日本では、四季を通じて雨が降ります。
そうした気象ゆえ、雨にまつわる言葉が数多く生み出されました。
たとえば、春雨、梅雨、秋雨、氷雨、夕立などは、広く知られていますね。
●春に降るから春雨
春雨(はるさめ)って、鍋に入れたり和え物にしたりして食べると美味です。
中国語では「粉条」(フェンティアオ)
台湾では「冬粉」(タンフン))
北京では「粉絲」(フェンスー)
というそうです。
あの細くてツルツルした感触を春の雨になぞらえて「春雨」と呼ぶのは、日本独特の素敵な表現ですね。
●五月雨は「さみだれ」と読みます
雨といえば、「五月雨」という言葉もあります。
さみだれ、と読みます。
「さみだれ? 何のこと?」と思ったら、ネットや辞書で調べてみるとよいですね。
調べておわかりになったように、それは途切れがちに繰り返したり、だらだら続いたりする雨のことです。
この五月雨という言葉は、ビジネスの場でも使われることがあります。
なんていうふうに。
↑どういうことか、おわかりになりますか。
「五月雨式に」というのは、断続的に降る雨のように、という意味です。
「だらだらと長く続くことがあっても大丈夫です」
などの意味がこめられている場合もあるでしょう。
●世界でも稀な、日本語の豊かな世界
言葉を知っている人と知らない人とでは、ビジネスにおいても人間関係においても、次第に大きな差がつきます。
いうまでもなく、より多くの言葉を知っている人のほうが有利です。
人に何か言われるたびに「それってどういうことだろう?」などと悩まずにすみます。
ツーといえばカーで物事がスムーズに進みます。
「あいつはデキる」と、人によい印象を与えること間違いなしですね。
良い機会ですから、ここで雨の振り方をあらわす言葉をひとつでもふたつでも憶えるようにしてみませんか。
前述の「春雨、梅雨、秋雨、氷雨、夕立」だけでなく、日本には雨の呼称がさまざまあり、これは世界でもとても珍しいことだそうです。
言葉の世界に豊かなバリエーションが広がっているのですから、どんどん活用しなければもったいないと思います。
雨にまつわる言葉、その主立ったものをひととおり頭に入れておくと、あなたを取り巻く世界がよりいっそう豊かになっていくでしょう。
それでは、私が「歳時記」にあたって調べたことを列挙していきますので、どうぞご覧になってください。
あなたと一緒に、私もこの場であらためて勉強していきます。
●季節の雨・38種類
●春の雨
・春雨(はるさめ)
春の雨は草木を芽吹かせ、花のつぼみをほころばせます。
そうした雨のなかでも、特にしっとりとした感じのする細い雨を「春雨」といいます。
春雨なら、多少濡れても、何故か不思議といい気分。
『国定忠治』とならび新国劇を代表する作品として知られる『月形半平太』(つきがた はんぺいた)という戯曲の中に、
なんていう粋な名台詞があります。
・春時雨(はるしぐれ)
時雨(しぐれ)というのは、一時的な雨のことです。
降ったかなと思うとまたすぐに晴れたりします。
春時雨は春に降る時雨ですが、冬の雨のように寒さと冷たさを感じさせることもあります。
また、時に雷を伴うことがあります。
・春驟雨(はるしゅうう)
春驟雨とは、春のにわか雨のことです。
急に空が暗くなり、時として雷を伴って降ります。
・菜種梅雨(なたねづゆ)
菜の花が咲く3月〜4月の頃、いつまでも降り続くことがあります。
そんな雨のことを「菜種梅雨」というそうです。
・春霖(しゅんりん)
春の長雨のことを「春霖」ともいいます。
ようやく暖かくなってきたのに、幾日も降り続くのはちょっと憂鬱ですね。
そのため、「淫雨」「陰雨」(いんう)と呼ぶこともあります。
・卯の花腐し(うのはなくたし)
春は卯の花(ウツギの花)が咲きほころびます。
しかし、せっかく盛りを迎えた花を腐らせてしまうかのように、長雨となることがあり、それを「卯の花腐し」と表現したのですね。
・花の雨(はなのあめ)
桜の開花期に降る、細かい雨を、花の雨といいます。
雨とともに花びらが散っていく景色を愛でる繊細な感覚は、日本人特有のものだと思います。
・五月雨(さみだれ)
旧暦5月(新暦では4月頃)、田植えの時季に降る雨を「五月雨」といいます。
「さ」は5月のこと、「みだれ」は水垂れのことを指します。
降り方に特徴があり、途切れがちに繰り返したり、だらだら続いたりすることがあります。
・麦雨(ばくう)
麦雨とは、麦が熟してたわわに実っている頃に降る雨のこと。
五月雨の異称でもあります。
●梅雨
・梅雨(つゆ)
「梅雨」というのは、梅の実が熟す頃、しとしとと降り続く、日本特有の長雨のこと。
梅雨が終わると、本格的な夏になります。
・青梅雨(あおつゆ)
梅雨の時季には、新緑が日ましに色あざやかになります。
そのことを指して「青梅雨」といいます。
・走り梅雨(はしりつゆ)
5月末頃、もう梅雨期に入ったかのように雨が降り続くことがあり、これを「走り梅雨」というんですね。
・送り梅雨(おくりつゆ)
梅雨明けの頃、梅雨を送り出すように強い雨が降ることがあります。
これを「送り梅雨」といい、夏の前ぶれである、ともされています。
