分かち書き/空想のおはなし

分かち書き/空想のおはなし『おばあさんが遺したもの』

投稿日:2018年5月31日 更新日:

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語と語の区切りに空白を置いて記述することを「分かち書き」または「別ち書き」といいます。
漢字を用いずに、平仮名と片仮名だけで文を綴る際によく用いられる手法です。

さいた さいた さくらが さいた

というような書き方を、みなさんも小学校低学年のときに、国語の教科書で目にしているはずです。

単語ごとに区切って書くと、次のようになります。

ことし は いつも より はやく さくら が さいた。

文節ごとに区切って書くと、次のようになります。

ことしは いつもより はやく さくらが さいた。

単語、文節、どちらで区切ってもよいのですが、子ども向けの文ならば、単語ごとに区切ってやると、より読みやすいでしょう。
大人が読む場合は、文節ごとに区切ると読みやすいようです。

このブログ記事では、漢字をまじえた「分かち書き」をご紹介します。
「大人の絵本」にふれる気分でお読みいただけますなら幸いです。

空想のおはなし『おばあさんが遺したもの』

坂の多い 港町の とある高台に
とんがり屋根の 小さな家がありました。

そこに暮らしていた 資産家のおばあさんと
おばあさんが育てた 孫娘の話をしましょう。

孫娘には 両親がおりません。
飛行機事故で 死んだのです。
おばあさんにとっては 一人しかいない息子と お嫁さんでした。

事故が起きたとき 女の子はまだ三歳で
自分が親をなくしたことさえ よくわかりませんでした。

おばあさんは すぐに この子をひきとりました。
その頃は おじいさんもお元気でしたが
毎日涙を流すうち 一年とたたず 亡くなっていました。


やがて おばあさんは アパートを一軒 建てました。
たちまち 借り手が決まりました。
町に大きな工場ができ、働く人々が おおぜい 押し寄せていたのです。

こうしてお金が入りだすと
おばあさんはもう一軒、さらに一軒と、アパートを増やしていきました。


女の子は 小学校にあがる歳になりました。

おばあさんは毎朝 夜明け前に孫娘を起こし、
二人で坂を下って 港まで 歩くのでした。

水平線のお陽さまを拝んでいる間に 空はすっかり 明るくなります。

帰りは少し遠回りをして、三軒のアパートを順に 見てまわりました。

夕方 女の子が学校から戻ると また散歩です。
おばあさんと孫娘は毎日 裏山のてっぺんまで 登りました。

山の枯れ木が 夕焼けの炎に焼かれるような 冬の日の入り。

綿雲が薔薇色や黄金に染まる 夏の夕暮れ。

いつも二人は あたりが暗くなって 何も見えなくなるまで
じっと立ちつくしていました。

女の子は十五歳を過ぎ、日に日に きれいになっていくようでした。
それなのに なぜかいつも気分が ムシャクシャしてなりません。

おばあさんが「アパート」のことを「アバート」と 言い間違えるのが嫌でした。
おばあさんが台所で立ったままお茶をすすっているのを見て、
「やめてよ みっともない」と 意地悪を言うこともありました。

そうやって おばあさんをいじめるたびに
娘のお腹にいる意地悪虫は ますます暴れるのでした。

はじめて恋をしたときも、気持ちはちっとも おさまりませんでした。
娘が夢中になった男の子は、
恋人をやさしく腕に抱いているときでさえ
わざとほかの女の子の話を するようなひとだったのです。

一度目は 平気なふりをしていました。
二度目のときは ちょっと すねてみせました。
三度目には爆発し、声を荒げて 男の子をののしりました。

本心では 「わたしのことだけ好きでいて」 と必死に願っていたのです。
でも その思いを 正直に打ち明けることができませんでした。


そんなふうに幾年かが過ぎました。

娘は、大好きな男の子にやさしくされても 少しも 喜ばなくなっていました。
いつも不機嫌そうにしていることが 癖になってしまったのです。

すると 夏の終わりのあるとき、男の子が娘に こう告げました。
「おまえと別れたい。こうなったのは おまえのせいだ」
男の子は 疲れきった顔で 逃げ去りました。

娘も どこか遠くへ 行ってしまいたくなりました。

しばらく考えて 行き先はイタリアのローマと 決めました。


ローマでは ヴェネト通りのホテルに泊まろう。
好きなだけ眠って 目をさましたら 街へ繰り出そう。
スパゲティトマトソースは大好物だから たんと食べることができるはず。

