●本が好き、図書館が好き
私は図書館のヘビーユーザーです。
「これ読んでみたい」と思う本を好きなだけ手にすることができるのは、図書館のおかげだと思っています。
私は横浜に住んでいるので、横浜市立図書館に感謝しまくり、です。
市の図書館(全18館)に収蔵されている膨大な図書をネットで検索し、読みたい本を予約しておけば、最寄りの図書館で借り受けることができます。
これは本当に便利でありがたいシステムです。
私がこのシステムを活用することを覚えて今年で10年になります。
ざっと計算してみると、この10年間に、2000冊を越える図書を貸し出してもらったことになります。
1冊1500円とすると、合計300万円の図書代が浮きました。
中には何千円もする高価な書籍や写真集も多数あったので、400万〜500万という額になるかもしれません。
ずいぶん得しちゃいました。
とはいえ、私も出版業界に身を置く一人ですから、多少は売り上げに貢献したいという気持ちは当然あります。
あるのですが──出版不況が長引くこのご時世では、図書館のお世話になるしかないのよね、というのが実情です。
昔は本がたくさん売れたので、ライターの私にも、原稿料のほかに、それなりに印税が入ってきました。
ですから、出費を惜しまず、毎月3万も4万も図書に費やしていました。
しかし近年は世の中全般に、本を読むよりもネットで検索したほうが早い・安い・楽だ、という風潮が定着し、本が売れなくなっています。
その一方で、私のように、図書館を利用する人が増えているようです。
話題のベストセラー本などは、図書館でも大人気で、予約待ち1000人なんていうことがよくあるのです。
これではますます本が売れなくなるわけですよ。
そんなに読みたいのなら買ってくださいよ、と言いたくもなります。
私自身はどうかといえば、ものすごく好きな作家が新刊を出したときは必ず買うことにしています。
自分にとって重要なテーマを扱う本が出た場合も、買います。
それ以外は、まずは図書館で借りて読みます。
ちなみに、私は図書貸出し票をすべて保管してあるので、自分が読んだ(借りた)本の記録を残すことができます。
そして、借りて読んでみて、「これは本当にいい本だ。手元に置いて何度も読み返したい」と思えば、Amazonで購入します。
私は新刊書だけでなく数年前に出た本や古典を読むことも多いので、中古本を注文することも多々あります。
新刊、中古、いずれであっても、本が届くとやはり嬉しくなります。
「これでもう、あたしのもの」と、にんまりしてしまいます。
そんな私がこの3年間に出会った「特別な本」、そして綴った「ミニ読書感想文」を、恥ずかしながら、当ブログ読者の方々に見ていただきたいと思います。
皆様にとって、読書を促す一助となりえるならば、本当にうれしいことです。
●「読んでよかった、出会えて幸せだ」と感動したことを忘れたくない
「読書感想文」というと、学生の頃の宿題を連想してしまいますが、大人になった今こそ、読後感を書くことが大切なのではないかと私は思っています。
書き留めておかないと忘れてしまうから。
自分が読んだことすら忘れて、また新たに買ってしまうから。
途中ではっと気づき、「そうだ、これは前に一度読んだのだった」となったときの、ばつの悪さといったらありません。
結末はもう知っているはずですから、潔く本を閉じてしまえばいいのに、話の筋をよく思い出せないので、仕方なくまた読み続けることになります。
「まだボケる年ではないのに。よほど頭が悪いのだろうか」と、情けなくなるのは、こんなときですね。
そういう苦い経験を何度もしているので、「読んでよかった、出会えて幸せだ」と感動した本のことだけは書き留めておこうと心に決めました。
私が書くのは読書感想文というほどおおげさなものではなく、
と、思いつくままに書き出したメモのようなものです。
私の場合は、この3年間に約30本の読書感想文を書きました。
年に平均10冊程度の読書量なのか?と思われてしまいそうですが、そうではありません。
私は年に200冊以上は読みますが、「読んでよかった、出会えて幸せだ」と感動するのは年に10回程度で、だから読書感想文を書く機会も年に10回程度しかないのです。
年に10回ですから、貴重な機会です。
あなたも読書感想文を書いてみませんか。
と感動したときだけ書くようにすればいいのです。
わずか数行のメモであっても、あるとないとでは大きく違います。
と記録を残すことにより、いい思い出がどんどんストックされていきます。
それは写真アルバムにも匹敵する「幸せの思い出貯蔵庫」となり得ます。
●もうすぐ絶滅するという紙の書物について
私の読書感想文、まず1冊目はこちらです。
『もうすぐ絶滅するという紙の書物について』ウンベルト・エーコ著(対談相手はジャン=クロード・カリエール)
原題『本から離れようたってそうはいかない』
紙の書物を愛する人々のために書かれた本、という感じです。
インターネットやキンドルの話なども出てきます。
著者ウンベルト・エーコはイタリアの中世学者、記号学者、哲学者、文芸評論家、小説家で、『薔薇の名前』はベストセラーになりましたね。
もう一人の著者ジャン=クロード・カリエールはフランスの作家・劇作家・脚本家で、ルイス・ブニュエル作品の脚本家として知られる方です。
といっても、私はよく知らないのですが、このおふたりはヨーロッパではとても有名なのだそうです。
古書収集家としても知られている方々だそうで、紙の本をこよなく愛し、本が絶滅するなんてことはあり得ないと語っています。
ただ、電子書籍は場所をとらない、持ち運びが楽、その他にもいろいろなメリットがあり、その一つが、専用リーダーで読めば目が疲れないという点です。
電子書籍が有する数々のメリットについては、本書も認めるところです。
それでも、このおふたりは断然、紙の書籍を推します。
テレビと映画、写真と絵画のように、紙の書籍と電子書籍は共存していくものだと、将来の展望を語っておいででした。
私自身の感想はこうです。
紙の書籍が売れなくなった理由はインターネットに読者をとられているからだと思うのです。
そうした意味で、紙の書籍とネットは競合関係にありますが、紙の書籍と電子書籍はライバル同士というよりも、利害の一致を見ることの多い同類です。
共存共栄をはかっていくべき仲間なのです。
共存共栄をはかる方策として、まず考えるべきは、ネットにはない魅力をこれまで以上に打ち出すことでしょう。
具体的にはどのように?
