恋愛かくれんぼ

恋愛かくれんぼ2014

投稿日:2021年9月18日 更新日:

彼女はT子、彼はK君。

ふたりは同じ高校の1学年違いで、15歳と16歳の出会いだった。

T子新入学の春が終わる前に、お互い好きになっていた。

それから2年後、K君が一足先に卒業した。

大学浪人生となったK君は、前ほどT子に構わなくなった。

ひとりでいるのがつらかったT子は、K君以外の男の子ともずいぶん仲良くした。

K君もまた、T子以外の女の子と仲良くすることがよくあった。

そんなふうにして45年の月日があった。

K君が61歳で病死するまで、ふたりの仲は途切れ途切れに続いた。

その45年のうち、最後の12年間に、ふたりはメールのやりとりをした。

それが膨大な交信記録となって、T子の手元に残っている。

交信のはじまりは2004年。

T子の名刺にメルアドが記されており、それを捨てずに持っていたK君がアクセスしたのだった。

ふたりが言葉を交わすのは、数年ぶりだった。

そして10年がたち、今は2014年──。

【2014 January】

2014.1.7

(T子記す)

Kから電話あったが出られなかった。

30分後にかけたが不通。

数時間後、再度かかってきた。

☆☆

まだ生きている、仕事はない、どうにもならないかもしれない、タイへ出稼ぎに行っていた、とのことで、クリスマスに帰国し、橫浜へ行こうかと思った、とKは言う。

橫浜へねえ、どうぞ、私は会わないわよ。

☆☆

Kが「電話ありがとう」と二度も言うから、そちらがかけてきたのでかけ直した、と返したら、かけた覚えはないようなこと言ってとぼけてやがった。

そうやって人のせいにするところ、自分の態度をはっきり示さないところが嫌い。

いろいろ失望させられ、今ではすっかり嫌になってしまった。

【2014 April】

2014.4.12

(T子記す)

Kから電話あり。

預かってもらっている荷物を取りに行きたいとのこと。

断った。

着払いで送るから、送り先をメールしろと言った。

☆☆

私の声は元気だった。それがKにも伝わったと思う。

Kもわりと元気そうだった。

☆☆

居候していたお宅を出るのでしばらく宿無しになるが、荷物は一箇所にまとめておきたいのだそう。

(日記を託す人物として私は適任でないと思われたということか)

☆☆

私、近々、同じアパートの103から203へ移転する予定だから、荷物が片付いてよかった。

☆☆

Kから、送り先のメールが来た。

東京都多摩川○○ ○○コーポラス○○ ○○様方

☆☆

夜、メール確認の電話あり。

Kは「お手数をおかけして申し訳ない」というようなことを言っていた。

…………………………

2014.4.13

(T子記す)

昼、宅配便の集配あり。

送り先住所の区が不明と指摘される。

これは大田区ですか?と。

☆☆

Kに電話して確認する。

調布市だとのこと。

このまえのメールには、そう書いてなかったよ。ちゃんと書かないからいけないんだよ。着払いにするよ、と私。

えっ、いくらかかるんだ、とK。

このKとのやりとりは、昔なじみの気安さがあふれておかしかった。

関連記事→恋愛かくれんぼ2015〜2016

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