彼女はT子、彼はK君。
ふたりは同じ高校の1学年違いで、15歳と16歳の出会いだった。
T子新入学の春が終わる前に、お互い好きになっていた。
それから2年後、K君が一足先に卒業した。
大学浪人生となったK君は、前ほどT子に構わなくなった。
ひとりでいるのがつらかったT子は、K君以外の男の子ともずいぶん仲良くした。
K君もまた、T子以外の女の子と仲良くすることがよくあった。
そんなふうにして45年の月日があった。
K君が61歳で病死するまで、ふたりの仲は途切れ途切れに続いた。
その45年のうち、最後の12年間に、ふたりはメールのやりとりをした。
それが膨大な交信記録となって、T子の手元に残っている。
交信のはじまりは2004年。
T子の名刺にメルアドが記載されており、それを捨てずに持っていたK君がアクセスしたのだった。
ふたりが言葉を交わすのは、数年ぶりだった。
そして3年がたち、今は2007年──。
【2007 April】

●T子──<最近どうですか>
仕事、いろいろ大変だろうと思います。
身体のほうは大丈夫ですか。
万事順調にいっているでしょうか。
だといいけど。
私はここ1、2年、試練の時が続いている感じ。
この程度で試練?
このくらいで済んでいるならいいじゃないか。
とも思いますが。
ともあれ、以前ほどスムーズにいかなくなりました。
今はじっとこらえて、己の至らぬ点を補うべく前向きに対応するのみ。
来年になればまた良い流れに乗れる運勢とのこと。
早く復活したい。

●K君──今タイのバンコクにいます。
『デスノート』のスピンオフ『L』のロケが終わったところ。
多々、あり。
バンコクの夕焼けを眺め、「涙」流しビールを浴びる日々。
現場の「負債」の人質状態であるけれども、タイという国を理解する良き機会には感謝。
(まあ、いろいろありました)。
優しいおじさんとやくざなおっさんが交互に出現し、周囲は戸惑っているようです。
頑張れT子。
君は、オレの永遠の恋人であり、だからライバルだ!
