11月は「霜月」、12月は「師走」というように、月の呼び名は複数あります。
いわゆる「別名」「異名」「異称」ですが、「愛称」と言ってもいいと私は思っています。
さまざまな呼称を最も多く持つ月は1月で、なんと50近くもの異称があるそうです。
次に多いのが12月で、師走、極月、除月のほかに、やはり50近くあるとのことです。
それらの全てを憶える必要はないと思いますが、どんなバリエーションがあるか、ちょっと見てみませんか。
「歳時記」にあたって調べてみました。
これまで知らなかった言葉がざくざく出てきて驚きました。
日本語の世界は豊かですね。
●1月の異称
家中が仲良く親しみ合うという意味
改まった月という意味
嘉月(かげつ)
正陽月(しょうようがつ)
年初月(ねんしょげつ)
初陽(しょよう)
芳歳(ほうさい)
発歳(はっさい)
月正(げっしょう)
開歳(かいさい)
甫年(ほねん)
このほかにも多数ありますが、たとえば「甫年」のように、漢字を見てもよく意味のわからないものばかりです。
睦月、正月、嘉月など、漢字からおおよその意味が伝わるものは親しみが感じられますね。
親しみといえば、1月のことを「太郎月」(たろうづき)ということもあるそうです。
人の名前「太郎」からきた月名で、太郎という名はたいてい長男につけるので、太郎月とは最初の月のこと、というわけですね。
●2月の異称
寒いので更に着物を重ね着する(衣更着)という意味
麗月(れいげつ)
美しい月という意味
雪消月(ゆきげつき)
梅見月(うめみづき)
初花月(はつはなづき)
仲春(ちゅうしゅん)
1月から3月を春としていた時代の呼称で、春の真ん中の月という意味
酣春(かんしゅん)
仲陽(ちゅうよう)
美景(びけい)
令節(れいせつ)
降入(こうにゅう)
華朝(かちょう)
恵風(けいふう)
星鳥(せいちょう)
このほかにもいろいろありますが、次第に漢字のむずかしさが増し、意味もわかりづらいものが多いので、このあたりでご紹介は打ち止めにしておきます。
それにしても、雪消月(ゆきげつき)、梅見月(うめみづき)、初花月(はつはなづき)というのは風情のある異称ですね。
旧暦は新暦のほぼ1ヶ月遅れなので、昔の2月は今の3月のような気候で、春の訪れがそこかしこに感じられたのでしょう。
●3月の異称
「いやおい」を縮めた呼び方=ますます生長するという意味がこめられている
禊月(みそぎづき)
雛の禊ぎをすることから付いた異称
夢見月(ゆめみづき)
ついうつらうつらと夢見がちになる月という意味
花月(かげつ)
桜月(さくらづき)
称月(しょうげつ)
蚕月(かいこづき)
桃月(ももつき)
宿月(しゅくげつ)
花見月(はなみづき)
春惜月(しゅんせきづき)
早花咲月(はやはなさきづき)
晩春(ばんしゅん)
暮春(ぼしゅん)
季春(きしゅん)
末春(まつしゅん)
殿春(でんしゅん)
暮陽(ぼよう)
↑このあたりまでは、漢字から意味を汲み取ることができますし、「ああ、季節感のある言葉って美しいなあ」と思わせますね。
そのほか、ちょっとひねった言い方のものもあります。
竹秋(ちくしゅう)
花飛(かひ)
中和(ちゅうわ)
穀雨(こくう)
桃浪(とうろう)
花老(かろう)
↑春なのに秋という字をあてたり、「花が老いる月」としたりして、昔の人はひねりの利いた表現が上手だったのだな〜と感心してしまいます。
●4月の異称
「卯の花」すなわち空木(うつぎ)が咲く月という意味
余月(よげつ)
陰月(いんげつ)
卯の花月(うのはなづき)
花残月(はなのこりづき)
夏初月(なつそめづき)
木葉採月(このはとりづき)
得鳥羽月(とくちょううづき)
初夏(しょか)
首夏(しゅか)
孟夏(もうか)
始夏(しか)
維夏(いか)
新夏(しんか)
立夏(りっか)
槐夏(かいか)
正陽(しょうよう)
純陽(じゅんよう)
六陽(りくよう)
六気(ろっき)
仲呂(ちゅうろ)
など、4月の異名は全部で40近くあります。
「夏」という字のつくものが多いのは、旧暦では4、5、6月が夏となっていたからですね。
麦秋(ばくしゅう)
という異名もあります。
麦が黄色に熟し、収穫の時季を迎えるという意味です。
●5月の異称
早月(さつき)
午月(うまづき)
橘月(たちばなつき)
梅月(うめづき)
雨月(うづき)
授雲月(じゅうんげつ)
