「この本を読んでよかった。出会えて幸せだ」と強く感動したとき、私はごく短いものですが読書感想文を書くようにしています。
わずか数行のメモであっても、あるとないとでは大きく違います。
自分はこんな本を読み、こんなことを考え、ここに感動した。と記録を残すことにより、いい思い出がどんどんストックされていきます。
私の「思い出貯蔵庫」から、いくつか紹介したいと思います。
当ブログ読者の皆様がこれから読む本を選ばれる際に、少しでも役立ちますなら幸いです。
『雨の日にはプッシィ・ブルースを』荒木一郎
とんでもないタイトルですが、内容は決してお下劣ではなく、でもやっぱり表だっては言えない裏社会や夜の世界のことで、それを面白おかしく描いた短篇小説集です。
え、あの歌手で俳優の荒木一郎?こんなに文章うまいの?
と驚くほど、トッポい文体がサマになっています。
歌も、演技も、小説においても、荒木一郎さんは強烈な個性を発揮しますね。
彼はちょっと陰があって、危険な印象。そこが魅力です。
お書きになるものはシャープで歯切れよく、じわじわと情感高まっていく感じです。
野坂昭如、浅田次郎もこういう裏っぽい小説を書いていましたね。
荒木一郎のはもっとライトで、ドライで、私の好みにドンピシャです。
ちなみに、「いとしのマックス」という曲も、大好きでした。
『アウトロー俳句』新宿歌舞伎町俳句一家「屍派」北大路翼
歌舞伎町しかばね派、というネーミングに惹かれて読みました。
私が特にぐっときた句を紹介させてもらいます。
大根を静かにさせて漬ける母
猛々しいまでの生命力を感じさせる立派な大根。
「母」はその皮をむいたり、塩もみしたりしておとなしくさせてから、糠床もしくはキムチに漬け込む、と私は解釈しました。
「母」は何でもなさそうにそんな作業をするけど、そばで見ているオレはなんだかエロ感じちゃうぜ、ということでしょう。
料理はけっこう暴力的なのかも、ですね。
やはりそこはかとなくバイオレンスを感じさせる一句で、人間の内に潜む無意識の暴力性を暗示しているのかもしれません。
そして、バイオレンスというものは、人によってはエロスにつながるのでしょうね。
人妻の調教終えて神社まで
神社というのはたぶん、新宿の花園神社かなと推察します。
調教を受けたMの女性は、人妻なんですね。
人妻だけどというか、人妻だからこそ夫に内緒で、適格な調教をしてくれる男性にお相手願いたいこともあるのでしょう。
そして男のほうは、人妻とそういうひとときを過ごしたあと、神社へ。
お参りに行ったというわけではなく、単に通り道だから。
そんなとき、なんとなく神妙な気分になっちゃうこともあるんだぜ、ということでしょうか。
あるいは、男性は今日お相手したMの女性がリピーター顧客になってくれるといいなと願っていたので、思わず神社に足が向いたのかも。
またあるときは、激しい調教の末にヘトヘトに疲れ、まったく人間ってやつぁ・・・と気分消沈しながら神社で手を合わせているのかも。
いろいろな解釈が成り立ちます。
その一つひとつを、こうして言語化していくと、さらに新たな気づきが掘り起こされます。
そして想像力が広がっていくのを感じます。
次の4句も私は大好きです。
●駐車場 雪に土下座の跡残る
●太陽にぶん殴られてあったけえ
●ウーロンハイ たった一人が愛せない
●好きなのは少し壊れているところ
たった17文字なのに、ひとつの短篇小説を読んだような気分にさせられます。
●まとめ
今回は、以下の2冊をご紹介しました。
『雨の日にはプッシィ・ブルースを』荒木一郎著
『アウトロー俳句』新宿歌舞伎町俳句一家「屍派」北大路翼著