この記事のひとつ手前の記事は、
「家族そろってお正月」
という内容でした。
前記事→お節、お雑煮、屠蘇湯──家族そろって食すことに意味がある
という妄想的前提に立ち、遊び心で文体模写をしてみたのが本記事です。
前記事と本記事、併せてご笑覧いただけますなら幸いです。
さて、まずは文体模写について少しお話ししたいと思います。
文体模写、つまり他人の文章スタイルを真似て書くことは、筆力向上におおいに役立ちます。
ですからこれは、暮らしに役立つ歳時記情報をゲットしながら、ついでに言葉力アップグレードをはかるという、一粒で二度おいしい企画なんですね。
年間シリーズ企画としてお届けする予定で、今回はその第12回目、浅田次郎氏バージョンをお届けします。
暮らしに役立つパスティーシュ(文体模写)
第12回・浅田次郎氏バージョン
●『プリズンホテル』の作者・浅田次郎氏だったら、きっとこう書くに違いない・・・
「新年おめでとうございやす」
年の暮れ、次郎は親分に呼びつけられた。
下っ端の自分が親分直々にお言葉をいただくというのは初めてのことだ。
次郎は手に汗握るほど緊張し、親分宅の寒い玄関先に立っていた。
「おう、次郎。来たか。大晦日の忙しいときに呼びつけたりして悪かったな」
「いや、滅相もないことで」
「ちょいとおめえに頼みたいことがある。気をしっかり持って聞け」
「へい。で、どこのどいつを狙えばよござんすか?」
「そうじゃねえ。そんな簡単な話じゃねえんだ」
「・・・・・」
「明日の朝一番で、客人を初詣に案内してもらいたい」
「ええっ!!」
次郎は思わず後ずさった。
「親分、それじゃ、朝っぱらからカタギに混じって神社に行けと?」
「おう、そういうことよ。客人は素人衆だからな。組のもんにはできねえ仕事だ」
「マジすか??わー、どーしよー。オレだってカタギの人とは何話していいかわかんないし、第一オレ、朝起きらんないし〜。朝一番っつーと、やっぱ6時とか7時のことでしょ。うっわー、まいったなあ」
「おい、その物言いはなんだ。急に俗言葉になるんじゃねえ」
「あっ、すいません。でも、本当にどうしやしょう。オレ寝過ごしちゃうといけないんで、このままずっと起きてやしょうか」
「ああ、そうしてくれ。なんなら、紅白終わってすぐに神社に向かったっていいんだぜ」
「そーすかぁ。それなら何とかなるかもしれやせん」
「何とかしろよ、頼んだぞ。わしはもう寝るからな。できれば紅白も全部見たいけど、9時をまわると起きてられねえ身体になっちまった。年だな」
「親分、それは年というよりも、子供に戻っちゃったんすね」
次郎はそう言ってしまってから、あっと口をつぐんだ。
組を率いる大親分に対してなんて失敬なことを口走ってしまったのだろうと青くなった。
しかし親分は、ふっふっふっ、と笑って聞き流してくれた。
新年を間近に控え、やはりおめでたい気分になっているのだろう。
「親分、どうぞよいお年をお迎えくだせえ。そして、新年おめでとうございやす」
次郎は頭を下げてそう挨拶した。
親分は強面のまま、「うん」とだけ返事をした。
暗く長い廊下の先にある客間から、「あっ、次はアムロちゃんだ!! 紅組、いけいけ〜!!」とはしゃぐ若い女の声がもれてきた。
聞き慣れない声だった。
おそらく、客人とはその若い女のことだろう、と次郎は察した。
(つづく)