「〜だ」という言い方は、なんとなく乱暴で男っぽい。
「〜です」と言えば、なんとなく女性的でやさしく、きちんとした印象。
と感じる人は少なくないようです。
たしかに、「〜です」「〜でございます」は丁寧な表現ですね。
しかし、何にでも「です」をつければいいというものではありません。
「です」をつけていい場合と、いけない場合とがあることを知っておきましょう。
●「美しいです」ではなく「きれいです」が正しい
「です」の前に配置して違和感がないのは、名詞、代名詞(あなた・私・彼・彼女・これ・それ・あれ、etc.)といった、語尾が変化しない品詞に限られます。
【改善例】あなたは美しい人です。
【改善例】あの子は、この村で一番貧しい子です。
↑<解説>
・形容詞は、たとえば「美しい」「美しく」「美しかった」というように変化するので、「です」の前に持ってくるのは不適切です。
・形容詞の後に名詞や代名詞をつけ、その後に「です」をつければ、違和感はありません。
【改善例】塩は白いのです。
↑<解説>
・「です」ではなく「のです」とすることにより、違和感がなくなる場合もあります。
↑<解説>
・形容動詞の基本形はたいてい、「〜な」という形です。
この「な」を取って「だ・です」をつけ、たとえば「真面目だ」「真面目です」「不謹慎だ」「不謹慎です」というようにしてみて、特に違和感がなければ、そのまま使えます。(ほとんどの場合、違和感が生じることはありません。)
・副詞(とても・まったく・ときどき、etc.)、連体詞(とんだ・ふとした・たいした・だいそれた、etc.)に「だ・です」をつけると、「まったくだ」「まったくです」「ときどきだ」「ときどきです」というようになります。
違和感がなければそのまま使って良いでしょう。
・違和感がある場合は、「だ・です」の前に名詞をつけるか、「こと」や「もの」といった代名詞をつけ加えます。
【例文】それはとんだことでした。
【例文】ええ、とんだ災難です。
【例文】とても大変です。
↑<解説>
・「とても大変です」という文は、とても(副詞)+大変だ(形容動詞)+「です」という構造です。
●「すごいおいしい」「おいしかったです」は、ちょっと変かもです?
「食事をしたい」「食事を用意してほしい」という言葉を、より丁寧な表現にするために、
「食事を用意してほしいです」
と改めたとしましょう。
そして、「おいしい」「おいしかった」ではなく、
「おいしかったです」
と相手に伝えたとしましょう。
↑口頭でのやりとりならば、特に問題はないとしても、メールやSNSでの場合、相手は「どことなく幼稚な文章だ」と感じるのではないでしょうか。
ではどうすればいいかというと、何にでも「です」をつければ丁寧な表現になるという考えを捨てて、別の言い回しを探すことです。
【改善例】食事をしたいと思います。
【改善例】食事を用意してほしいのですが、お願いできますか。
【改善例】おいしくいただいています。
【改善例】おいしくいただきました。
【改善例】すごくおいしい。
【改善例】とてもおいしくいただきました。
【改善例】うれしく思いました。
【改善例】楽しい時を過ごしました。
【改善例】面白い○○です。
【改善例】つまらない、と思います。
(「つまりません」という言い方をする場合もあり、これが日本語として適切か否かについては、賛否両論あるようです。)
<補足>
・国語審議会という組織が、昭和27年発表の「これからの敬語」で、次のように示しているそうです。
・国語審議会はそのように示しても、「大きいです」「小さいです」という言い回しに、どうもしっくりこないものを感じている人は少なからずいます。
・「です」は丁寧語、つまり敬語ですから、本来、「おいしうございます」「うれしうございます」「楽しうございます」というのが正式な表現です。
・現在、そうした表現は時代感覚にそぐわないため、「うれしいです」と簡素に表現することが主流になりつつあります。
口頭ではそれで良いとしても、文章においては、粗雑で品のない印象を与えてしまうことは免れません。
・「うれしうございます」というのはやり過ぎの感がありますから、せめて、「うれしく思いました」というように、一言加えて、敬語に相応しい言葉遣いをすることをおすすめします。
・蛇足ながら、気のおけない相手とならば、「うれしいです」「喜んでいるです」「それってちょっと変かもです」というように、文法を無視した言い方をしてまったく構わないと思います。
文法なんて、現実のあとからついてくるものです。
言葉は生き物ですから、どんどん変化していって当然です。
・そもそも、言語学の世界において、これぞ正当という統一見解はないそうです。
「文法」という言葉一つとっても、外国人に日本語を教えるための「日本語文法」と、私たち日本人が学校で教わった「国語文法」(学校文法)があり、それぞれの文法に幾通りもの見解があるというのが実情のようです。
●「ないです」よりも「ありません」のほうが大人の表現
「ないです」という言い方を、日常的に頻繁に見聞きします。
【改善例】危険ですから塀にのぼらないでください。
【改善例】まだ気づいていません。
【改善例】理由は特にないのです。
【改善例】理由は特にありません。
【改善例】彼の判断は間違っていなかったのです。
【改善例】彼がそう判断したのは間違いではありませんでした。
●「です」をつければ丁寧な表現になるわけじゃない
文のスタイルを決定するのは「文末」です。
文の終わりを「です」にすれば丁寧な印象の文になることは間違いありません。
ただし、何にでも「です」をつければ丁寧表現になるというわけではなく、むしろ荒っぽい印象になってしまうということを知ってください。
【改善例】できればそうしたかったのです。
【改善例】できればそうしたいと思いました。
【改善例】そのようにしたいのです。
【改善例】そのようにしたいものです。
【改善例】そのようにしたいと思います。
【改善例】ありがたかったのです。
【改善例】ありがたいことでした。
【改善例】わけがわからないのです。
【改善例】わけがわかりません。
【改善例】いろいろです。
【改善例】外が騒がしいようです。
【改善例】みなさん、お静かに願います。