恋愛かくれんぼ

恋愛かくれんぼ・デートノート2012㊻

投稿日:2021年9月15日 更新日:

【T子記す】

こうまで執念深い自分を恥じつつ、Kの日記を読み、気になる問題の箇所を書き写してきた。

つらい作業だった。

終えてからしばらくの間は、寝込んでしまった。

…………………………

ひととおり読んで、実情がわかった。

Kは横須賀時代からずっと女の稼ぎに依存していたのだった。

東京で暮らせるようになったのも女のおかげだった。

…………………………

一時期は映画の仕事で収入を伸ばしが、フリーランスの身で家賃の高いマンションに住み、子供3人を大学に行かせるのはやはり無理があった。

本業のほかにアルバイトをしても追いつかず、実家に借金を重ねている。

それでも足りず、色じかけで女から金を引き出している。

…………………………

そんな生活の中でも、Kは物書きになりたがっていた。

それも叶わぬので家族から離れてひとりになろうとしたが、本心は家族と別れたくない、女房に頭が上がらない。

…………………………

横須賀時代、私とつきあっている頃から別の女○○さんがいた。

私と別れた痛手からすぐに立ち直り、ほかに女を見つけていた。

○○と○○と○○と○○、この4人の存在が大きい。

私とのことはアンフォゲッタブルではなかったのだ、というショック。

…………………………

思いのほか、○子に執着している。

子供たちの母親だから情が深まったというだけではなさそうだ。

相性がいいのか。

…………………………

私とのことは、こう書いている。

「夫婦生活というものの可能性なかったし、今後もない。やっぱり、4泊5日の情事、Love Afairと呼ぶものに等しい。愛人よりは、幼馴染み、初恋……。”同志”ではないか」

…………………………

「”夫婦生活”とは、夫婦生活が10年途絶え、この先離婚したとしても○子だけだ。Lessも含めた、それだ」

と、私とデートした直後の9月1日に書いている。

しかしKは言うことがコロコロ変わるし、実際の言動と日記に書くことに乖離がある。

だから私は、私のデートノートに綴ったKの姿を真実と見なす。

…………………………

Kはお金と仕事と生活の場を求め、そして文学志向があるがゆえに私との距離を縮めた。

私のご機嫌をとるための言動もいくつもあった。

そんなKの裏側を知って衝撃を受けたが、おかげで目が醒めた思い。

私とKが一緒になることは、この先まずないだろう。

お互いに関心の続く限りは縁をつなげていく、というのでいいじゃないか。

あるいは、どのような関係も変化しうるのだから、自然消滅することもあるかもしれないし、一発逆転で私が愛されることもあり得る。

…………………………

Kは妻と子供たちが一番好き。

私よりも奥さんがいい。

私よりも好きになった女が何人もいる。

私のことはとっくにどうでもよくなっていた。

この2年、私に惚れなおしたわけではなかった。

結局、自分に利する人物のことを気にかけるのだ、あいつは。

…………………………

Kの容姿、声や話し方、ノリの良さが、私は好きだった。

一緒にいると最高に楽しかった。

Kじゃなきゃだめなのだと思ってきた。

しかし、Kの内面すべてが好きというわけではない。

好み、センス、志向性は異なる。

異なっていいのだが、違和感や反発を覚えることもある。

Kの書くものに共感できないときもある。

Kの能力や才能に惚れるというほどでもない。

愛してもらえぬ腹いせに悪く言うのではないけれど、今も大好きかと自問すれば、好きは好きでもそれほどじゃない。

嫌な面もたくさん知ってしまった。

…………………………

この2年間のことは、トランジットとスクランブルを書くために、そして私がKを卒業するために必要だったのだ。

…………………………

Kはブスが好き。

Kに愛されるかわりにこれ以上ブスになってもいいかと訊かれたら、私はノンと答える。

…………………………

古典本企画立案の時期に、「T子は信じやすくてすぐに喜ぶ馬鹿なんだから、うかつな対応をするな」と編集者に立腹していたのは、「結婚しようかっ、と言ったのを本気にしやがって」と思っていたからだろう。

今の私は、あんな厄介な男と結婚するのは嫌だと思っているよ。

…………………………

「○○を俺の嫁さんにする」と日記に書いていた。

○○○○と交際している時期は、「○○○○○とのときのように失敗したくない」とも書いている。

T子と失敗したことは何ら記されていない。

だが、九月の冗談クラブバンドで岸壁の落書きに「T子」の文字が最も大きかったのは何故なのか。

落書きに「○○」の文字もあったと記憶している。

ならば当然、「○○」「○○○」「○○○」「○○○」の名も描いただろう。

ビデオで確認したら、「T子」のほかに「○○○」とあった。

日記に私の名は登場しなくとも、映画の落書きではともかく「T子」だったのだから、私への執心は疑いのないところ。

…………………………

私とのことを日記に記さなかった理由は、私が他の男と一緒になってしまったことへの怒り、あるいはKなりの意地なのか。

T子のことなどどうでもよくなっていた、とは思いがたい。

後年はどうでもよくなった、ということ明らかなのだが。

…………………………

しかし、T子のことなどどうでもよいどころか、T子にアプローチされることを嫌がっているような記述もあった。

そのことを知って私は怒りを覚えた。

怒→憎悪→嫌悪→無関心へと進行する。

…………………………

買いかぶっていた。

見損なった。

だから、K以外のボーイフレンズを一挙再開した。

おかげで、わりと忙しい。

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