文体模写(パスティーシュ)

椎名誠氏の文体模写「銭湯でゆず湯につかってアヂヂヂヂ」

投稿日:2018年1月31日 更新日:

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この記事のひとつ手前の記事は、

「冬至のカボチャとゆず」

にまつわる話でした。
前記事→12月22日は「冬至」、12月上旬から翌1月初めにかけては「冬至日」

私の手によるこの前記事を、もしも有名作家の誰かが読んで手を加えるとしたらどんなふうにするのかな〜〜

という前提で、遊び心の文体模写をしてみたのが本記事です。

前記事と本記事、併せてご笑覧いただけますなら幸いです。

さて、まずは文体模写について少しお話ししたいと思います。

文体模写、つまり他人の文章スタイルを真似て書くことは、筆力向上におおいに役立ちます。

ですからこれは、暮らしに役立つ情報を確認しながら、ついでに言葉力アップグレードをはかるという、一粒で二度おいしい企画なんですね。

年間シリーズ企画としてお届けする予定で、今回はその第10回目、椎名誠氏バージョンをお届けします。

暮らしに役立つパスティーシュ(文体模写)
第10回・椎名誠氏バージョン

「んぐんぐ、ビールうまい」のあの作家だから、きっとこう書くだろう


「銭湯でゆず湯につかってアヂヂヂヂ」

オレが子供の時分には、ゆずなんてものはあまり見かけなかった。

だから湯豆腐のつけ醤油に黄色くて薄っぺらい皮みたいなもんがちょびっと入れられているのをはじめて見たときは「なんだこりゃ。醤油にカスでもたまってんのか」と店の親父に文句を言ったりもした。

でも食ってみたらうまかった。
つーか、いい香りがぷーんとたちのぼってきて、「うめえうめえ、こんなうめえ醤油は見たことも聞いたこともねえ」と感動してしまった。

今ではすっかり慣れて、鍋にも味噌汁にもゆずを吸い口にしたがるほどのファンである。

であるからして、冬至の日には風呂にどほんどぼんとゆずを十個も二十個も投げ込み、「どーだ参ったか。わははは」とワケもなく大喜びをしている。

しかしオレはぬるめの湯が好きであるから、我が家の湯船ではゆずがよく煮えない。
煮えないというよりも、よーするに香りがあまり立たないのである。

「十個も二十個も投げ込んだのに、まだダメか。湯の温度が低いせいだというのはわかるけど、もしかすると湯の量も足りないのかもしれんな。ならばよし、風呂屋のどでかい浴槽につかってやろう」
そう考えたオレはタオルと小銭を手にひっつかんで町の銭湯へ出かけた。

番台で勘定を払い、一刻もはやくゆずの香りをかぎたい一心で着ているものを急いで脱いだ。

そして脱衣場から風呂場の扉を開けると、おお、もうもうと立ちこめる湯気にまじって、ゆずのあの上品な香気がオレの鼻腔をくすぐるではないか。
これだよ、これ、とオレは満足だった。

しかし、オレは熱い湯が苦手である。
浴槽に足の先を入れただけでもアヂヂヂヂとなる。

この熱い湯を水でじゃんじゃん薄めてやるために、アヂヂヂヂを必死にこらえ、水道の蛇口のほうへと移動していく。
アヂヂヂヂ、ああ、だけどいい香りだ、アヂヂヂヂ、いい香りだけど、やっぱりアヂヂヂヂ。
それでオレがどーしたかというと、早々に湯船からあがり、あとはもっぱら洗い場で身体を洗ったり頭を洗ったりしながらゆずの香をかぎまくり、二度と湯にはつからなかったのである。

ちなみに、せっかくのゆずの香りを損ねることのないよう、石鹸もシャンプーも使わなかった。
蛇口を押せば出る湯と水を洗面器にためて、頭からザバーッ、これの繰り返しである。

何度もいうようだが、オレはぬるめが好きであるから、頭からかぶる湯も温度は低い。
次第に身体が冷えてきた。

わざわざ銭湯までゆず湯につかりに行って湯冷めしたのはオレくらいのもんだろう。

(つづく)

関連記事→内田百閒氏の文体模写「もうじき正月がくるってえのに」

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