言葉エッセイ

祖父母・父母・私・子・孫──世代が変われば言葉も変わる

投稿日:2017年5月6日 更新日:

私は昭和30年代の生まれで、昭和ひとけた生まれの両親と明治生まれの祖父母が口にする言葉を耳にして育ちました。

思い返すに、祖父母の会話はいつもこんな調子でした。

(祖母)
あれまあ、おじいさん、大変なこった。

隣に聞いた話じゃ、前の空き地にアバートが建つってよ。

なんでも二階建てのアバートにするらしいよ。

↑祖母はたしかに、「アパート」ではなく「アバート」と言っていました。

(祖父)
そりゃ塩梅(あんべえ)悪りぃな。

こっちが日陰にならぁ。

(祖母)
けんど土地は隣んちのもんだから、何したって文句は言えめぇよ。
(祖父)
いんや、おらがちょっくら行って話してくらぁ。
(祖母)
あれ、言ってるそばから誰か来た、隣によ。

高そうなジャンバー着た男だよ。

大工の棟梁かね。

下見だろうね。

顔が真っ赤っか。

まあ、いやらしい。

昼間っからお酒飲んでるよ。

↑祖母はたしかに、「ジャンパー」ではなく「ジャンバー」と言っていました。

(祖父)
昼間から飲んでるだと?

ふてえ野郎だ。

●言葉なんて、あっという間に移り変わるもの

これが父と母の会話だったなら、どうだっただろう、と考えてみました。

(母)
おとうさん、前の空き地にアパートができるんだって、知ってた?

隣に聞いたら、二階建てにするって。

(父)
そりゃ困るな。

こっちは陽当たり悪くなるじゃんか。

(母)
でも土地は隣のもんだから、何をしようと文句言えないんでしょ?
(父)
苦情申し立ての権利はあるだろうけど。
(母)
あ、隣に誰か来た。

ジャンパーなんか着ちゃって、高そうだね、あれ。

大工の棟梁か?

下見に来たんだよ、きっと。

赤い顔して、昼間っからお酒飲んでるみたい。

(父)
いいから放っとけよ。

祖父母と父母は年齢的に30~40年の開きがありました。

↑これだけ間があくと、言葉はおおいに変わるものですね。

私も子供の頃はそんなこと気にも留めなかったのですが、今にして思うと、言葉というものはあっという間に移り変わるものだということがよくわかります。

●高齢者、中年、若い人たち

さて、あれから50余年の歳月が過ぎた今、江戸時代の名残が感じられる明治の言葉を聞かせてくれた祖父母はもういません。

残っているのは両親の世代、そして、その子供である私たちの世代、そのまた子供や孫の世代です。

この3~4世代にわたる、高齢者、中年、若い人たちという3つのグループでは、言葉遣いもだいぶ違います。

たとえば──何か苛立たしいことがあったとき、

おおかたの高齢者は「イライラする」と言うでしょう。

中年は「イラつく」と言うかもしれません。

若い人なら「イラッときた」と言うのかな。

世代によって言葉の違い方に違いがあることを、私は常日頃感じています。

●文法なにそれ、みたいな?


しかし、言葉の感覚が違うからといって、

「あんた、その言い方、変だよ」

と異議を唱えたりはしません。

どんな言い方に違和感を覚えるかは、生まれた年代によって異なり、私の両親や祖父母の例にもあるように、一世代経るごとに、日常の言葉遣いは目覚ましく変化していくものだと思うのです。

そのこととはまた別に、

正しい日本語を遣おう!

文法を守らなきゃダメ!

などと目くじら立てても所詮は無駄、学校や親がいくら厳しく躾をしても時流には勝てない、という思いもあります。

文法なにそれ、みたいな?

それってぶっちゃけチョー面倒。

ハッキシ言ってやめてほしいモード。

逆にいうと、ワケわかんないし〜

というのが、大半の人の本音ではないかという気がします。

●怒るよりも笑え

だとするならば、違和感たっぷりの変な言葉に出くわしても、

へえ、そんな言い方もあったのか。

と面白がっていればいいのではないかと思います。

怒るよりも笑え、です。

コミュニケーションの要諦は、相手を責めるよりも受け容れること。
これに勝る方法はないと信じて、どんな言葉も、どんな相手も、拒絶せず、とりあえずつきあってみようと思っています。

関連記事→言葉の女子力・男子力

-言葉エッセイ

執筆者:


comment

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください

関連記事

自著刊行後の販売促進活動

自著刊行へ向けての原稿をまとめあげ、編集者に読んでもらってOKが出ると、原稿は出版社から印刷所・製本所に送られて本になります。 こうして出来上がった本は流通ルートに乗って全国の書店に配布されます。 あ …

