●『言葉にして伝える技術 ソムリエの表現力』田崎真也著
ワインの色・香り・味を表すためにソムリエが使いそうなちょっとキザな表現、いわゆる「ソムリエ言葉」ですが、私あれがわりと好きでして、そういう「人を酔わせる言葉」を蒐めてみたいと思っていました。
しかしソムリエがその手の言い回しを口にするのはグルメ漫画の世界においてだけで、実際のソムリエたちはごくシンプルに、果実や花やハーブ&スパイスの香り・乳製品系の香り・木樽醸造と熟成による香りに言及するに過ぎないのだそうです。
意外でした。
それでもその独特の表現には何かしら裏技があるでしょと期待して、この本を読んでみたのです。
著者の田崎真也さんが表現力を磨くためにやっていること、それは──
なのだそうです。いろいろ考えていらっしゃるんですね。
おいしさを伝えているようで伝わらない「NGワード」についても書かれていました。
そこで列挙されていたNGワードを書き写してみます。
こういった「紋切り型の表現・常套句」では、おいしさの実感は伝わらないのですね。
それに、「クセがない」「甘過ぎない」、だからおいしいとは限りませんよ、物足りないと感じる人だっているはずですよ、ということも指摘されています。
なるほど〜。そうとも知らず、私は安易に、上記のようなワードをしょっちゅう口にしていましたよ。
今後はもっと意識して言葉を使うようにしないといけませんね。
本書では、「〜だからおいしい」という誤った先入観・無知あるいは情報不足ゆえの誤解・勘違いが数多く指摘されています。
「〜だからおいしい」とは限らないので、そこんとこ、よく調べて、よく考えて話すようにしたほうがよいですよ、ということですね。
私も気をつけます。
うかつに、グルメっぽいことを言うのはやめます。
そのかわり、といってはナンですが、自分の頭と身体、つまり感覚機能をフル動員するつもりで、今この瞬間に感じていることを言語化していくとよいのですね。
人と話すときも、文章を書くときも、よーく考えて言葉を探すようにしたいと思います。
●『音楽嗜好症』オリヴァー・サックス著
『音楽嗜好症』の著者オリヴァー・サックス氏は脳神経学の専門家で、本書以前に『レナードの朝』『妻を帽子とまちがえた男』を書いています。
私はこの本を読んではじめて知ったのですが、世の中には「音楽が好き」というのを通り越し、日常生活に支障をきたすほど音楽に取りつかれてしまった人々がいるんですね。
著者はそうした驚くべき症状を「音楽嗜好症」と名づけました。
約30もの豊富な症例が紹介されており、それはたとえば──
落雷を受けて臨死体験をしたことがきっかけで、それまで無縁だったピアノ演奏にのめりこんだ人。
ある音楽を聴くと気絶する人。
ほかのことが手につかないほど、音楽の幻聴があって苦しんでいる人。
突如として絶対音感や共感覚に目覚めた人。
音楽の助けを借りてはじめて、人と話ができる人。
などです。
そして、実際にあった症例をもとに、神経作用との生理学的相関関係を探っています。
なぜそうなるのか、という点でいうと、脳神経学の見地からいくつか仮説が成り立つようですが、明確に立証するところまではいっていないようです。
しかしともかく、そういった人々がごく少数とはいえ現実に存在することは確かなのです。
人間の脳って不思議ですね。
人間と音楽の関係も不思議です。
「愛する人と死別して感情が凍りついたとき、心を覆う氷を突き破ったのは音楽だった」と、これは著者自身の経験談として語られていますが、私もそれと同じような思いをしたことがあり、共感を覚えました。
●まとめ
今回は、以下の2冊をご紹介しました。
『言葉にして伝える技術 ソムリエの表現力』田崎真也著
『音楽嗜好症』オリヴァー・サックス著