リテラシー向上

読解力と記述力アップを目指すなら、悪文こそは最高の教師

投稿日:2017年6月1日 更新日:

私は「神戸まとめの達人運動」に興味をもち、実際に使用されている課題文を拝読しました。

そして、あることに気づいたのです。

まず一つは、

読解力をつける方法、そして、伝えたいことを適切に伝える力を育成する方法として、「神戸まとめの達人運動」が実施しているメソッドはとても有効だということ。

もう一つは、

私のようなライターが読むと、「あのぅ、すみませんが、課題文に手を加えてもいいですか。少し改良してもいいですか」と言いたくなるということ。

「まとめの達人運動」に取り組んで読解力をつけ、伝えたいことを適切に伝える力をつけた生徒さんたちの中から、

「この課題文、下手くそだなあ。こう書けばいいのに」

と頼もしい声があがるようになることを、私は心から願っています。

これは決して皮肉などではなく、他人が書いた文章をより読みやすくわかりやすい文章に書き直す能力、それは究極の文章力であり、それを可能にするレベルの読解力と伝達力を生徒さんたちに獲得させることこそ、「まとめの達人運動」が目指すべき最終目標であろうと言いたいのです。

そうした意味で、やや難解な文章を課題文に採用するのはとても良いことでしょう。(←これはちょっと皮肉)

一読で理解するのは絶対に無理、しかもそれをたった15分で150文字に要約したり、誰が読んでも理解できる文に書き直したりするのは、プロのライターでも「かなりきびしい」と音を上げるほどの、こじれた文章であってこそ、課題文として適切です。

ならば、ということで、その難解な文章をご用意しました。

お読みいただくとおわかりのとおり、かなり、こじらせています。
はっきりいって、理解に苦しみます。
典型的な悪文です。

そんな難問中の難問を投げかけて恐縮ですが、あなたは次の例文を一読ですっと理解することができるでしょうか。

ぜひ試してみてください。

●「誰が何をしたのか」が読み取りにくい文

【例文】あまり運がなかった人がホームレスが道に空き缶を置いていました。それをかわいそうに思い持っていたお金をいくらかあげたところ、その後すぐにコンビニの抽選クジが当たり、倍の5,000円が当たったとのこと。その人はクジ運が良いほうではないので、びっくりしたとのこと。

<質問>

・道に空き缶を置いていたのは誰ですか?

1.あまり運がなかった人
2.ホームレスの人
3.この文を書いた人

(正解はおそらく、2)

 

・誰が誰にお金をあげたのですか?

1.あまり運がなかった人→ホームレスの人
2.かわいそうに思った人→あまり運がなかった人

(正解はおそらく、1)

 

・いくらあげたのですか?

1. 5,000円
2. 10,000円
3. 2,500円

(正解はおそらく、3)

<ここが残念!>

・最初の1文に、主語が2つ登場しています。
(「あまり運がなかった人が」「ホームレスが」)。

↑そのため、「誰が何をしたか」がわかりにくくなっています。

・あげた金額が不明なので、「倍の5,000円が当たった」と言われても、すぐにはピンときません。

【改善例】ホームレスが道に空き缶を置いているのを見たある人が、かわいそうに思い、手持ちのお金から、2,500円ほどあげたそうです。すると、その直後、コンビニの抽選くじで5,000円が当たった!お金が倍になって返ってきたのです。「日頃あまり運に恵まれず、クジ運も良いほうではなかったので本当にびっくりした」と語っていました。

<解説>

・この例文が伝えようとしているのは、「人助けをすると、予想外の幸運が舞い込む」ということでしょう。

・さらに伝えたいのは、「大切なものを手放してみるのもいいことだ。運が悪いと思っている人にも、思わぬ幸運が舞い込むかもしれない」ということでしょう。

・最も伝えたいことを早く伝えようと気が急いたのか、文の冒頭で「あまり運がなかった人が」と結論をほのめかしているため、混乱をきたしてしまいました。

↑その点を改善すべく、「ある人が」と主語を書き換えました。

●読めば読むほど理解に苦しむ悪文

さらなる難問に挑戦してみてください。

【例文】読んでみたらこれがなかなかの良書だったので、別種の驚きが湧きました。著者は、これまでに2万人以上の恋愛相談に乗り、現在はその経験から得た知識をもとに作家活動を行なっている方だそうです。このプロフィールからも、嗅覚が敏感な人にとっては怪しげな情報商材的なイキフンを感じ取ってしまって、信用ならぬ、と思ってしまうでしょうけれど、本書は、一般企業の事務職として10年の会社員経験を持つ著者が男性に向けて書く恋愛指南書です。

<質問>

・「別種の驚き」とは、何を指しているのでしょう?

1.著者がこれまでに2万人以上の恋愛相談に乗っていたこと
2.著者が10年の会社員経験をもっていること
3.怪しげな情報商材と違い、なかなかの良書であること
4.男性向けに書かれた恋愛指南書であること

(正解はおそらく、2と4)

<ここが残念!>

・この例文を書いた人が「何に、どう驚いたのか」について、一言も言及されていません。

【改善例】この本の著者は「これまでに2万人以上の恋愛相談に乗り、現在はその経験から得た知識をもとに作家活動を行なっている」とプロフィールにあります。嗅覚が敏感な人は怪しげな雰囲気を嗅ぎ取り、「どうせ情報商材的なものだろう」「信用ならぬ」と思うかもしれません。実をいうと、私もそうでした。ところが、読んでみると、これが意外にもなかなかの良書なので驚きました。著者が一般事務職として10年の会社員経験を持つこともわかり、別種の驚きが湧きました。「会社勤めをしながら、2万人の恋愛相談に乗るというのはすごい!」「一般サラリーマンやOLの悩みと本音を知り尽くした著者だからこそ、ここまで書けたのだ!」という驚きです。しかも、本書は男性読者向けの恋愛指南書です。出会いのチャンスがないと嘆いている男性や、女性にどう接すればいいかわからずに困っている男性にとって、まさに必読の書。「こういうのを待っていた!」と喜びの声が聞こえてきそうな、稀少価値ある一冊です。男性心理を知ってもっとモテるようになりたい女性、恋愛成就と結婚を願っている女性にもおすすめです。

<解説>

・ある種の「驚き」があり、さらにまた別の「驚き」があったことを、順を逐って説明しました。

・驚いた理由を述べる必要があるので、例文から推察される内容を加筆しました。(最後の2行はオマケです)

●まとめの一言

新聞・雑誌・書籍、そしてネット上にも、いわゆる悪文を多数見つけることができます。

読みにくい、わかりにくい、何の話をしているのかさっぱりわからない。

というような文章に出会ったら、何故わかりにくいのか、ほんの一瞬でいいので考えてみてください。

そして、できれば、その悪文を手直ししてください。

読解力をつける方法、そして、伝えたいことを適切に伝える力を育成する方法として、これにまさるメソッドはないと思います。

関連記事→「理想」の対義語は□□、「流行」の対義語は□□。

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