この記事のひとつ手前の記事は、
「2月の寒さ対策」
という内容でした。
前記事→2月の寒さ対策、ヒートテック・インナー重ね着のコツ
という妄想的前提に立ち、遊び心で文体模写をしてみたのが本記事です。
前記事と本記事、併せてご笑覧いただけますなら幸いです。
さて、まずは文体模写について少しお話ししたいと思います。
文体模写、つまり他人の文章スタイルを真似て書くことは、筆力向上におおいに役立ちます。
ですからこれは、暮らしに役立つ歳時記情報をゲットしながら、ついでに言葉力アップグレードをはかるという、一粒で二度おいしい企画なんですね。
年間シリーズ企画としてお届けする予定で、今回はその第13回目、太宰治氏バージョンをお届けします。
暮らしに役立つパスティーシュ(文体模写)
第13回・太宰治氏バージョン
「人間失格」のあの作家だから、きっとこう書くに違いない・・・
「酔いどれ春一番と冬明けの便り」
2月も25日あたりになると、例年、東京周辺で春一番が吹く。
南から北へ向けて強い風が吹き込み、これが吹くと春はもう間近、という合図になる。
そうして春一番の後、夜明け時分の温度が零度を超えていくらか温まると、これを「冬明け」といい、いよいよ梅もほころぶ暖かい春がやってくるのだという感を強くする。
そんな折りに、あるひとりの男が、意中の女からつぎのような便りを受け取ったとしたなら、どうであろう。
───私、あなたのことがあんまり好きでないの。
あなたはちょっとした寒さにでも、すぐ風邪をお召しになり、おしょげなさるからですわ。
でもあなたは、けっして御自分をいじめないでくださいませ。
あなたは、ただすこし弱いだけです。
弱い正直な人を、みんなでかばって大事にしてやらなければいけないと思います。
つきましては、私のうちのばあやが、あなたに卵酒をつくって持ってまいりますから、熱いうちにお飲みになって、あとはよくお休みになってくださいまし。
私はお見舞いに伺いません。
どうぞ悪しからず。
おや、忘れていました。冬明けおめでとうございます。
男はその葉書の文面にじっと目を落としてしばらく考えてから、傍らの一升瓶から湯飲みについで口にした。
まもなく卵酒が届くらしいが、どうせそれでは足るまいから、下地をつくっておこうと思ったのである。
男はこうして、始終酔っていた。
(つづく)