恋愛かくれんぼ

恋愛かくれんぼ2006

投稿日:2021年6月24日 更新日:

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彼女はT子、彼はK君。
ふたりは同じ高校の1学年違いで、15歳と16歳の出会いだった。
T子新入学の春が終わる前に、お互い好きになっていた。

それから2年後、K君が一足先に卒業した。
大学浪人生となったK君は、前ほどT子に構わなくなった。
ひとりでいるのがつらかったT子は、K君以外の男の子ともずいぶん仲良くした。
K君もまた、T子以外の女の子と仲良くすることがよくあった。

そんなふうにして45年の月日があった。
K君が61歳で病死するまで、ふたりの仲は途切れ途切れに続いた。

その45年のうち、最後の12年間に、ふたりはメールのやりとりをした。
それが膨大な交信記録となって、T子の手元に残っている。

交信のはじまりは2004年。
T子の名刺にメルアドが記載されており、それを捨てずに持っていたK君がアクセスしたのだった。
ふたりが言葉を交わすのは、数年ぶりだった。

そして2年がたち、今は2006年──。

【2006 January】

●T子──出ようとすると、思わぬ試練が降り掛かるのね。
年頭からずっと、打たれてます、私。
強いプレッシャーも感じています。
本当に書いていけるのか?覚悟はあるのか?実力は?コンセプトは?売りは?展望は?と問われている気分。
そんなもんねえや、と居直ってしまいたい。
だって、ここで青写真つくっても、そのとおりにできるとは限らないから。
実際は、一作ごとに視界が開けていくものでしょう。

デビューすれば、「こんなものを書いてみないか」といろいろな編集者から声がかかって、世界が広がっていくだろうと、それを一番の楽しみにしていた。
そういう未来を取り上げられて、というか先延ばしにされて、がっくりきている。

でもね、これまで25年間ずっと仕事をしてきたんだし、ライターになってからは単行本を25冊書いた。
だから、必ず書き続けていける、実力はある、と自分を信じる。
流れに身を任せてみる。
そして、なんとかしてデビューを果たすよ。

【2006 February】

●T子──おたくの妹さん、Mさんでしたっけ?
Mさんは息子さんの学校で委員を務めていらっしゃるようね。
共に委員をやっているのが私の旧友、旧姓○○さんなの。
そのことを今日耳にして、いやあな気持ちになりました。
だって、彼女、おしゃべりなんだもん。
今はもう、私から彼女に何も話してはいないけれど、昔のことにせよ何にせよ、よけいなこと言うなよと釘をさしておいた。
これ、とりあえずご報告ね。

ところで、父いわく、私の名がT子に決定される以前は、「碧」という名が有力候補だったとのこと。
芸能人みたいだという理由で祖父の反対にあったそうだけど、父はかなり気に入っていたらしい。
このたびペンネームが必要かなということになり、そのことを思い出したよ。
もしこれを採用するなら、○○碧、碧T子、どっちがいいと思います?

【2006 March】

●T子──いい本でした
○○教授の本、なかなかの出来映えにて感心しました。
私が特に気に入ったのは101、110、125、135、137、161、170-171、175、180、184、190、194頁で、数えてみればけっこうあるよ。
それだけ面白かったということかな。

あなたも第1作目に比べると随分こなれてきましたね。
本作は構成もいいし、平明な文体で読みやすい。
ひょっとして、編集者の手がだいぶ入ったのかな。
あら、変なこと聞いちゃってごめんなさいね。

だけど、仮に編集者のサポートがあったとしても、あれだけの結果が出せたのだから立派なものです。
今後は、どこの出版社にも自力で、ライターとして売り込めますよ。
それに、この作品はそこそこ売れるだろうと思いますよ。
○○書房の営業力に期待しましょう。

初版のギャラは少なかったでしょうが、とてもそんな額では見合わない労作だものね。
担当編集者さんに次の仕事を堂々と催促してくださいな。
だって、お世辞ヌキでホントにいい内容だもん。
私など、194頁では泣きそうになりました。
あの部分は教授ではなくて、あなたのメッセージなのかなあ。

だとしたら、私もまんまとのせられたね。
何故のせられたかというと、110頁があまりにリアルで、我がことのように思えたからでした。
あれでまたハッと気づく点もあったわけでした。

それはともかく、いい仕事をしてくれてどうも有難う。
これで私もホッとしました。

…………………………

●K君──前略
たとえハウツー本であろうと、「若い人に対してのメッセージ」という意味では、何を題材に書いても、同じメッセージを書くことになる。
いかにハウツーのテクニックを展開しようと、基本は「人としてのあり方」次第だからね。
山あり谷ありの恥多き人生を重ねれば、人生にとって何が大切なのか、見えてくるものもある。
もう若くはないのだ、という諦念も、そして達観もある。
「狼は生きろ、しかし、豚もやっぱり生きろ」だと思う。
○○書房の編集○○さんは、誠実だったと思うよ。
重版2000部は決まりました。

