リテラシー向上

読解力を高める「神戸まとめの達人」

投稿日:2017年5月31日 更新日:

「神戸まとめの達人運動」というものがあることをご存じでしょうか。

「まとめの達人」とは、文章を要約する力をつけるための先駆的な取り組みで、神戸市の全市立小中学校(250校)で推進されているそうです。(2011年5月26日・読売新聞記事より)

●読んで、考えて、まとめながら書く


「神戸まとめの達人運動」の考えによると、
「読んで、考えて、まとめながら書く」という学習サイクルを繰り返すことの狙いは、次の3点です。

読解力をつける。
知識を活用する力を高める。
伝えたいことを適切に伝える力を育成する。

「神戸まとめの達人運動」が始まったきっかけは、2007年全国学力テストの結果、記述問題に回答していない答案が目立ったこと、また、正答率が低かったことによります。

同年、神戸市は小学5、6年生を対象に「まとめの達人運動」をスタートし、2010年には中学生もその対象として、規模を拡大しました。

↑用いられる教材は、市が作成した課題文のほか、新聞記事や、校長が話した内容を書き起こしたものなどで、学校ごとに独自の工夫がなされたとのことです。

一例として、神戸市長田区の長田中学校では毎週水曜日の朝15分間、2年生114名が、課題文に取り組みました。
生徒たちは課題文に傍線を引きながら読み、その内容を約150文字にまとめていったのです。

「生徒にとって、作文はハードルが高いが、要約なら、なんとか書こうとする」

と国語担当の教諭は語っています。

課題文に取り組む生徒たち自身によると、

「重要な箇所を見つけるのが早くなった」

「試験の記述問題は苦手だったけれど、できるようになればと思う」

と前向きな意見が多く聞かれるそうです。

こうした結果を受けて、市教育委員会指導課は、生徒たちの今後の成長に大きな期待を寄せています。

「読解力や思考力が定着してくれば、次は創造性や表現力をつけることも目指したい」

とのことです。

●こんなに難しい課題文を中学生が読んで要約しているとは驚き!!


「神戸まとめの達人運動」では、どのような課題文を用いているのでしょう。

興味を持った私はさっそく調べてみました。
そこで見つけたのが、神戸市立垂水東中学校のホームページです。

そこには神戸まとめの達人シリーズ№29「伊藤博文の銅像が神戸にあった?」をはじめとして、いくつかの課題文が紹介されています。

<神戸まとめの達人シリーズ>

№5「神戸弁」
№6「別所毅彦」
№7「小林一三」
№8「桜ヶ丘銅鐸」
№9「オリーブ・オイル」
№10「栄町通り」
№11「神戸洋家具」
№12「有馬温泉」
№13「次世代スパコン」
№14「神戸とマッチ産業」
№15「和田岬砲台」
№16「神戸洋菓子」
№17「クリスマス用品」
№18「楠木正成」
№19「神戸が最先端の医療のまちへ」
№20「神戸の名物料理と言えば…?」
№21「今も昔も神戸港のシンボル ポートタワー」
№22「ザビエルの絵がどうして神戸にあるの?」
№23「あなたは、完走することができますか?」
№24「ポートライナー」
№25「日本で一番短い国道は?」
№26「世界で一番長いつり橋は?」
№27「メリケンパーク」
№28「日本ゴルフの発祥地は?」
です。

「神戸まとめの達人」シリーズの課題文を私も読んでみました。

その感想を正直に述べさせていただくと、

・かなり高度な内容で、一読で理解するのは難しい。

・たった15分で要約するなんて、プロのライターでもけっこうきびしい。

ということです。

そこで、というわけではないのでしょうが、「神戸まとめの達人」運動では、生徒さんたちに次のようなサポートをしています。
(そのサポート内容をそのまま当ブログに転載することはできないため、「○○○○」というように一部伏せ字にしてご紹介します。)

1.課題文の「○○○○」について、それぞれの(   )に入ることばを、抜き出して書きましょう。

・日本最初の(   )として指名された。また、若い頃には初代の(   )として神戸に赴任していた。

・(   )の起草・制定に中心的役割を果たした。

・立憲政友会という政党の初代(   )を務めた。

・1963(昭和 38)年に発行された(   )の(   )として使われた。

 

2.昔、神戸にあった「○○○○」の銅像について、それぞれの(   )に入ることばを、抜き出して書きましょう。

・知人である大倉喜八郎の建てた(   )に、伊藤はしばしば滞在していた。
(   )で伊藤が暗殺された後、大倉は伊藤の銅像建立と公園化を条件に、土地と別荘を(   )に寄付、現在の(   )となる。

 

3.「○○○○」のことを 150 字程度でまとめてみましょう。
簡単な紹介と神戸との関わり、そして○○さんが見た伊藤の銅像の台座のことが伝わるように工夫して、書いてみましょう。

「神戸まとめの達人運動」課題文にご興味がおありの方は、神戸市立垂水東中学校のホームページにアクセスして、ご覧になってみてください。
神戸市立垂水東中学校→http://www2.kobe-c.ed.jp/trh-ms/?page_id=312

●まとめ

「読んで、考えて、まとめながら書く」という学習サイクルを繰り返すことにより、読解力をつけ、知識を活用する力を高める。

 

そして、伝えたいことを適切に伝える力を育成する。

それが、「神戸まとめの達人運動」の狙いです。

私も実際にやってみて、たしかにこれは効果が望めると感じました。

ひとつ欲を言わせていただくと、もう少し読みやすくわかりやすい文章を課題文にしてもらえるとありがたいのです。

私はプロのライターとして、文章のリライトを請け負うことがよくあるのですが、「神戸まとめの達人運動」の課題文を拝読し、「あ〜ここはこう書き直せばもっとよくなるのに」と思ってしまうことがたびたびありました。

「まとめの達人運動」に取り組んで読解力をつけ、伝えたいことを適切に伝える力をつけた生徒さんたちの中から、

「課題文に手を加えてもいいですか」

 

「少し改良してもいいですか」

という声があがるようになるかもしれません。早くそうなりますように、と心から願っています。

いえ、これは決して皮肉などではなく、他人が書いた文章をより読みやすくわかりやすい文章に書き直す能力、それは究極の文章力であり、そのレベルの読解力と伝達力を生徒さんたちに獲得させることこそ、「まとめの達人運動」が目指すべき最終目標であろうと私は考えているのです。

生徒さんたち、頑張って!!!

 

関連記事→読解力と記述力アップを目指すなら、悪文こそは最高の教師

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