文章力アップ

文章力/「で」という助詞

投稿日:2017年5月18日 更新日:

助詞「で」の適切な使い方をご存じですか?

知っているといないとでは、会話力にも文章力にも大きな差がつきます。

「聞いてよし読んでよし」の素敵な日本語をマスターするために、

今回ここでは徹底的に「で」にこだわってみましょう。

●どこか引っかかる「で」という言葉

助詞の使い方が間違っているような、いないような、微妙なケースってありますね。

次の文中に、助詞の「で」が2回使われています。

あなたはどう感じ、どう解釈しますか?

【例文】

ついに、ついに!

ミュージカルのお仕事をシコシコ頑張ってやってきたけど、私もついに歌って踊れる演技派の女優さんとして認めてもらえました。

半年前、舞台大きな役をもらいました。

今日、舞台大きな賞をもらいました!

仲間とお祝いのパーティやるから来てね。

会費はなしよ。

できれば、お花なんか持ってきてくれるとうれしいなあ〜。

<質問>

・半年前に、どんな役をもらったのでしょうか?

1.新劇の主役
2.映画の脇役
3.ミュージカル舞台での大役

(正解はおそらく、3)

<質問>

・配役がなされた場所はどこですか?

1.舞台上で
2.楽屋で
3.場所については示されていないのでわからない

(正解はおそらく、3)

<質問>

・女優として認められ、大きな賞を「どこで」受け取ったのですか?

1.舞台の上で
2.自宅で
3.場所については示されていないのでわからない

(正解はおそらく、3)

【改善例】

ついに、ついに!

ミュージカルの仕事をシコシコ頑張ってやってきましたが、私もついに、歌って踊れる演技派女優として認められました。

半年前、舞台での大きな役をもらったのです。

そして今日、その舞台演技で大きな賞をいただきました!

仲間が祝賀パーティを開いてくれるので、あなたもぜひ来てね。

会費無料です。

できれば、お花なんか持ってきてくれるとうれしいなあ〜。

<解説>

・例文にある「舞台で」という表現では、「舞台の上に呼ばれて、大役を任命されたのかな」「スポットライトのあたる華やかな舞台の上で賞状や賞品を手渡されたのかな」と解釈する人もいるでしょう。

・「舞台での大きな役」とすれば、予定されている舞台演目の大役を与えられたのだということが正確に伝わります。

・「その舞台演技で」とすれば、大役を得た舞台で力量を発揮して高く評価され、大きな賞を受賞したのだということが確実に伝わります。

・「舞台演技で」の「で」は、場所を示す「で」ではなく、理由や原因を示す「で」です。

●うかつに「で」を乱用すると言語感覚が鈍ります

助詞「で」には、主に次の3種類の使い方があります。

1.動作が行なわれる場所を表す(例/部屋で読書する)

2.手段を表す(例/パソコンで書く)

3.理由や原因を表す(例/涙で景色がにじむ)

●理由や原因を表す「で」その1

理由や原因を表すために「で」を用いるときは、少し注意が必要です。

【例文】あの人は美人得だ。

<質問>

・「あの人」はなぜ得をしているのでしょうか?

1.美人は人に好かれ、いろいろと面倒をみてもらえるから
2.美人は食事の量が半分で済むから
3.美人はたいてい背が高いから
4.美人は不美人よりもお金を拾う確率が高いから

(正解はおそらく、1)

【改善例1】

あの人は美人なので得だ

【改善例2】

あの人は美人だから人に好かれて、何かと得だ。

<解説>

・「美人で得だ」という表現が間違いだというわけではないのですが、

「美人なので(または「美人だから)」人に好かれて、何かと得だ」

とすれば、より明快に意味が伝わります。

●理由や原因を表す「で」その2

【例 文】その日はあいにく、仕事の都合伺えません。

【改善例】その日はあいにく、仕事の都合により伺えません。

<解説>

・「仕事の都合で」として、間違いではありません。
「家庭の事情で」という場合も同様で、これらは理由や原因を表す「で」に相当します。

それでも、「仕事の都合により」「家庭の事情により」としたほうが、より丁寧な表現になり、相手に好い印象を与えることと思います。

●理由や原因を表す「で」その3

【例 文】地震倒れない家に住みたい。

【改善例】地震があっても倒れない家に住みたい。

<解説>

・「地震で倒れる」というなら適切な表現ですが、「地震で倒れない」という言い方には違和感があります。それを言うなら、「地震があっても倒れない」もしくは「地震でも倒れない」でしょう。

ちなみに──

【例 文】この建物日本最も新しい耐震工法が用いられた。

【改善例1】この建物には、日本最新の耐震工法が用いられた。

【改善例2】この建物で、本邦初の耐震工法が用いられた。

↑「この建物で、日本で最も新しい耐震工法」とすることもできますが、「で」が二度続くと読みにくいため、「本邦初」と書き換えました。

●理由や原因を表す「で」その4

【例 文】まだ5時眠い。

【改善例】まだ5時では眠いはずだ。

<解説>

・「まだ5時だから眠い」とするほうが自然に感じられる場合もありますが、それではやや幼稚な印象になってしまうので、「まだ5時では眠いはずだ」としました。

●まとめ


・助詞「で」を使う理由として、「動作が行なわれる場所を表す」「手段を表す」「理由や原因を表す」のいずれにも当てはまらない場合は、「で」を他の言葉に置き換えるか、または新たに言葉を加えて、的確な表現をするようにしていきましょう。

【例】

「地震倒れない」→「地震でも倒れない」「地震があっても倒れない」

「ひまな時間やる」→「ひまな時やる」

「勉強よりもクラブ活動頑張る」→「勉強よりもクラブ活動頑張る」

・違和感があるにもかかわらず、「まあ、なんとなく意味は通じるからいいや」とスルーしてしまうこともあるでしょう。

無意識のうちに「で」を乱用していることもあります。
「では、そういうこと
「私はコーヒー
「ちょうど1000円

というように、「で」の後に続くはずの言葉を省略してしまっているのです。

省略しなければ、

「では、そういうことで、よろしくお願いいたします」
「私はコーヒーでいいです」
「ちょうど1000円です」

というようになりますね。

・上記のような省略が度重なると、せっかく身についた言語感覚が次第に鈍くなり、日本語として適切ではない表現にも何ら違和感を覚えないようになっていき、これはちょっと危険なことです。

・不適切な言い回しを聞いた瞬間(見た瞬間)に強い違和感を覚えるのは良いことです。
そうでないと、間違いだらけの文章を平気で書き、人に笑われるということになりかねません。

・人の言葉や文章にちょっとでも違和感を覚えるときは、「どのように直せばより明快な表現になるだろう」と考えてみることを習慣づけると良いですね。

関連記事→文章力/「の」という言葉

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