ある言葉を聞いた瞬間、思わずムッとしたけれど、つい笑っちゃった。
──そんな経験をしたことはありませんか。
私はあります、何度となく。
変な言葉や変な言い回しに出会うたびに、「こいつ何言ってんの?」とムッとし、そのあとなぜか笑いがこみあげてくるのです。
笑えるほど可笑しいなら、聞き逃してしまうのは惜しいという気もします。
そこで私は密かに収集しているのです、変な言葉の数々を。
私が集めた変な言葉のコレクションをご披露しましょう。
●ご弊社
──というような電話がかかってきました。
私は絶句いたしましたよ。
だって、ご弊社って、あなた……。
弊社に「ご」をつけても、尊敬語にはならないのです。
そんなことも知らずに、よくセールスなんかやっていられるな、と妙に感心してしまいました。
●ごアクセス
インターネットの動画配信サービスを利用中に、
という音声が流れてきました。
この調子でいくと、近い将来、
なんて言われるようになるのかもしれませんね?
●お依頼
と、取引先の人に言われたことがあります。
「ご依頼」というならわかるのですが、「お依頼」というのは初めて聞きました。
ちなみに、パソコンに「ごいらい」と入力すると「ご依頼」と変換されます。
続いて、ものはためしにと思って、「おいらい」と入力してみたのです。
さすがに一発で「お依頼」と変換されることはなかったので安心しました。
しかしですね、「お依頼」などという言葉を一度でもPC上で使ってしまうと、驚いたことに、二度目からはストレートに「お依頼」と変換されるようになります。
だけどそれ↑、間違ってるでしょ!?
しっかりしてよ、ATOK!
「記入」
「予約」
「注文」
「予算」
「安心」
「家族」
「一人」
「体」
「許し」
「詳しい」
決まりとかルールとかいうほど厳格なものではなく、あくまでも目安という程度のことですがね。
というのは目安に過ぎません。
なぜかというと、例外もあるからです。
「礼状」「加減」「時間」「食事」という言葉は漢語ですが、「ご礼状」「ご加減」「ご時間」「ご食事」とは言わないでしょう。
言うなら(または書くなら)
です。
漢語に「お」をつけることもあるのです。
「ご返事」とも言えば「お返事」とも言うというように、「お」と「ご」の両方が遣われるケースもあります。
どちらが正しいと断定することはできないので、漢語には「ご」、和語には「お」という目安を意識しながら、慣用表現に配慮して使い分けるしかないのです。
●ご存じありません
ある婦人服ブティックに、学校を出たばかりの新人という感じの若い女性店員がいました。
それで私は、その店員さんにこう訊いてみたのです。
すると、彼女はこう答えました。
──ふざけているのかと思いましたよ。
でもそうではなかったのです。
彼女、とても真剣な顔で応じていたのです。
「若い子はこれだから」とばかにされたくなかったら、丁寧語・尊敬語・謙譲語をちゃんと遣い分けられるようになろうよ、ね?
あなたは店員さんなのだから、お客様が知っているかどうかを伺うときは、
と言うべきなのよ。
自分が知っているか知らないかを答える場合は、
と言うのだよ。
「そんなの古くさい。死語だよ、死語」などと、軽く見てはいけません。
今の日本は少子高齢社会で、じいさんばあさん、おじさんおばさんがうじゃうじゃいて、どこで聞いているかわかりません。
うっかり変な言葉を遣うと、「最近の子は、ほんとにばかだね」と笑われます。
笑われて恥をかくだけでは済まずに、場合によっては仕事に支障を来し、上司に叱られることもあるでしょう。
●まとめ
街を歩けば、変な言葉に遭遇するチャンスはいくらでもあります。
あなたもポケットにメモ帳をしのばせて、変な言葉を拾い集めてみませんか。
思わず笑ってしまうような言葉に出会ったら、ぜひその場で書き留めてください。
そして、「こんな変なのを拾ったよ。笑えるよね」と私にも教えてください。
「変な言葉を撲滅しよう」なんて、推奨するつもりは私にはまったくありません。
ただ、笑いのめしてやればいいのです。
そして、自分だけは言語感覚を磨き、研ぎ澄ましていきたいと、そう考えているんです。
人との会話、あるいはテレビ、ネットなどで、言葉遣いに違和感を覚えつつも聞き流してしまうことが続くと、言語感覚は鈍るいっぽうです。
ですから、違和感を覚えたときは、しっかりと記憶に刻むようにしましょう。
そのひと手間によって言語感覚が養われ、話す力と書く力が共に向上します。