『デスノート』という映画と格闘中です。
終わったら、横浜でデートしよう。

【2006 April】

●T子──めんたいこ、かま、たくさん頂戴しました。
教授本の出版記念? 博多から?
私にはこんなふうに気を使わなくていいってば。
でも、ありがとう。

…………………………

●T子──試写会券、届きました。どうもありがとう。
お仕事、順調のようですね。
よかった、よかった。
今後もうまくいきますように。

【2006 May】

●T子──お元気ですか。
今日はシナリオライターの仕事の件で、ちょっとお話を。

私が親しくしてもらっているライター仲間の友人にシナリオライターの女性が2人いて、業界の様子を聞かせてもらう機会がありました。
雑誌や単行本の世界と違って、かなり間口は狭いようですね。
気軽に同業者を紹介したり、手が足りないからと仕事をまわしたり、なんてことは滅多にないと。
仕事の発注はたいてい、プロデューサーかディレクターから。
フリーのクリエイターを扱うプロダクションもあって、そこに加入するのは結構ハードルが高い。
でも加入すれば仕事はある(テレビとかの)。
ただし何かと競争も激しい、と。

いやあ、いろいろ大変みたい。
しかし、そういう業界で長年生き残っているのだから、その女性2人(あなたも)、実力あるほうなのでしょう。

それに、ここで私があれこれ言うまでもなく、あなたのほうが業界に詳しいでしょう。

だけど私が思うに、あなたもプロデューサー歴を活かしてシナリオライターになればいいじゃん。
シナリオ書いてギャラもらった実績がなくても、過去につくった習作や新企画をプロダクションに持ち込んでみたらどうですか。
まったくのフリーよりも、多少は安定するんじゃないかな。

シナリオライターに転向する、と本気になったら、またいくらでも助言助力してくれる人物が現れるでしょう。
私の知り合いもそう言ってたし、その女性たちだって少しは力を貸してくれると思うよ。

それとも、今後もプロデューサーの仕事1本でいくほうがいいのかな。
だとしたら余計なお世話でした。

ともかく私、縁のあった人には、いい思いをしてもらいたくて。
私はそれなりに仕事に恵まれていると思うので、感謝と謙虚の姿勢をくずさずに、これからも精進します。

先に作家デビューを勧めてくれた編集者は今、私以外の件でトラブル続出、バッシングもあり、苦しい状況に置かれています。
その編集者がいる出版社自体も倒産寸前という噂。

だけど私は、ほとんど無傷。
デビューは延期になったものの、仕事は順調です。

今年も1本、自分の書きたいものを書こうと思っています。
なんとしてもデビューするというのではなく、ああ私はこういうものを書きたかったのだ、と喜べるような仕事をするのが先決、という心境です。

【2006 June】

●T子──ひょっとして○○さんから連絡いきましたか?
「映画の製作に関して、Kさんの協力を得たい」とのこと、私宛に電話がありました。
だけど私は、「ノーギャラなので困る。もう橋渡ししたくない」と断りました。
しかし、それでも懲りずに電話をかけるような気配でした。

これを知ったゼロがひどく怒りまして、「Kさんには絶対にもう○○の口車に乗らないよう、ぜひ一報してほしい」とのこと。

とりあえずメールでお知らせしておきます。

…………………………

●K君──ご無沙汰しています。
マコ○○氏がなくなったので、ある種の障害がなくなったのかもしれませんね。
マコ○○氏の自伝映画でも、という話なのでしょう。
想像はつきます。
企画としては、ありです。
ドキュメンタリーとしても。

○○氏から連絡はありません。
ゼロの姉さんからは、「着信」を確認しましたが、返していません。

『ヨコハマメリー』は観ましたか。

何か書きたいな、と思えば、やはり、横須賀のことに収斂してゆきます。

そのうち、飯でも喰いますか。

…………………………

●T子──『ヨコハマメリー』は観ました。
『ダヴィンチ・コード』だったか『ナルニア国物語』だったか、いずれかを観に行ったとき、幕間の暇つぶし(続けて2回観るので)にタイミングよく券が買えたの。


観てよかったとは思うけど、ありゃ明らかに監督が若すぎるよ。
メリーさんがまだきれいだった頃の、当時の空気をまるで知らないみたい。
全編通じて、ピンと来なかったな。

唯一の感動は、山口の養老院にいるメリーさんの素顔。
あれは観ておいてよかった。
よく寝てよく食べ生命力を取り戻したのか、まず20年は若返ってたじゃん。


本当にもう、びっくりするほど、しぶとい女。
慰問に訪れたシャンソン歌手の男はその後間もなく亡くなっているのに、「もうダメ」と引退したメリーさんのほうは、まだしばらく生き延びそうだもんね。

私もハタチの頃に横浜のデパートへマネキンのバイトに行き、偶然、人気のないピアノ売り場でメリーさんの弾く『君が代』を聴いたよ。
鳥肌がたった。
そのときの衝撃から、メリーさんを赤い靴の女の子に見立てた演劇台本を書いてしまった。
今思うと愚作だけど。

