彼女はT子、彼はK君。
ふたりは同じ高校の1学年違いで、15歳と16歳の出会いだった。
T子新入学の春が終わる前に、お互い好きになっていた。
それから2年後、K君が一足先に卒業した。
大学浪人生となったK君は、前ほどT子に構わなくなった。
ひとりでいるのがつらかったT子は、K君以外の男の子ともずいぶん仲良くした。
K君もまた、T子以外の女の子と仲良くすることがよくあった。
そんなふうにして45年の月日があった。
K君が61歳で病死するまで、ふたりの仲は途切れ途切れに続いた。
その45年のうち、最後の12年間に、ふたりはメールのやりとりをした。
それが膨大な交信記録となって、T子の手元に残っている。
交信のはじまりは2004年。
T子の名刺にメルアドが記されており、それを捨てずに持っていたK君がアクセスしたのだった。
ふたりが言葉を交わすのは、数年ぶりだった。
そして9年がたち、今は2013年──。
【2013 January】

2013.1.4
●K君──あけましておめでとう
生き恥さらし、まだ、続きますか!
…………………………
●T子──謹賀新年
先日話した週刊ポストの記者さんは、大竹まこと似のちょい悪おやじ、政治経済専門ジャーナリストよ。
力になると言ってくれたけど、あなたは週刊誌に売るのは嫌なんでしょ?
…………………………
●K君──そんなことはないよ。
ただ、もう調べられたはずだと思う。
ネット以上のことが、できるのだから。
…………………………
●T子──その記者さんは、私から聞いたネタを勝手に使ったりしないと思う。
ポストでも文春でも紹介するから企画書を作れと言っていた。
いきなり単行本は無理だが週刊誌記事になるだろうとも言った。
私の仕事じゃないから、無理強いはしねえよ。
…………………………
2013.1.5
●T子──言い忘れた。
その記者さんとは、こういう話になってる。
武山の件で私の友人に連絡させても迷惑じゃありませんか?
構わない。その人、書いたらいいよ。と言ってた。
…………………………
2013.1.10
●T子──『三田文学』No.112、発行なったよ~!
…………………………
2013.1.11
●K君──石井隆さんの映画『甘い鞭』、本日完成。
大傑作。
10月公開。
ひたすらせつなく、滂沱。
明日、三田文学読みます。
写真中央、68歳の石井隆だ。
…………………………
【2013 April】

2013.4.12
(T子記す)
朝8時半頃、Kから電話あり。
寝ていたところを起こされて、頭にきた。
Kはこちらの様子を窺いながら映画の仕事の話などした。
その口調に腹が立った。
私はろくに返事もしなかった。
…………………………
●T子──貸したお金
少しずつ、返しなさいよ。
(振込先を明記し、メール送信した)
【2013 August】

2013.8.29
●T子──新しいアドレスです。お手数ですが登録していただけますか。
(ケータイをスマホに切り替えたので、メル友へ一斉にメール連絡)
…………………………
2013.8.30
●K君──夏終わる
改正ストーカー規制法で逮捕されないよう、削除していた。