この記事のひとつ手前の記事は、
について、でした。
前記事→10月31日ハロウィーンには、幸せを呼ぶ魔法の呪文を唱えたい
という妄想的前提に立ち、遊び心で文体模写をしてみたのが本記事です。
前記事と本記事、併せてご笑覧いただけますなら幸いです。
さて、まずは文体模写について少しお話ししたいと思います。
文体模写、つまり他人の文章スタイルを真似て書くことは、筆力向上におおいに役立ちます。
ですからこれは、暮らしに役立つ歳時記情報をゲットしながら、ついでに言葉力アップグレードをはかるという、一粒で二度おいしい企画なんですね。
年間シリーズ企画としてお届けする予定で、今回はその第7回目、林真理子氏バージョンをお届けします。
暮らしに役立つパスティーシュ(文体模写)
第7回・林真理子氏バージョン
あの時代を知っている作家なら、きっとこう書くだろう
「バブルの頃のハロウィーン」
1980年代後半から90年代初頭まで、日本にはバブルの時代というものがあった。
ハロウィーンというものが流行りだしたのも、その頃からだったように思う。
もちろん私も誘われて出かけましたとも。
仮装した大人が一流ホテルやディスコに集い、キャビアをつまみながらシャンパンを飲むという、それはそれは豪華で遊び心のある一夜を満喫したものだ。
「新しい文化が広く浸透し、定着していくためには、それ以前に似たものがなくてはならない」
と何かの本に書いてあった。
スパゲティという食べ物がこれだけ日本人に親しまれるようになったのは、それ以前にうどんやそばといった麺文化があったからだという例が引かれていた。
なるほどね。
では、ハロウィーンはどうか。
スパゲティと同じく、一時の流行に終わらずに、日本の暮らしに根を張るだろうか。
「あのね、日本には昔から、邪気を祓うための呪文があるの。福はうち、鬼はそと、ですよ。呪文の効果を信じて唱える文化的土壌があるから、ハロウィーンの『トリック・オア・トリート』もいけるんじゃない?」
と、ある男友達に言ったら、
「うん、なかなか鋭いことを言う」
と褒められた。
つい最近、その褒めてくれた彼と飲む機会があったので、
「ねえねえ、バブルの頃に私がこう予言したこと憶えてる? ハロウィーンは絶対に一時の流行なんかで終わらない。トリック・オア・トリートっていう呪文、すごく語呂がいいし、おっしゃれーな響きだから、大人も子供も毎年ノリノリでコスプレして、ガンガンに楽しむわよって。あの予言、ずばり当たったわね」
と得意顔で自慢したところ、
「予言、予言って、うるさいな」
と嫌な顔をされてしまった。
そこではっと気づいた。
思い返せば、私はその昔、彼に会うたびに苦言を呈していたのだった。
「あんまり派手にお金を使いまくってると、奥さんに愛想をつかされるよ。見栄はって人におごるのはホドホドにしておかないとね」
その「予言」が現実になり、彼は事業の資金繰りが苦しくなったばかりか、とうとう妻にも逃げられたのだった。
「おまえも作家ならわかるだろ。言葉には言霊ってものが宿ってるんだ。口にしたことはいつか本当になっちゃうんだよ。だから、不幸を暗示するようなことはうかつに口にするな」
彼は心の中で私にそう毒づいていたような気がして仕方がない。
ならば、後れ馳せながら私はこう言い換えよう。
「だから、今日はご馳走してくれなくてもいいよ。友達なんだから、一緒にいるだけで楽しいよ」
ね、これならいいでしょ。
(つづく)