言葉エッセイ

落語×小説家=言文一致体(現在の書き言葉の起源)

投稿日:2017年5月29日 更新日:

今の気分にフィットする、いきいきとした文を書きたい。

時代の空気にあわせて、新しい表現を生み出したい。

──と私は思っています。

思い切っていろんな書き方をしたいなあ。

文章だってバリエ豊富なほうがだんぜん楽しいもんね。

教科書みたいな文章ばっか書いて、「文法いのち」なんつってるのはダサいよ〜

ヤバヤバだよ〜。

↑時にはこんな書き方をすることがあっていいと思うのです。

文法(ルール)に縛られ、身動きがとれないようでは困ります。

文章を書くときは、できるだけ気楽に、柔軟に構えるのがいいようです。

ただ、これだけは絶対に疎かにしてはならないと思うことがあります。

それは──

読む側にとってわかりやすい文章を書くこと、です。
そのために文法というものがあるのだと思います。

だけど、そもそも文法って、どのようにつくられてきたのでしょう。

文法(ルール)の起源(ルーツ)をたどってみましょう。

●書き言葉の歴史は平安時代に始まる

日本人は、文字の使用が始まるはるか以前から、口承という形で、歌や叙事詩を残してきました。

文献(文字で書かれたもの)による文学は平安時代に始まるとされていますが、当時使われていた書き文字は主に、中国大陸から伝わった漢字でした。

したがって、古事記も日本書紀もほぼ漢文に近いのです。

平安時代の上流階級にとって、漢語を読み書きできることは必須の素養とされていました。

やがて、宮仕えの女官たちの手で、やまとことばによる読み物が編み出されていきました。

↑表音仮名(万葉仮名)で書かれた新しい文学です。

その嚆矢というべき『源氏物語』は、日本最古の長編小説にして、日本古典文学のうち、『万葉集』と並んで最も大きな作品とされています。

『枕草子』は、平安時代の女流文学の中では『源氏物語』とあい並んで双璧とされています。

やまとことばは漢語よりも親しみやすく、漢字よりも仮名のほうが読みやすいということもあり、紫式部や清少納言をはじめとする女官たちの書く読み物は多くの読者を得ました。

高位にあって権勢を誇る男性が女性の筆名で(というのは、男性が用いるのはもっぱら漢語とされていたからですが)、やまとことば仮名文字による日記や物語を残した例もあります。

●鎌倉・室町、和漢混淆の文語体が誕生

時は移って、貴族にとって代わる新興階級、すなわち武家に政権が渡り、鎌倉幕府が樹立されると、文学者階級にも変動が起きました。

吉田兼好『徒然草』、鴨長明『方丈記』など、男性隠者の手による読み物が隆盛したのです。

『保元物語』『平家物語』といった軍記物語が盛んに書かれるようになったのも、この時代です。

日本昔話の原型ともいえる御伽草子、そして今に続く能狂言も、鎌倉・室町の時代に登場しています。

↑その時代の書物の文体はというと、和漢混淆の文語体でした。

室町幕府の勢いが衰え、群雄割拠の中で織田信長が目覚ましい躍進を遂げ統一勢力を得るに至った時期を境として、日本の文学は中世文学から近世文学へと変貌を遂げていきます。

