文体模写(パスティーシュ)

東海林さだお氏の文体模写「梅雨とはつゆ知らず、毎日楽しいぼく」

投稿日:2018年1月20日 更新日:

この記事のひとつ手前の記事は、

「梅雨どきのジメジメ・イライラ・ダルダルを解消して快適に暮らす知恵と工夫」

という内容でした。
前記事→梅雨どきのジメジメ・だるさ解消

この前記事を有名作家の誰かが読み、手を加えるとしたらどんなふうにするのかな〜〜

という妄想的前提に立ち、遊び心で文体模写をしてみたのが本記事です。
前記事と本記事、併せてご笑覧いただけますなら幸いです。

さて、まずは文体模写について少しお話ししたいと思います。
 
文体模写、つまり他人の文章スタイルを真似て書くことは、筆力向上におおいに役立ちます。

ですからこれは、暮らしに役立つ歳時記情報をゲットしながら、ついでに言葉力アップグレードをはかるという、一粒で二度おいしい企画なんですね。

年間シリーズ企画としてお届けする予定で、今回はその第1回目、東海林さだお氏バージョンをお届けします。

暮らしに役立つパスティーシュ(文体模写)
第1回・東海林さだお氏バージョン

「まるかじり」シリーズのあの作家だから、こう書くに違いない

「梅雨などつゆ知らず、毎日楽しいぼく」

梅雨どきにぼくがどんな対策を講じているかというと、早い話が、「せめてうまいものでも食べてやり過ごそう」ということに尽きると思う。

くる日もくる日も雨が降り続く7月上旬の朝など、とりあえず布団の上にいちおう起き上がり、居ずまいを正してから、
「エート、体がだるい。気持ちもふさいでいる、かもしんない。なにしろ今起きたばかりだし、ましてや梅雨どきだからな」
などと、つぶやいてみる。そのあと、
「今夜は風呂上がりに浴衣を着て、キュウリもみをツマミに冷やをキュッと一杯やってみるか」
とつぶやく。

つぶやくだけで、はやく夜にならないかと待ち遠しくなる。

ぼくの本業は漫画家であるから、仕事はもっぱら家でする。
仕事の合間に台所へ行き、
「キュウリもみをつくるなら、できるだけ薄くスライスしなければ。こないだ深夜の通販番組で買った野菜スライサー、どこにしまったかな」
と探してみたりもする。
それでめでたくスライサーを発見すると、仕事場にとって返し、作業を続行する。

しかし長くは続かない。
気もそぞろなのである。

ふと我に返ると、なぜかまた台所に立っていて、
「スライスしたキュウリは、まず塩で揉む。全部がしなっとなるまで、ていねいに揉む。ところで、うちにキュウリの買い置きはあったっけ」
と確かめたりしている。

「エート、それでキュウリがしなっとなったら、サッと流水で塩を洗い流し、そいつを両手でギュッと握りしめる、というか固く握って搾るわけだが、とにかく搾って搾って、水気がほとんどなくなるまで搾りつくして」
と頭の中で手順を確認しているうちに、今度は合わせ酢の調味加減が気になりだす。

「お酢は食欲をかきたて、殺菌力もあるというから、この時期にはもってこいだ。ただし、酢だけだとブホッときてむせてしまうよな。砂糖をちょびっと加えるとブホッとこないし、味がまろやかになってうまい。あと、だし醤油も一滴二滴。ついでに白ゴマをふってやるといいなあ」

ここまでくると、もうとまらない。
甘辛酸っぱい味と香りの記憶が、脳内といわず口の中にまでよみがえってくる。
しんなりしつつもシャキッとした歯ごたえを残すキュウリの噛み心地まで、ありありとよみがえってくるではないか。

うーむ、しかしこうなるとなんだな。キュウリと冷やで口中をさっぱりさせたあとは、季節柄、若鮎の塩焼きやアワビの酒蒸しなんかが良いのだろうが、オレとしては、も少し濃厚な味がほしくなりそうだぞ。ならば今夜はひとつ、旬のクロマグロを奮発しようじゃないか。
と思いついたりもする。

というわけで、魚屋さんに電話で注文、となるのであった。

でもって、去年浸けておいた梅酒の瓶を床下から取り出し、おもむろに開封してみる。
とたんに立ち上る、馥郁たる香り。
ほのかに黄金色に輝く、とろーりとした液体である。
これを、うちで一番上等な切子硝子の杯についでみる。
見るからにうまそうだ。

梅は体に良い、と昔から言われている。
ダイエット(脂肪燃焼効果)を期待できる成分(バニリン)が含まれている、と週刊誌で読んだばかりだ。
胃に障害を及ぼすヘリコバクターピロリ菌の運動能力を阻害または抑制する効果のある物質が含まれているとも聞いた。

一口ふくむ。
うーん、たしかに、というか、なんとはなしに体に良さそうだ。
チビリチビリやってみる。
うまい。
甘くてうまい。
思わず、顔がゆるむ。
体もゆるんでいく感じ。
これは心地よいだるさである。
チビリチビリがグビグビになっていく。
アアたまんねえ。

もう仕事なんかそっちのけである。
雨が降っていようがいまいが、そんなことはどうでもよろしいのであった。

(つづく)

 

関連記事→田中康夫氏の文体模写「なんとなく、カレーが食べたくて」

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