月不見月(つきふみづき)
早苗月(さなえづき)
多草月(たそうげつ)
鶉月(うずらづき)
梅夏(ばいか)
仲夏(ちゅうか)
薫風(くんぷう)
啓明(けいめい)
などが5月の異称で、漢字から意味の伝わってくるものが多いようです。
「皐月」を「皐」と書くこともあり、この一文字をもって5月を指すということが、中国の古典に記されているそうです。
●6月の異称
水月(みなづき)
↑水無月と水月、どちらも「みなづき」と読み、「水の月」であるとしているところが面白いと思います。
旧暦の6月は夏の終わりにあたる月です。
この時季、水田に水がないと稲の開花や結実が望めないため、「水」の一文字に願いをこめて、「水無月・水月」としたのでしょう。
旦月(たんげつ)
季月(きげつ)
伏月(ふくげつ)
焦月(しょうげつ)
涼暮月(りょうぼげつ)
風待月(かざまちづき)
鳴雷月(めいらいげつ)
↑6月の異名には、水や風や緑に縁のあるものが数多く見られます。
季夏(きか)
晩夏(ばんか)
長夏(ちょうか)
常夏(じょうか)
炎陽(えんよう)
積陽(せきよう)
小暑(しょうしょ)
極暑(ごくしょ)
↑「炎」「積」「極」「暑」の字を用いるなど、見るだけで暑苦しいものもあります。
上記のほか、
林鐘(りんしょう)
則旦(そくたん)
鶉火(うずらび)
弥涼暮月(やりょうぼげつ)
といった異称もあります。
あなたは、どの異称がお気に召しましたか。
私は、風待月(かざまちづき)と鳴雷月(めいらいげつ)が素敵だなあと思います。
●7月の異称
七夜月(ななやづき)
親月(しんげつ)
相月(そうげつ)
蘭月(らんげつ)
涼月(りょうげつ)
冷月(れいげつ)
桐月(とうげつ)
否月(ひげつ)
秋初月(しゅうしょげつ)
初秋(しょしゅう)
孟秋(もうしゅう)
新秋(しんしゅう)
首秋(しゅしゅう)
上秋(じょうしゅう)
早秋(そうしゅう)
肇秋(ちょうしゅう)
桐秋(とうしゅう)
七夕月(たなばたづき)
愛逢月(あいぞめづき)
女郎花月(おみなえしづき)
などが7月の異称で、ロマンチックなものが多いようです。
日本では7月7日に七夕祭りが行われるので、七夕月(たなばたづき)というようになったのでしょうね。
その七夕の夜に織り姫と彦星が年に一度の逢瀬をすることから、愛逢月(あいぞめづき)ともいうようになったのでしょう。
あ〜もう、照れちゃうほどにロマンチックですね。
ところで、7月のことを女郎花月(おみなえしづき)ともいうのは何故だろう、と思いませんか。
「女郎」というのは春をひさぐ遊女のこと、不謹慎だ、とお怒りの方もいらっしゃるかもしれません。
女郎という文字から遊女を連想してしまうのは当然の流れですが、女郎花というのは遊女の花という意味ではないようです。
女郎花は秋の七草の一つで、古くは万葉集や源氏物語にも詠まれています。
現代の仮名遣いでは「おみなえし」と書きますが、旧仮名遣いでは「おみなへし」です。
「へし」は(圧し)であり、美女を圧倒する美しさから「おみなへし」と名付けられたという説があるそうです。
●8月の異称
桂の葉の月という意味
桂月(けいげつ)
月では桂の木の葉が紅葉し、そのため月光が明るくなると信じられた伝説から、この異称がうまれたそうです。
月見月(つきみづき)
明るい光を放つ月を観賞する月という意味
壮月(そうげつ)
素月(そげつ)
観月(かんげつ)
仲秋(ちゅうしゅう)
紅染月(べにそめづき)
秋半(しゅうはん)
↑いずれも旧暦の8月の季節感をあらわした異称ですね。
雁来月(がんきづき)
燕去月(えんきょづき)
↑渡り鳥の雁が飛来し、燕が去って行くという意味ですが、それは旧暦の8月にあり得た事象で、新暦の今とはひと月以上もずれています。
ずれているといえば、8月なのにもう「迎寒」(げいかん)、「寒旦」(かんたん)、「白露」(はくろ)などという異称もついています。
実感が湧きませんね。
でもまあ、8月の暑いさかりに「迎寒」なんて言ってみるのも面白いかもしれません。
急に涼しくなったような気分を一瞬でも味わえると良いですね。
●9月の異称
9月の異称として、最もポピュラーなのはこれでしょう。
秋の夜長をあらわしているのですね。
玄月(くろづき)
菊月(きくづき)
菊開月(きくさきづき)
祝月(いわいづき)
詠月(ながめづき)