思いきって出かけてみると、
娘が思っていたとおりの 陽気で愉快なローマが待っていました。

「帰りたくない。だからおばあさん、もっとお金を送ってちょうだいな」
娘は そう電報を打ちました。

報せを受けとったおばあさんは
アパート家賃のお金を全部 送ってやることにしました。

そして おばあさんのほうからは 電報ではなく 手紙を出すことにしました。

ところが、おばあさんは 本や雑誌や新聞を読むことはあっても、
文字を書くことがあまりありませんでした。

「ちゃんと たべて ちゃんと ねてますか」
たったこれだけを書くのに ずいぶん時間が かかるのです。

それでもおばあさんは、
さっき見た朝焼けがどんなふうにきれいだったか、一日がかりで綴るのでした。

「ここには毎日眺めて飽きない 海と空があるよ。だから今すぐ 戻っておいで」
と思いをこめたのです。


しかし娘は お金を受け取ったとたん、
今度はパリが気になりだして、
セーヌ河近くのホテルに 住みついてしまいました。

そして娘は 毎月欠かさず送金してもらえるのを いいことに
ひたすら 漫遊をむさぼるのでした。

顔見知りになった仲間たちと 朝まで乱痴気騒ぎ。
それはまるで 映画の中にいるような気分でした。

そんなある日のこと。
みんなで夜食を食べに入ったお店で、
娘は突然 ありありとおばあさんを思い出します。

火傷しそうなほど 熱いオニオングラタンスープは
昔よくおばあさんがつくってくれた 鍋焼きうどんみたいな味だったのです。

いっぽう、おばあさんのほうでは、
一匹の魚を一日かけて 食べるような暮らしです。

事情を知った近所の人が心配すると、
「うちにはうちのやりかたがある」と突っぱねます。

おばあさんは とんがり屋根の家も アパートも そっくり孫娘に 遺してやりたいのでした。

「それほど孫がかわいいのなら 働くことを教えてやれ」
と言ってくる人もありました。

そんなときも おばあさんは、
「遊びざかりに 遊んでなにが悪い」
とやりかえしました。

やがて娘は、パリで仲良くなった男の子に誘われるまま、
海を超えて ロンドンに渡っていました。

けれどしばらくすると、
男の子には 娘のほかに何人も ガールフレンドがいると わかったから さあたいへん。

娘は怒って 男の子をぶちました。

それから後は、
来る日も来る日も 朝から晩まで
ピカデリーサーカスやチャイナタウンの 雑踏の中を 一人でさまよいました。

連日連夜 出歩いたせいでしょう。
娘はとうとう体調をくずし、
ホテルの部屋で 寝込んでしまいました。

国際電話を頼み おばあさんにつないでもらうと、
「もしもし。おまえかい? おまえなんだね」
と懐かしいおばあさんの声が 聞こえました。

娘は 自分が今どれほど弱っているか 伝えようとしました。

けれども、「おばあさん わたし わたしね……」
と切り出したきり、あとが続きません。

おばあさんは耳が遠いので 孫娘の様子がおかしいことに 気がつきません。

「おばあさん」と呼びかけられた一言がうれしくて、
日頃の心配も お金の苦労も 何もかも 吹き飛んでしまっていたのです。

それでもおばあさんは かすかに伝わる孫娘の気配へ向けて
「おまえ、無事なんだろう? 元気にやっているんだろう?」
と力をこめて 呼びかけました。

「うん だいじょうぶ」
娘は 精一杯 元気なふりをしました。

「そりゃあよかった。こっちのことは何も心配いらないからね」
おばあさんも 声を限りに言います。

そのとき娘は、
からだが回復したらすぐに 飛行機に飛び乗ることに 決めました。


娘は 生まれ故郷に 戻りました。

久しぶりに見る おばあさんの姿は ひとまわり 縮んでいました。

娘は 自分よりもずっと小さなおばあさんに しがみつきました。

その夜のことです。

おばあさんは夢を見ました。
とんがり屋根の上に立ちあがった自分が、
星空の断崖絶壁に 吸い込まれていく夢でした。

数日後、おばあさんは眠ったまま 息をひきとりました。

それからさらに数日後。
お葬式を終えた娘は  一人で日の出を見に行きました。

刻一刻と 空が明るみます。
水平線のすぐそばに 太陽がひそんでいるのです。

間もなく 太陽は姿をあらわしました。
この世にたったひとつの 燃える火の玉です。

それを今 こうして一人で眺めていることが 不思議に思えました。

そのとき、娘は 目の下に キラキラ光る滴のようなものを 感じました。
「なに これ?」

思わず手にとると、
それは 娘が生まれてはじめて流した 一滴の涙でした。

(おしまい)

関連記事→分かち書き/空想のおはなし『どっちも がんばれ』

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