彼女はT子、彼はK君。
ふたりは同じ高校の1学年違いで、15歳と16歳の出会いだった。
T子新入学の春が終わる前に、お互い好きになっていた。
それから2年後、K君が一足先に卒業した。
大学浪人生となったK君は、前ほどT子に構わなくなった。
ひとりでいるのがつらかったT子は、K君以外の男の子ともずいぶん仲良くした。
K君もまた、T子以外の女の子と仲良くすることがよくあった。
そんなふうにして45年の月日があった。
K君が61歳で病死するまで、ふたりの仲は途切れ途切れに続いた。
その45年のうち、最後の12年間に、ふたりはメールのやりとりをした。
それが膨大な交信記録となって、T子の手元に残っている。
交信のはじまりは2004年。
T子の名刺にメルアドが記載されており、それを捨てずに持っていたK君がアクセスしたのだった。
ふたりが言葉を交わすのは、数年ぶりだった。
そして1年がたち、今は2005年──。
【2005 January】
●K君──あけましておめでとうございます。
ラフ原稿最終章のみ、越年。
5日終了。
本日、著者の教授と打合せ。
企画の肝の<実用書>の部分が、うまくいかない。
どうすれば、「こうすれば、『やる気』がでる!」んだろう?
でもまあ、筋は通ったことだし、とりあえずオレ的に納得。
これからが、たいへんです。
編集者が見放さないでくれることを祈る、のです。
今年も、諸処、お世話頂けるようお願い申し上げます。
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●T子──あけましておめでとうございます。
昨日、京都より戻りました。
やる気を出す一番の方法は、
未来のビジョンをビッグに描きつつ、足下の階段は低めに設定して昇ること。
こきざみに達成感を味わえるといいみたい。
あまたある自己啓発本が実用書部分の参考になるでしょ。
このあいだ差し上げた西田氏のものとか。
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●K君──美味しい湯葉を召し上がられたことでしょう。
羨ましく思います。
誰と食べたのか、すこし妬けます。
もっとも、「T子さんと、湯葉を食う」場面など想像できるものではありません。
☆☆
本日、著者含めて打合せ。
著者が、納得していたのはヨカッタ。
このあと、編集者の納得に向けて、ちょっと頑張る、ということです。
編集者として、○○氏は誠実です。
たった一回の経験と比して。
サンキュー。
頑張れるよ。
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●T子──○○書房での1作目、終了した?
2作目は決まった?
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●K君──昨夜、岩手山中より帰京。
今週中に、改稿あげる予定です。

●K君──金曜日、加筆含め、原稿送った。
(約束の日だったので)
☆☆
月曜日までに、もう一度、校正、文意・文脈の直しの時間を貰った。
結構、「リキ」入った。
読み応えありだと思う。
教授、外人という立場がヨカッタ。
客観的な視点に立てるのは、よかった気がする。
結構、自己的には満足。
すこし、いい気分。
だから、今日は、矢作俊彦の『ロング・グッドバイ』を、やっと開くことができた。
<Jim Beam>を飲りながら、読んでいる。
やっぱり、<原点>かと思う。
☆☆
『暴走族本』の話、編プロから来て、「おじさんでもいいか?」と返信した。
いいとなりゃ、やるかな。
これも<原点>か?
☆☆
松沢呉一って、知ってる?
最初の『映画』、一緒にやってた早稲田の子。伊藤チャン。
エッチ系サブカルでは、大御所的存在なのかなあ。
近況です。
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●T子──<祝・脱稿>
いい仕事ができたようで、こちらも安心。
本、送ってくださいね。
たくさん売れますよう、心の中で応援。
印税、次の仕事をもらう件ほか、○○書房に遠慮なく申し出るのよ。
いずれ、力をあわせて協同作業もいたしましょう。
☆☆
そういえば、○○さんところの本は増刷はまだ?
3刷くらい、いくと思ったのに。
☆☆
「暴走族本」もいいと思う。
どんどん手を広げるべし。
松沢呉一氏は何か関連あり?
☆☆
当方の近況も聞いて。
ごく自然のなりゆきで、私にとってのベスト編集者(女)が決まりました。
その女性と組むと必ずヒットが出せる。
まるで子どものように食いついてくるから、私もとことん書いちゃうわけよ。
ほかの編集者では、ここまで来られなかったかも。
そんな彼女は将来独立する見込みだし、私が著者デビューすると確信してる。
エライでしょう?
☆☆
あとは、3月末に引越しがあります。
4月は新居しつらえのため、仕事オフ。
5月はルーマニアとパリにステイ。
立続けに3億円ヒット飛ばしたので、著者と出版社からのご褒美旅行なの。
ヨンジュンの写真を携えて行ってきます。
私が日本を離れている間も、新作が爆発的に売れて記録更新の予定。
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●K君──T子さん
昼前に、直しの原稿送った。
そのあと、飲み始めた。
「達成感」と一縷の反省。
ところで、ルーマニアはいいな。
ドラキュラの夢でも見ながら、もう寝よう。