012.6.24
2012.6.25
2012.6.26
2012.6.27
(交信なし)
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(T子記す)
ひまな時間はKのことを考えて少し悲しくなる。
やっぱり私のことはどうでもよかったのか、と。
だが執筆にのっているときは、Kのことなど考えもしない。
これでいいのだ。
去る者は日々に疎し。
音沙汰なくても平気、になろう。

…………………………
2012.6.28
●K君──携帯まだ開通できない。
夕4時家を出て、図書館と公園を3つ巡って、朝8時帰宅。
公園で夜明かし。
単行本2冊。
家人とは、顔を合わせない。
また、土日が来る。
台風4号は、公園のアズマヤでやりすごした。
バイト探しの、電車賃がない。
まいった。
3万、融資してくれ。
サドンデス。
切羽詰った。
頼む。
…………………………
●T子──バイト探しは、どんな方法で?
郵便局は?
先日私がメールで知らせた天下一の店は?
他に何か当てがある?
家族とどう付き合っているか、わざわざ私に知らせる必要なし。
公園生活のことも、できれば知りたくない。
…………………………
●K君──ハローワーク。
シルバー人材センター。
日雇いの肉体労働は、チョット体力に自信がなくなった。
頼む。
…………………………
●T子──ハローワーク、シルバー人材センターもいいけど、人脈をたどることもやらねば。
どんな仕事でも、あるだけまし、ありがたい。
今挙げた3方法すべてやりなさいよ。
あなたはインテリジェンスがあり、機転が利く。
…………………………
●K君──チラシ配り。
公園の掃除。
頼む。
…………………………
●T子──バイトといわず、あなたにいい仕事がみつかるよう、私も祈りたい気持ちだよ。
だけど、バイトが決まった後は、お給料が入るまでのつなぎ資金を、とくるでしょ。
電車賃、履歴書などの経費は、家庭内から捻出すべき。
…………………………
●K君──ダメですか、3万。
…………………………
●K君──携帯の分、3万だけ頼むよ。
ほかの仕事の連絡もあるし。
来るかもしれない。
家人とは無理だ。
頼めるなら、頼んでる。
顔も合わせてない。
携帯止まって、10日になる。
この分だけ、頼むよ。
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●T子──携帯に3万もかからないはず。
仕事仲間にはPCメールで連絡すれば良い。
妻がだめなら娘に頼みなさい。
あなたはさんざん嘘をついてきたから、何を言われても、その場しのぎの言い訳にしか聞こえない。
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●K君──そんなこと言わないで、なんとか頼むよ。
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●T子──まずは、ハローワークとシルバー人材センターへ歩いて行きなさいよ。
履歴書を買うお金ぐらい、家族がなんとかしてくれるでしょ。
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2012.6.29
●K君──頼みごと
3万円都合してくれ。
家族とか家庭で処理できるなら、夜中の公園暮らしはない。
15時半には、家を出る。
月曜日までPCを触ることはない。
頼む。
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●T子──飯田橋にいる。
6時頃、この前の駅で。
公園で1杯飲もう。
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●K君──小田急線梅が丘駅。18時。