封建的な武士の文学から自由探求の精神を宿す町人の文学へ、そして海外へも目を向けた文学へと、発展していったのです。

●江戸は町人文学が花盛り

安土桃山時代を経て、次いで江戸幕府の時代となると、ごく一部とはいえ西欧諸国との交通が開かれ、イスパニヤやポルトガルの宣教師によって切支丹文学が移入されました。

印刷が盛んになり、書物の普及とともに、古学や漢学も復興しました。

五七五七七短歌の伝統と常識を打ち破り、五七五の俳句が出現しました。

しかし江戸時代の文学の特徴はなんといっても、町人文学の隆盛でしょう。

日本文学史上、代表的な作品と作家を挙げるとすれば、五指の中に数えられるのは、万葉集、源氏物語、そして松尾芭蕉、井原西鶴、近松門左衛門であるとされています。

↑江戸の三巨匠、芭蕉、西鶴、近松の存在がいかに大きく、また、町人文学がいかに多大な功績を残したかということです。

●革新的な明治時代にも相変わらず和漢混淆の文語体

300余年の長きに亘った徳川幕府も終幕となり、明治政府が樹立されました。

幕末から明治の初年にかけては、「富国強兵」「国利民福」「独立自尊」など、「四字漢字」の熟語が多数創出されました。

また、それまでの日本になかった概念が欧米諸国から移入されて、「自由」「演説」「討論」「版権」といった新しい日本語が創案されました。

↑明治期には、言語文化に大きな変化があったのです。

しかし、明治維新ですべてが一新されたわけではありませんでした。

書き言葉についていえば、江戸時代とそう変わらず、和漢混淆の文語が用いられていたようです。

「絵に画ける楊貴妃の容貌は、いみじき画師といへども、筆限りありければ、甚匂ひなし」

といった具合です。

「絵に画いてある楊貴妃の姿は、ひどく立派な絵描きといったところで筆には限りがあるからして、絵の楊貴妃には匂いが(なんともかともいえぬほど良いといったところが)ない」

というように、話し言葉に近い文体で書くという発想そのものがなかったと言っていいでしょう。

●明治時代の半ば、ようやく言文一致の文体が登場

現在の私たちが読み書きしている文に近いものが誕生したのは、明治21年のことです。

当時、坪内逍遙という作家は、「巷で流行の人情噺家・三遊亭円朝の速記本を新文体の参考にするように」と、二葉亭四迷らに薦めていたそうです。

山田美妙という作家も、三遊亭円朝速記本の影響を受け、日本で初めての言文一致体の小説「夏木立」を発表しました。

↑和漢混淆文を捨てて新しい文体が生み出されたのはよいのです。

しかし、美妙の小説は語尾の終止形の据わりが悪いために冗漫さが目立ち、また文章としての体裁をなさない箇所もあったため、その新しい文体が普及するには至らなかった、とされています。

明治21年、日本語が大きな転換点にさしかかっていることは否定のしようのない事実だったでしょう。

ヨーロッパ文学の翻訳が盛んになり、旧来の日本語文体がいっそう古くさく感じられるようにもなっていきました。

そこで、先に名を挙げた坪内逍遙、二葉亭四迷、山田美妙をはじめとして、尾崎紅葉、幸田露伴、北村透谷、樋口一葉、泉鏡花、田山花袋、国木田独歩、武者小路実篤、徳富蘆花、徳田秋声、永井荷風、島崎藤村、そして夏目漱石、森鴎外、それから谷崎潤一郎、志賀直哉といった錚々たる作家たちが、時代に見合う言文一致の文体を次々と創造していったわけです。

●小説家が日本語をつくってきた

明治、大正、昭和にかけて、日本の書き言葉は目覚ましい変化を遂げ、現代日本語の礎が築かれました。

それはひとえに、小説家たちの試行錯誤による賜だとされます。

話すように書くというのは、誰もができそうでできなかった斬新なスタイルで、文学史をぬりかえるほどの重要な出来事だったのです。

小説家が日本語をつくってきたといって過言ではないでしょう。

さらに留意したい点があります。

かつて、文を書く人はごく少数だったということです。

文字を読むことはできても、書くことはできない、自分の名を書くのが精一杯という人が多かったのです。

しかし文字を読めるのですから、文章を書けるようになるまで、あと一歩だったはずです。

その、あと一歩を押し進めたのが、言文一致の文学でした。

漢文でも和漢混淆文でもなく、ふだん使っている言葉を、話すのと同じように書くことなら、読み書きに不慣れな人でもやってやれないことはありません。

実際、書こうとする人が増えていったのだと思います。

そのようにして、日本人全体のリテラシー(読み書き能力)は飛躍的に向上していったのでしょう。

明治、大正、昭和にかけて、時代に見合う言文一致の文体を次々と創造した小説家たちの果たした役割はとても大きいと言えます。

私たちが日頃何気なく読み書きしている日本語の背景には、そうした歴史があるのだということを、心に留め置きたいと思います。

●まとめの一言

時代とともに言葉が変化していくように、言葉に関する決まり事(ルール)、つまり文法も移り変わっていきます。

言文一致の文体を模索し続けた作家たちに倣い、「破壊と創造」の精神で文筆に取り組んでいきたいと思います。

関連記事→2020東京オリンピック・パラリンピック聖火ランナーは誰?

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