彼女はT子、彼はK君。
ふたりは同じ高校の1学年違いで、15歳と16歳の出会いだった。
T子新入学の春が終わる前に、お互い好きになっていた。
それから2年後、K君が一足先に卒業した。
大学浪人生となったK君は、前ほどT子に構わなくなった。
ひとりでいるのがつらかったT子は、K君以外の男の子ともずいぶん仲良くした。
K君もまた、T子以外の女の子と仲良くすることがよくあった。
そんなふうにして45年の月日があった。
K君が61歳で病死するまで、ふたりの仲は途切れ途切れに続いた。
その45年のうち、最後の12年間に、ふたりはメールのやりとりをした。
それが膨大な交信記録となって、T子の手元に残っている。
交信のはじまりは2004年。
T子の名刺にメルアドが記されており、それを捨てずに持っていたK君がアクセスしたのだった。
ふたりが言葉を交わすのは、数年ぶりだった。
そして10年がたち、今は2014年──。

【2014 January】
2014.1.7
(T子記す)
Kから電話あったが出られなかった。
30分後にかけたが不通。
数時間後、再度かかってきた。
☆☆
まだ生きている、仕事はない、どうにもならないかもしれない、タイへ出稼ぎに行っていた、とのことで、クリスマスに帰国し、橫浜へ行こうかと思った、とKは言う。
橫浜へねえ、どうぞ、私は会わないわよ。
☆☆
Kが「電話ありがとう」と二度も言うから、そちらがかけてきたのでかけ直した、と返したら、かけた覚えはないようなこと言ってとぼけてやがった。
そうやって人のせいにするところ、自分の態度をはっきり示さないところが嫌い。
いろいろ失望させられ、今ではすっかり嫌になってしまった。

【2014 April】
2014.4.12
(T子記す)
Kから電話あり。
預かってもらっている荷物を取りに行きたいとのこと。
断った。
着払いで送るから、送り先をメールしろと言った。
☆☆
私の声は元気だった。それがKにも伝わったと思う。
Kもわりと元気そうだった。
☆☆
居候していたお宅を出るのでしばらく宿無しになるが、荷物は一箇所にまとめておきたいのだそう。
(日記を託す人物として私は適任でないと思われたということか)
☆☆
私、近々、同じアパートの103から203へ移転する予定だから、荷物が片付いてよかった。
☆☆
Kから、送り先のメールが来た。
東京都多摩川○○ ○○コーポラス○○ ○○様方
☆☆
夜、メール確認の電話あり。
Kは「お手数をおかけして申し訳ない」というようなことを言っていた。
…………………………
2014.4.13
(T子記す)
昼、宅配便の集配あり。
送り先住所の区が不明と指摘される。
これは大田区ですか?と。
☆☆
Kに電話して確認する。
調布市だとのこと。
このまえのメールには、そう書いてなかったよ。ちゃんと書かないからいけないんだよ。着払いにするよ、と私。
えっ、いくらかかるんだ、とK。
このKとのやりとりは、昔なじみの気安さがあふれておかしかった。