と私は思っています。
入社試験の面接においても、試験官の方々は、候補者がどれだけ敬語を的確に遣えるかを見ているのではないでしょうか。
あなたの敬語遣いは、試験にパスするレベルですか?
自信がある方も、ない方も、ここでもう一度、ご自分の敬語レベルをチェックしてみると良いかもしれません。
●丁寧語・尊敬語・謙譲語
敬語は、大きく分けて次の3種類があります。
丁寧語
同じ内容でも、丁寧な言い方に換えることで、相手に対する敬意を示すことができます。
たとえば──
というように、「お」「ご」をつけて丁寧に表現すると良いのです。
と丁寧に言い換えましょう。
尊敬語
相手に敬意を表するために、語頭に「お」「ご」を付けて丁寧に言い換えることをおすすめします。
相手の方に気分良くなっていただき、好印象を持ってもらえるようにしましょう。
たとえば──
「多忙」→「ご多忙」
「車」→「お車」
「会社」→「貴社」
「自宅」→「お住まい」「ご自宅」
尊敬語には、独特の言い回しもあります。
「食べる」→「召し上がる」
「する」→「なさる」
「出かける」→「お出かけになる」「お出かけなさる」
「待つ」→「待たれる」「お待ちになる」「お待ちなさる」「お待ちです」
(椅子に)「掛ける」→「お掛けになる」「掛けられる」「お掛けです」
のように、二重敬語(丁寧語+尊敬語)を使うと、敬意を示すというよりも卑屈な印象になってしまうので、そうした使用は避けたほうが良いでしょう。
謙譲語
あえて自分を低位置に置き、へりくだった表現をすることにより、相対的に相手を持ち上げて、敬意を表すことができます。
たとえば──
「する」→「致す」
「待つ」→「お待ちする」
「相談する」→「ご相談する」
「言う」→「申す」「申し上げる」
「買ってもらう」→「お買いいただく」
「辞退する」→「ご辞退申し上げる」
「やる」「あげる」→「さしあげる」
「~してやる」→「~してさしあげる」
「茶」→「粗茶」
「品」→「粗品」
「贈り物」→「つまらない物」「心ばかりの品」
「そう考えます」→「そのように愚考いたします」
「理論」→「拙論」
●失敗しやすいのは、尊敬語と謙譲語
敬語は、相手に気分よく話をしてもらう(読んでもらう)ための高度な技術です。
コミュニケーション環境を整えることを目的として、長い年月をかけて編み出された必殺テクであるともいえます。
必殺テクだけあって、その使用法は複雑です。
殊に複雑なのは、自分や身内に尊敬語を用いることは、相手に対して無礼にあたるので、尊敬語ではなく謙譲語を用いるべきだとされている点です。
たとえば──
そのほかにも、尊敬語と謙譲語を混同したために生じる不適切な使用例はいろいろとあります。
以下に例を示しますので、不適切だとされる理由をよく理解し、心に留め置いてください。
●~さんはおられますか
「いる」の尊敬語は「いられる」「いらっしゃる」。
「いる」の謙譲語は「おる」「おります」。
↑「おる」「おります」なんていう言葉は古くさくて、ふだん遣う機会はあまりないように思われがちですが、
というように、仕事の場では頻繁に登場します。
「おる」「おります」は本来、自分の側がへりくだって遣う言葉ですから、相手に対して遣うときは注意が必要です。
敬語にヒネリを利かせたつもりなのか、
などと言う人もいるのですが、それは「~さん、いる?」とタメ口をきくよりも失礼なのでは、と私は否定的にとらえています。
『明鏡国語辞典』の編集委員たちにより編まれた書籍『問題な日本語』に、こう記されています。
「おります」は相手に対する尊敬語ではないが、「おられる」「おられます」とするなら、敬語として適切。
これを読んで、私はどうも釈然としない思いを抱きました。
敬語を使うなら、
と素直に言えばいい、と思います。
先述の本『問題な日本語』に、こう付記されていました。
「おる」は謙譲語なので「おられる」を尊敬に使うのは誤りだとする意見は根強い。
「いられる」という尊敬語はあまり一般的でなく、尊敬表現には、むしろ「おられる」が普通に使われることになります。
なお、「いらっしゃる」は「いられる」や「おられる」よりも一段高い敬意を表しています。
でしょ、やっぱりね、と私はようやく納得がいきました。
という言い方がベストなのです。
●~さんはいつ戻ってまいられますか
「戻ってまいります」というのは、「戻ってきます」の謙譲表現ですが、これはあくまでも自分の側がへりくだって遣うものです。
自分自身のことだけでなく、
というように、自分の身内のことを外部の人に話すときにも用いられます。
敬語を遣うべき相手を指して、
などと言うのは、とんでもなく失礼にあたるのではないでしょうか。
↑それは、「社長が戻るまで待っててやるから、だいたい何時頃になるか、教えろ」と言っているようなものだと思います。
敬語を誤って遣うと、相手を持ち上げるどころか、かえって貶めることになる場合があるので、くれぐれも注意しましょう。
とするのが適切な敬語表現だと思います。
●ご伝言をお願いできますか
「相談」と言わずに「ご相談」、「電話」と言わずに「お電話」とすることはよくあるので、「伝言」にも「お」か「ご」をつけて丁寧に伝えたいという気持ちはわかります。
しかし、相手の方は一瞬、「ん? ご伝言?」となってしまうかもしれません。
と感じてしまうこともあるのです。
ならば、「お言伝」としてはどうでしょう。
読み方は「おことづて」です。
とすれば、「伝言を託す相手(私)に対して丁寧な言い方をしているのね」と受け取ってもらえるはずです。
「社長への伝言だから、丁寧な言い方をしているのね」と受け取られる場合もあるでしょう。
「伝言をお願いできますか」ではなく、「お言伝をお願いできますか」とすれば、誰に対しても失礼のない丁重な表現、敬意を示す表現になります。
ちなみに、相手から伝言を預かったときは、
と言ってOKです。
●丁寧語・尊敬語・謙譲語を同時に駆使してこそ一人前
丁寧語・尊敬語・謙譲語の3種は有機的につながっています。
この3種を同時に駆使することができてこそ、敬語の遣い方をマスターしたといえます。
というと、いかにも難しそうですが、「こういうときは、こういう言い方をするのか」と覚えてしまえば良いのです。
ぜひ覚えてほしい、代表的な敬語を以下にリストアップします。
というように、体全体を使って敬語に馴染んでいくと良いですね。
●まとめの一言
あなたの言葉は、あなたの人柄をあらわします。
言葉遣いから多くのものが伝わっていくのです。
知性や教養、育った環境まで、なんとなくわかってしまうのですから、決しておろそかにすることはできません。
ビジネスマナーとして覚えておきたいことは多種多様にありますが、まずは敬語の遣い方をマスターすることが大事だと思います。
どうも自信がないなあという方は、このブログの関連記事をぜひご覧になってください。
仕事上のメール、企画書、報告書など、ちょっとした文を書くときなどに、きっと役立つと思います。
敬語の使い方ひとつで、文章の格が上がりもすれば下がりもします。
格調高い文体を目指すなら、むずかしい学術用語や故事成語よりも、敬語を学習するほうがよほど役に立ちます。即効性があります。
敬語を正しく用いると文章の格が上がる、といって過言ではありません。