というのが今後の課題です。
●僕の読書感想文
2冊目はこちらです。
『僕の読書感想文』近田春夫著
1998~2008年『家庭画報』に連載した記事原稿をまとめたそうです。
当時近田さんが読んだ本121冊が紹介されています。
1冊あたり1200文字の「感想文」で、これがけっこうイケテるんです。
私も読んでみたいよっ!という気にさせます。
ちなみに、私は「近田春夫とビブラストーン」の楽曲のファンです。
「近田春夫とビブラストーン」は活動を停止したようですが、近田さんはその後、トランス系のミュージックを手がけるほか、作曲や編曲、プロデュースなどをなさっているようです。
ビブラストーンのライブにまた行きたいと思っている私としては、ちょっと残念です。
近田さんは、言葉の使い方や文章の精度にこだわるタイプみたいです。
ちょっと意外な感じもしますが、本書は端正な原稿で成り立っているので、なるほどね~と思いました。
近田さんの読書傾向は、手当たり次第という感じでしょうかね。
たまたま読んで面白かったから人に薦める、というスタンスのようです。
この本では、思いもよらぬ本がいろいろと紹介(発掘という感じ)されているので、しめた儲けた!と思いました。
本書の刊行年はやや古く、しかも当時の新刊のみならず古本も扱っているので、ますます古い情報となってしまっているのですが、興味深い本が数多くあります。
私は21冊、図書館に予約することにしました。
●だれが「本」を殺すのか
3冊目はこちらです。
『だれが「本」を殺すのか』佐野眞一
書店、流通、版元、地方出版、編集者、図書館、書評、電子出版、と多岐にわたって精力的に取材をなさったことが、ひしひしと伝わってきます。
そして書籍に対する愛と情熱があればこそ、これだけの本を書けるのだなあと感服しました。
2001年刊行ですが、今なお古くはない一冊だと思います。
社会は猛スピードで変化しているのに、出版界はなかなか変わることができないという事実を反映しているということですね。
本書で佐野眞一氏が書いているように、出版業界の構造そのものを改革しないとダメなのかも。
出版社、流通、書店、図書館、このすべてが変わらないとダメ、ということですね。
図書館のどこが問題かといえば、人気の高い本を大量に購入して貸出し件数を増やしていることです。
これでは出版社は商売あがったりでしょう。
ドイツでは、図書館に販売する際は価格を上げて、出版社と著者の利益を保護する仕組みになっている、と佐野眞一氏は言及しています。
日本の図書館も、このままではまずいと気づいたのか、自らの努力で良い方向に変わりだしたようです。
意欲的な図書館スタッフがさまざまな試みを開始したことが、本書の続編に書かれています。
そういえば、うちの近所の図書館でも、セレクト図書コーナーを設けて、月替わりで「おすすめ図書」の特集を組んでいます。
春休みや夏休みなどは、こども向けに「お話の読み聞かせイベント」を実施しています。
いいですね、こういう試みは。
出版社さんにも頑張ってもらいたいものです。
佐野氏いわく──ビジネス書、ハウトゥ本、自己啓発、そんな本ばっかりで、みんな簡単に手に入る答えを求めている、だが本来、答えのない本が良い本なのだ。
これは、耳が痛いお言葉です。
ぶっちぎり面白い本を書いて出版不況を打破するぞ~と意気込んでも、その「ぶっちぎり面白い」の基準が、世の人々と私とではズレてるのかな~の感。
ばか売れするのはハリー・ポッターや村上春樹なんですもん。どーして!?
と私は世界の辺境で叫んでいますよ。
出版業界だけでなく、音楽業界、映画業界も大変なようですね。
我らが出版界はどのように起死回生をはかるのでしょうか。
現実はなかなか厳しいようですよ。
みんな、読書よりもネットに流れています。
本を読むかわりにネットで情報を得ています。
それは悪いことではないけれど、日本人みんながもっと書籍文化を大切にしないと、本が死んでしまう。
本を読む人、というよりも、本を買う人は減り続けていくのでしょうか。
となると、日本全国に3千社ほどあった出版社が2千、1千、あるいは数百社まで淘汰されていくのでしょうか。
こうなったらもう、なるようになれという気になってきました。
漱石や鴎外でさえ初版3千部だった時代に戻って、本当に書きたい人だけが書き、本当に読みたい人だけが本を手にする、という社会になっていくのかもしれません。
それも案外いいかも。
●まとめ
今回は、以下の3冊をご紹介しました。
『僕の読書感想文』近田春夫著
『だれが「本」を殺すのか』佐野眞一著