↑季節柄、月や菊にまつわる異称が数々あるのです。
その昔、菊は不老長寿の霊薬と信じられていたそうで、菊や月を愛でながら歌を詠むことが人々の喜びだったのかもしれませんね。
詠月(ながめづき)という異称から、私はそんな想像をかきたてられました。
竹酔月(ちくすいげつ)
寝覚月(ねざめづき)
青女月(せいじょげつ)
色取月(いろとりづき)
↑9月には、こんな洒落た異称もあるんですね。
紅葉月(もみじづき)
↑ちょっと気が早いようですが、1ヶ月後には紅葉の季節となることから、こう呼ばれることもあります。
晩秋(ばんしゅう)
季秋(きしゅう)
窮秋(きゅうしゅう)
残秋(ざんしゅう)
高秋(こうしゅう)
暮秋(ぼしゅう)
↑こういうオーソドックスな異称にも、深い味わいが感じられます。
●10月の異称
神去月(かみさりづき)
10月のことを別名「神無月」「神去月」というのは、全国各地にいらっしゃる八百萬の神が、出雲の地で年に一度開催される大集会へお出かけになり、お留守になるから、とされています。
出雲の地においては、「神在月」(かみありづき)となります。
雷無月(かむなしづき)
鎮祭月(ちんさいげつ)
鏡祭月(きょうさいげつ)
↑10月は神様に縁のある異称がいろいろとあるのです。
陽月(ようげつ)
良月(りょうげつ)
大月(たいげつ)
吉月(きちげつ)
↑縁起の良い呼び名も多数あります。
上冬(じょうとう)
開冬(かいとう)
立冬(りっとう)
小春(しょうしゅん)
↑旧暦では、10月から冬が始まるとされています。
冬が始まったばかりなのに、もう春の字を用いたりするところが面白いですね。
日本人って案外、気が短くてせっかちな性分なのかもしれません。
●11月の異称
寒冷地ではいよいよ霜が降り出すという意味
霜見月(しもみづき)
霜降月(しもふりづき)
雪見月(ゆきみづき)
雪待月(ゆきまちづき)
寒冷地ではいよいよ雪も降るよ〜という意味
盛冬(せいとう)
冬半(とうはん)
広寒(こうかん)
仲冬(ちゅうとう)
上記に加え、こんな素敵な異称もあります。
神帰月(かみかえりつき)
神楽月(かむらくづき)
↑10月は神無月でしたが、11月になると神様が戻っていらっしゃるのですね。
ありがたいことです。
●12月の異称
禅師のような落ち着いた人物も走り出すという意味
極月(ごくげつ)
1年の最後の月という意味(以下同)
窮月(きゅうげつ)
臘月(ろうげつ)
臈月(ろうげつ)
除月(じょげつ)
小歳(しょうさい)
年末という意味(以下同)
暮歳(ぼさい)
暮節(ぼせつ)
凋年(ちょうねん)
窮紀(きゅうき)
窮稔(きゅうじん)
氷月(ひげつ)
冬の最後の月という意味(以下同)
残冬(ざんとう)
暮冬(ぼとう)
抄冬(しょうとう)
晩冬(ばんとう)
窮冬(きゅうとう)
冬索(とうさく)
梅初月(ばいしょげつ)
春待月(はるまちつき)
春への期待がこめられています。
ちょっとかわったところで「親子月」(おやこづき)という異称もあります。
●まとめ
1月から12月まで、各月にさまざまな呼び名のあることを紹介してまいりました。
その代表格といえるものを、ここに再び列挙すると──
あなたは、どの月のどんな異称がお気に召しましたか。
多くの人にとって、一番馴染みがあるのはやはり、12月の異称「師走」でしょう。
でも、その一つしか知らないようではちょっとさみしい、という気がしませんか。
如月(きさらぎ)
弥生(やよい)
卯月(うづき)
皐月(さつき)
水無月(みなづき)
文月(ふみづき)
葉月(はづき)
長月(ながつき)
神無月(かんなづき)
霜月(しもつき)
師走(しわす)
と、ひととおり頭に入っている方とお話しすると、ああ素敵だなあ、知性を感じさせるなあと感心してしまいます。
私自身は、恥ずかしながら、12ヶ月をすらすら言えません。
そのくせ、1月はJanuary、2月はFebruary、と英語で言ったり書いたりすることができるのです。
これはなんとかしなくてはなりません。
1月、2月、3月という呼び方は、ただ数字を読み上げているだけですからね。
これまであまり馴染みのなかった日本語をあと12単語、頭に追加するのはそれほど大変なことではないはずです。
何度も繰り返し唱えているうちに、きっと憶えられるはずです。
やってみますよ、私は。
もしよかったら、あなたもぜひ!!