●夏の雨
・夕立(ゆうだち)
夏の午後、一時的に強い雨が降ることがあり、これを「夕立」といいますね。
ゴロゴロゴロ〜ッと雷が鳴ることもあります。
でもたいていは一時間もすれば晴れ上がります。
・夏ぐれ(なつぐれ)
夏の夕立のことを、沖縄では「夏ぐれ」というそうです。
梅雨と混同されることもあるようです。
・驟雨(しゅうう)
急に降りだし、間もなくやむ夏の雨。
それを夕立とも雷雨ともいいますが、驟雨と表現することもあります。
・喜雨(きう)、慈雨(じう)
日照り続きのあとに降る雨を「喜雨」または「慈雨」といい、特に農家にとってはありがたい雨とされています。
この雨のおかげで草木は生気を取り戻し、農作物も順調に育っていきます。
・薬降る(くすりふる)
旧暦5月5日(新暦でいうと4月5日頃)を「薬日」というそうです。
この日の正午に降る雨は五穀豊穣をもたらすとされています。
・虎が雨(とらがあめ)
鎌倉時代初期に、虎御前という名の遊女がいたそうです。
『吾妻鏡』にも出てくることから、実在の女性と考えられています。
虎御前は、曾我兄弟の仇討ちを題材にした『曾我物語』など、数多くの軍記物語にも登場し、その名が広く知られることとなりました。
虎御前が愛人の曾我十郎の討ち死にを悲しんで流す涙は、その討ち死にがあった旧暦5月28日、雨となって地上に降るという伝説があります。
それが「虎が雨」というわけです。
●秋の雨
・御山洗(おやまあらい)
御山とは富士山のこと。
富士登山の時期が終了する頃に降る雨を「御山洗」といい、登山期の汚れを洗い流すために降るとされています。
・秋霖(しゅうりん)
春の長雨は「春霖」、秋の長雨は「秋霖」といいます。
夏が終わり、本格的な秋に入る前に、梅雨のように幾日もしとしとと降り続きます。
・時雨(しぐれ)
降ったかと思うとすぐに晴れる、一時的な雨のことを「時雨」といいます。
年間を通じて使われることの多い言葉ですが、本来は、晩秋から初冬にかけて降る一時的な雨のことを指します。
・秋時雨(あきしぐれ)
晩秋は比較的好天に恵まれますが、山などでは急に雨が降り出すことがあります。
すぐにやむことが多いようです。
そんな秋の雨のことを「秋時雨」といいます。
・初時雨(はつしぐれ)
冬の初めの時雨を「初時雨」と呼びます。
いよいよ冬になったという思いが感じられる、よい響きです。
・糠雨(ぬかあめ)
糠というのは、穀物を精白した際に出る果皮、種皮、胚芽などのことですね。
日本では昔から、米糠を利用して糠味噌漬けを作ってきました。
キュウリ、ナス、カブなど、季節の野菜の糠漬けがあると、ご飯が進みますね。
糠は粒子がとても細かくて、さらさらしています。
そんな糠のように細やかな雨のことを「糠雨」というんですね。
「小糠雨」または「霧雨」ともいいます。
●冬の雨
・寒の雨(かんのあめ)
小寒(旧暦11月後半から12月前半。現在使われている暦では1月5日頃)から、節分(2月4日頃)にかけての間に降る、寒気厳しく冷たい雨のことです。
・寒九の雨(かんくのあめ)
寒の入り(現在使われている暦でいうと1月5日前後の小寒の頃)から9日目に降る雨のこと。
この雨が降るとその年は豊作だとされています。
・氷雨(ひさめ)
雹(ひょう)、霰(あられ)、霙(みぞれ)などのように、氷まじりの冷たい雨です。
●その他の雨の表現
・陰雨(いんう)
陰々滅々とした雰囲気の暗い空から降る雨。
いつまでも降り続いて陰気くさくなる雨。
・篠つく雨(しのつくあめ)
細い篠竹を集めて太くしたものが勢いよく付き下ろされるように降る雨。
大粒で、雨脚は強く、音も激しい。
・小夜時雨(さよしぐれ)
夜に降る時雨。
・白雨(はくう)
夕立やにわか雨のように、明るい空からざっと降りだす雨。
・霖雨(りんう)
何日もしとしとと降り続く長雨。
・村時雨(むらしぐれ)
この場合の「村」とは、「叢」「群」の当て字。
ひとしきりざっと降ってやみ、とおりすぎる雨のこと。
・狐の嫁入り(きつねのよめいり)
日が照っているのに突然降り出す通り雨。
狐にばかされたように感じることから、「狐の嫁入り」といわれるようになった。
・横時雨(よこしぐれ)
風が吹き、横ざまに降ってくる時雨。
・露時雨(つゆしぐれ)
草木に露がいっぱい降りていて、さながら時雨でも降ったような感じがすること。
●まとめ
さまざまな雨の表現をご紹介してまいりました。
バリエーション豊かですね。
「時雨」という語を元に、「春時雨」「秋時雨」「初時雨」「小夜時雨」「村時雨」「横時雨」「露時雨」と数々の派生語が誕生しているのは興味深いと思います。
「恵みの雨」といいますが、
雨を薬に見立てるとは、なかなか斬新な発想だと思います。
こういう発想もアリなんだ〜と知ったことで、意識空間がぐんと広がったように感じます。
かつて子供の頃に憶えた「天気雨」という言葉も好きですが、今後そういうときは「狐の嫁入りだね」と言って、周囲をちょっと驚かせてみたいと思います。
あなたもお気に入りの表現を見つけて心に留めおき、ここぞという場面で使ってみてください。