電子書籍と紙の書籍、それぞれのメリット・デメリットを著者の立場で考えてみました

電子書籍の市場には、出版関連の専門家だけでなく、まったくの素人も少なからず参入しています。 プロの作家やイラストレーターや写真家でなくても、誰もが自分の作品を世に出すチャンスを与えられているのです。 …

活字文化の水準とクォリティを保つために心がけたい2、3のこと

電子書籍は、出版社を通さなくても出版することができます。 個人、ことに無名の個人が電子書籍を出す場合は、出版社の編集者が介在することはほとんどありません。 電子書籍の著者と読者はダイレクトにつながって …

ゴーストライターのお仕事

私は人に職業を訊かれたとき、表向きは単に「ライターです」と答えていますが、厳密に言うなら「ゴーストライターです」ということになります。 なぜゴーストなのかといえば、本来存在はずのない人、陰の存在だから …

チーママ・オーママ/小ママ・大ママ

【チーママは小さいママ? オーママは大きいママ?】 バーやクラブにいる「チーママ」って、大ママの下で働く小ママのことだと思っていました。 でも正しくは、オーナーママだからオーママで、その管理下でチーフ …

2023/06/29

「を抜き」「は抜き」を改善しよう

2023/06/23

「か抜き」言葉を改善しよう

2022/12/01

「お申し付けください」よりも「仰せ付けください」のほうが良いなあ

2022/08/15

男と女の日常茶飯劇

2022/04/01

ライターが習得した速読法

2022/03/30

「十分」と「充分」に違いはある?

2021/12/26

Kindleペーパーバック出版、私もやってみました。

2021/01/19

「XX時からXX時に行きます」という言い方は、変じゃない?

2020/09/07

主語がなくても通じる、日本語の不思議

2020/08/27

チーママ・オーママ/小ママ・大ママ

2020/02/27

表記統一の観点からいうと、「行う」ではなく「行なう」が正しい

2020/02/26

「語尾上げ」しゃべりが癖になっていない?

2020/02/06

TOKYO MXテレビ『5時に夢中!』に出演しました。

2019/11/29

ものの数え方・73選

2019/11/28

馬から落馬・顔を洗顔←重ね言葉はやめよう

2019/11/27

カタカナ語の乱用防止に、この日本語を!!

2019/11/16

「理想」の対義語は□□、「流行」の対義語は□□。

2018/10/18

頭から離れる?離れない? 正しい言い方はどっち!?

2018/09/18

横浜に代々伝わる「ハマ言葉」

2018/09/03

文章構成術/基本フォーマット12種類

2018/03/10

なぞなぞ傑作選・必笑78題

2018/03/09

テープ起こしをすると文章力が高まる!!

2018/03/02

ネガティブなことをポジティブに言い換えるレッスン

2018/02/16

「い抜き言葉」はカジュアルな場面でのみOK

2017/10/03

月の呼称/睦月・如月・弥生・卯月・皐月・水無月・文月・葉月・長月・神無月・霜月・師走

2017/06/02

読点の打ち方を完全マスター!! ①

2017/05/20

文章力/接続詞の乱用禁止!! 大事な場面で効果的に使おう

2017/05/16

文章力/説明がうまい人は「修飾語」(形容詞・形容動詞・副詞の3点セット)に強い

2017/05/05

悪文リライトにチャレンジしてみませんか

2017/05/04

文章力を高める10の行動。すべて試してみる価値あり!

2017/04/30

混じる?交じる? 漢字の書き分けは、頭をやわらかくする知的なゲーム

2017/04/23

先入感?異和感?それって漢字変換ミス? 同音異義語・同訓異字の落とし穴

2017/04/22

「れ足す言葉」は、くどい、しつこい

2017/04/21

「さ入れ言葉」は上品か下品か?

2017/04/20

「ら抜き言葉」はOKかNGか?

2017/04/16

アブない隠語も、正しく覚えれば失敗しない

2017/04/04

ビジネスマナー/尊敬語と謙譲語の使い分け

2017/03/24

日本語の乱れ/あざーす・やばくね? 変な言葉や言い間違いが増えていますね?

2024/04/17

「値上がる」という表現は不適切。名詞を動詞のように使うときは、できるだけ助詞を付けてほしい。

2024/04/15

主語と述語のつながりが微妙にねじれているように感じられる文って、気持ち悪いよ

2024/04/12

「見せる」と「見させる」の違い・「見せて」と「見させて」の違い

2024/04/10

「ご覧になって」の「なって」は省略可

2024/04/09

「万一○○の時は、いつでも力になるよ」、この文はどこか変だと思いませんか?

言葉をたくさん知っていると、話すのも書くのも自由自在。頭を整理しながら自分の思いや考えを的確に伝えられるので、いつも気分よく過ごせます。仕事や人間関係にきっと良い影響があるでしょう!!

当サイト「言葉力アップグレード」は言葉の世界を豊かにし、話し方・書き方をレベルアップする技術を紹介しています。どうぞご活用ください。

follow us in feedly