後に知ったところでは、石黒ケイもメリーさんのことを「赤いブーツをはいたマリア」と歌ってるんだ。
さすがだと思ったよ。

横浜でのメリーさん最後の根城、福富町GMビルのエレベーター前のことも私は知ってるさ。
借金返済のために、そこのクラブで一時期働いてたから。

あの頃のメリーさんは、まるでオバQみたいだった。
クラブのママたち、ホステス、飲みに来るお客たち、みんなそれぞれ、バブルが弾けたあとの傷を抱えて必死だったけれど、それ以上にメリーさんの姿は痛かった。
巷間伝わる「メリー伝説」なんか、もう誰も信じていなかった。
あんなになるまで働かないで、家でじっと静かにしていてくれればいいのに、でもそれができないのは「業」なんだろうね、という感じだった。

そのメリーさんも今は生まれ故郷で元気回復されたようだし、まあよかったのかなあという思い。

だけど、横浜が看取ってやることはできなかったのね。
実家のある田舎に送り返したのよね。
そこらへんが、ちょっとつまんないなあ。

蛇足ながら、ここに書いたのと同じことを、すでにあなたに喋ったかもしれません。
それは私がくどいからではなく、記憶力低下のせいですので、大目にみてやってください。

【2006 July】

●K君──如何お過ごしですか。
映画は、一段落しました。
100億円興行に届かんとする勢いなのですが、わが財布には、まるで残らず。
元の木阿弥。
プロデユーサーの著作権、あるべきだよなあ、と思いつつの今日この頃です。

…………………………

●T子──<こんなふうにお過ごしでござる>
手がけた映画が大ヒット、よかったじゃん。
100億円興行なら、印税1%として1億円。
それだけの仕事を成し遂げたと思えばいいさ。

【2006 November】

●T子──私も50歳になったよ。
今年から私、人に誕生日を祝ってもらうのでなく、生み育ててくれた両親を招いてもてなすことにした。
当日はうちに一家集まってワイワイやったよ。
弟に「抱負は?」と聞かれて、「長生き」と答えたよ。

そのほか、東京で知り合った同い年の友人(ゼロのことだけど)と互いに祝いあったり、小学校からの友達、中学の友達、高校の友達と、何度も誕生パーティをやって忙しかった。

仕事は相変わらずだけど、常に仕事がある点は有難い。

今年は自分の作品づくりに長い時間を割く余裕がなかったので、短いもの(おとな向き絵本の原稿)を書いてみた。
これに絵をつけてもらって、「企画の○○○○さん」に持っていこうかなと考えているところ。

絵本の次は詩集をつくりたいな。
ジャック・プレヴェールの詩みたいにわかりやすくて、一瞬にして心を持っていくやつ。
1篇ごとに絵がついていれば、詩集が売れない日本でもけっこう売れるんじゃないかな。
韓国では詩集がよく売れるそうだから、翻訳版も出せるといいなあ。

あなたは横須賀のことを書いてください。
ドブ板の光景や女性の心理描写は私が加筆してあげようか、なんちゃって。

…………………………

●K君──T子様
そうだよ、大台に乗るよな。

映画のヒットはいいのだが、わが身に入るわけじゃないんだ。
公開後のなんやかやで、すでに2ヶ月ただ働き。
師走にあたり、青息吐息。
赤信号が点る。

相談。20万円貸してくれないか。
恥ずかしい話なのだけれど、実はバブル崩壊のさなかデフォルトして、未だ金融機関と仲良くお付き合いできない状態なんだ。
先の、来年の目途はあるのだが、目先のものがない。
ちょっと、逼迫している。
言えた義理ではないのは、はなはだ承知しているけれど・・・。
T子さんの台所事情が、もし許すならば、お願いしたいのです。
たまに来たメールが、借金願いで、申し訳ない。
一考を。

…………………………

●T子──
>実はバブル崩壊のさなかデフォルトして、未だ金融機関と仲良くお付き合いできない状態なんだ。>
↑自己破産したってことなの?
それならどうして、その後稼ぐ方法を変えなかったの?
ああそうか、宅配便の仕事したんだったけ?
そういうのはもう出来ないの?
福祉事務所に相談してみる?

>先の、来年の目途はあるのだが、目先のものがない。
↑実は私も同じ。今年になって書いた10本がダンゴ状態で、来年早々から順次出版される予定なの。
だから最低でも500万円が売り掛けになっていて、このところずっと過去の印税だけで生活してるのよ。
昨年はデビュー作を書くために仕事を休み、貯金使い果たしちゃったし。
これ以上ひどくなったら、著者の先生に借金するしかないよ。

つねに300万は通帳に残しておきたいよね。
資金繰りの心配せずに暮らせるのは快適だもん。
お金に余裕があればデートが楽しめる、恋ができるよ。

節約と健康のために、図書館通いしてるの。
週に2回は往復1時間ウォーキングだよ。
行くたびに本代が6千円は浮くから、帰りはつい「ロト6」を買ってしまう。
当たったら少し分けてあげる。

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