【2011 February】
●T子──「小泉を撃て」の小説は書かないの?
その作品の構想は、前にメールで知らせてもらったし、野毛で○○さんと飲んだときも話していたじゃん。
時局が変わったからだめ?
そんなことないよね。
☆☆
吉屋潤(だっけ?)の話も面白かったから、ぜひ書けばいいのに。
矢作俊彦みたいになっちゃわないで、K独特のものにしてほしいな。
それこそ世界文学(平岡正明氏の定義による)になる可能性を秘めているけど、それにはあなた自身(というか、あなたの生活、人生)を作品の根底に据えねばならない。
そういう書き方はしにくいだろうと思う。
だから、ミステリー、サスペンス、スパイ小説のノリでいったらどう?
近松、西鶴、野坂に続く「戯作=穿ちの文学」としてのスパイ小説にしたら面白そう。
そういうのもまた、純文学といって良いのではないかと思います。
☆☆
あなたの構想はでかいから、300枚は書かないとならないでしょう。
大変ですよね。
でもディテールはほぼ調べがついているんでしょ?
だったら、できる。

●T子──連日メール送りつけて、うるさいと思われるかもしれませんが、聞いてほしいことがたくさんあるの。
『鈴木いづみ×阿部薫 ラブ・オブ・スピード』を読み、いろいろ新発見しました。
いづみさんがSFマガジンに書くようになったのは眉村卓氏の勧めだったのだそうよ。
へえ、そうなのか、ふーん、と思うでしょ。
若松プロの昔の作品に阿部さんが出演してること、追悼パーティ主宰したことなどは知ってたけど。
若松監督は、阿部さんのことを映画にするなら絶対に自分がやると決めていたんだって。
だから稲葉真弓さんが取材に来たとき、「よそに原作渡さない」という約束で、知ってること全部喋ったんだって。
あとそれから、いづみ作品が復刻されて若い人たちにけっこう読み継がれていたり、阿部さんの音楽も相変わらず根強い人気、というか伝説・神格化の扱いらしいね。
私たちより20歳も若い女性ライター、本城美音子さんという人がいづみさんの作品に興味をもち、当時の知人に取材してまわって文章にした。
その企画にゴーかけた雑誌の編集長はいづみさんのことも阿部さんのことも知らなかったけど、とにかく面白そうだ、でも二人一組で扱うことが条件、としたんだって。
その文章のなかに感動的な一節がありましたので引用します。
「あれほどの輝きを持つものが忘れられるはずがない。二つの彗星が流れたのは後にも先にもあの時だけで、だからその輝きは今も消えないのだ」
☆☆
私はあのおふたりについて何か書きたいとか語りたいとかいう思いはありませんが、たまにはいづみさんの書いたもの読み直すのも悪くないな、と。
いづみさんが最後に書いた小説『ハートに火をつけて』のラストシーンは、いづみさんと私が横浜の山下公園で海を見ているところなんだよ。
私が横浜に引っ越してすぐ、いづみさんがうちに来て、一緒に中華街、本牧へ行った。
中華街での目当てはエ○ィ・藩さん、本牧の目当てはル○ズ・ル○ス・加部さんだった。
あのころのいづみさんはもう、阿部さんより加部さんのほうが好きだった。
最後に山下公園へ行ったというのはフィクションだけど、私について「この子は頭がいい。でもそれが何になるのだろう」というようなことをたしか書いていて、そのことの意味を考えちゃったり笑っちゃったり。
『鈴木いづみ語録』というのが出てるらしいから、それ読んで元気だそうと思ってます。

●T子──たびたび、ごめん。
ネットで調べてわかったこと。
1992年、作家・稲葉真弓は鈴木と阿部を描いた実名小説『エンドレス・ワルツ』を刊行したが、93年、当時16歳の鈴木らの長女からプライバシー侵害と名誉毀損で民事提訴された。とあるじゃないの。
その反面、同作品で女流文学賞を受賞しているじゃないの。
やだやだ、こういう仕事はしたくない。
あの原稿をたまたま雑誌で見たとき、へんだなと思ったのよ。
(新潮、すばる、群像、海燕、文学界、そのいずれかだけど)。
いづみさんは生前、阿部さんとの出会いから別れまで、葛藤のほぼすべてを自分で書いてるよ。
死別後のことは書いてたかどうか、忘れちゃったけど。
それに、阿部さんがらみの原稿はちゃんと1冊にまとめてなくて、あちこち散らばってたと思うけど。
でも本人がすでに書いてるのに、なぜ他人があちこち聞き回って書く必要がある?
私はいやな気持ちになったよ。
☆☆
若松プロも阿部さんのことを映画にしたいなら、まず鈴木いづみの書いたものを読むべきでした。
そう思いません?
みんなあのふたりのこととなると目の色変えるけど、いづみさんの作品をきちんと読んでる人は少ないような気がする。
そこが頭にくるわけよ、私としては。
でも、文遊社というところから全作品が復刻されて新しい読者を増やしているとのこと、これは朗報です。
…………………………
●K君──T子さま
中華街のお話もおもしろそうだね。
いずみとの山下公園での邂逅、これはいけるよ。
☆☆
刺激を受けていろいろ考えるが、「書く時間」と「書く場所」、「書く余裕」かな。
☆☆
永田洋子が亡くなりました。時代が過ぎていきます。
☆☆
お母さんの直感を大切に。
☆☆
K酔う(小芭蕉)
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●T子──矢作俊彦は、小説よりもエッセイのほうが面白い。
それでも時々、言葉が足りなくて真意をはかりかねるところはあるが。
『複雑な彼女と単純な場所』のなかで、日活無国籍アクションを語っています。(もう読んだかもしれないけど)
私も楽しく読みました。
ただひとつわかんないのは、裕次郎と若大将を同時期のように語っていること。
いや、著者がそんな勘違いをしているはずはなく、しかし読者に誤解を与えかねないという点を指摘したいのよ。
裕次郎は若大将より、少なくとも5年から10年は早いよね。
私は小学校にあがる前、毎週のように親に連れられて安浦のピカデリーで日活映画を観ました。
それが裕次郎や鍵だったと記憶しています。
☆☆
下町の東宝で若大将、森繁、クレイジーキャッツ、怪獣を観るようになったのは10歳前後。
☆☆
矢作さん、横浜を愛した横浜の男。
好感もちました。
私も横浜に生まれていたら、どっぷり横浜だったでしょう。
うちのママに昔の横浜、もっと詳しく聞いておこうと思います。