暮らし歳時記

四季折々の季語の世界

投稿日:2017年12月18日 更新日:

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世界で一番短い文学。
それは俳句です。

俳句(はいく)とは、五・七・五の十七音でつくられる定型詩で、

十七文字(じゅうしちもじ)

十七音(じゅうしちおん)

十七語(じゅうしちもご)

とも呼ばれます。

たった17文字の短い詩でありながら、心に浮かぶ場景やイメージを大きく広げるというのが最大の特徴ですね。

心象を大きく広げる上で多大な貢献をしているのが「季語」です。

●春の季語「蛙」が活きている名句

「古池や蛙飛びこむ水の音」

(ふるいけや かわずとびこむ みずのおと)
という句は、みなさんよくご存じでしょう。

いうまでもなく、日本史上最高の俳諧師の一人とされる松尾芭蕉の句ですね。

この句で使われている季語は「蛙」(かわず)で、つまり、カエルのことです。

「蛙」は春の季語です。
春になると田んぼに水が張られ、繁殖期を迎えた蛙(かわず・かえる)たちが元気よく鳴きはじめることから、蛙は春の季語とされているのです。

芭蕉は蛙の鳴き声よりもむしろ「飛ぶ」点に着目し、それを「動き」ではなく「静寂」を引き立てるために用いた

と解釈されます。

その斬新な発想は、過去に類を見ない画期的な詩情として高く評価され、芭蕉の俳諧を象徴する一句となりました。

●季語のはじまりは平安時代


俳句だけでなく、俳句の前身である「連歌」「俳諧」においても、その句が詠まれた季節を反映する言葉、つまり「季語」を用いることがお約束となっていました。

季語が成立したのは平安時代後期で、月別に分類された季語の数は150にものぼります。

江戸時代には、身近な生活の中からも季語が集められ、その数はさらに増大していったということです。

季語の発掘を推奨したのが、前述の松尾芭蕉という俳諧師です。

俳句を詠む人々は競うようにして、季節を感じさせる新たな言葉を見つけては句に詠んでいったのでしょう。

『南総里見八犬伝』などで知られる江戸時代の読本作者・曲亭馬琴が編纂した『俳諧歳時記』には2600もの季語が集められています。

●年々歳々増え続ける季語


平安後期の季語は150、江戸後期には2600と、季語は増え続けました。

その後、明治・大正・昭和、そして平成へと時代は移り変わっていきますが、俳人たちが新しい語を句に取り入れる試みは変わることなく続きました。

句に詠まれた言葉の中から、「これは季節をあらわす言葉としてふさわしい」と認められたものが歳時記に採集されるという形で、季語は増え続けています。

現代の歳時記には、5000を超える数の季語が収録されています。

その内訳を見ると、

春夏秋冬の「四季」+「新年」

の五季それぞれの季語に分かれています。

さらにその内容から

「時候」

「天文」

「地理」

「生活」

「行事」

「動物」

「植物」

の7種に分類がなされています。

5つの季節×7種ですから、合計35種類に分類されているというわけですね。

●俳句と季語は切っても切れない関係


俳句をつくる人にとって、季語を知ることはマストの条件です。
そうでないと、季節はずれの句を詠んでしまうことになるからです。

季語を使用しない「無季俳句」というのもありますが、句には必ず季語を盛り込むということが、古くからの約束事になっています。

どうしても型破りの表現をしたいという場合は別として、日本の伝統文芸である俳句の「形」を大切に守っていくことに大きな意味があると思います。

「現代俳句協会」のサイトを見ると、季語一覧を検索することができます。
現代俳句協会→

Wikipediaの「季語一覧」も見てみましょう。
wikipedia→
こちらでは、「四季」+「新年」の五季それぞれの季語を、次の9項目に分類しています。

・時候

季節・月の名称など

・天文

天文と気象に関すること

・地理

山・川・海・陸地など色々な地理に関すること

・人事

人の暮らしに関すること

・行事

年中行事を始めとする行事全般

・忌日

著名人の忌日(命日)

・動物

動物一般。
ただし、その語のままで食べ物にもなるもの(食べ物としての印象が強いもの)は食物にも分類。

・植物

植物一般、および、旧来の日本の本草学で植物に分類されていた生物全般(主に真菌類)。
ただし、その語のままで食べ物にもなるもの(食べ物としての印象が強いもの)は食物にも分類。

・食物

食物全般

●手紙やメールの挨拶文にも季語を活用


私は特に俳句を詠むわけではないので、つねに季語を必要としているわけではありません。

それでも、手紙などを書く際の時候挨拶として、また、久しぶりにメールを送るときなど、今の時季はどんな言葉を盛り込むとよいのだろうという観点から、季語を調べることがよくあります。

私が愛用しているのは『暮らしの歳時記』という本にまとめられた季語一覧です。
そこには、春夏秋冬と新年、各季節の主立った季語とその意味が紹介されています。

ざっと200種類ほどですから、ここに引用させてもらいましょう。

春の部だけでも、「風光る」「山笑う」「水温む」など、おやっと思わせる斬新な言葉がいろいろとありますよ。

風って光るものなんだな〜

山も笑うのか〜

水ぬくむというのはいかにも春らしい表現だな〜

というように、季語を眺めているだけで思わぬ発見があります。
自然のいきいきとした躍動が感じられます。

「風光る良い季節となりました。いかがお過ごしでしょうか」

「この時季は山笑うともいいます。お元気でお過ごしのことと思います」

「日に日に水温む春ですね。今度の週末、近所の山へピクニックに行きませんか」

というように、さりげなく季語をあしらった文章を送るのは素敵なことだと思います。

ただし、季語を使うときは一つだけにしてくださいね。
それは俳句のルールと同じです。

使ってみたい季語がいろいろあるからといって、一つの文面にいくつも盛り込むと、くどくなります。

●季語・春の部

・冴返る(さえかえる)

・余寒(よかん)

・雨水(うすい)

・啓蟄(けいちつ)

・蛙の目借時(かわずのめかりどき)

・涅槃西風(ねはんにし)

・風光る(かぜひかる)

・菜種梅雨(なたねづゆ)

・斑雪(はだれ)

・山笑う(やまわらう)

・焼野(やけの)

・水温む(みずぬくむ)

・逃水(にげみず)

・田楽(でんがく)

・炉塞(ろふさぎ)

・厩出し(うまやだし)

・野焼(のやき)

・牧開(まきびらき)

・桑解く(くわとく)

・霜くすべ(しもくすべ)

・鮎汲(あゆくみ)

・魞挿す(えりさす)

・ぶらんこ

・春愁(しゅんしゅう)

・涅槃会(ねはんえ)

・遍路(へんろ)

・落とし角(おとしづの)

・猫の恋(ねこのこい)

・亀鳴く(かめなく)

・百千鳥(ももちどり)

・鳥帰る(とりかえる)

・鳥雲に入る(とりぐもにいる)

・桜鯛(さくらだい)

・乗込鮒(のっこみぶな)

・雪代山女(ゆきしろやまめ)

・初花(はつはな)

・遅桜(おそざくら)

・蘖(ひこばえ)

・若緑(わかみどり)

・柳絮(りゅうじょ)

・竹の秋(たけのあき)

・春落葉(はるおちば)

・下萌(したもえ)

・水草生う(みずくさおう)

・蘆の角(あしのつの)

●季語・夏の部

・麦の秋(むぎのあき)

・半夏生(はんげしょう)

・短夜(みじかよ)

・夜の秋(よるのあき)

・雲の峰(くものみね)

・やませ

・黒南風(くろはえ)

・白南風(しろはえ)

・茅花流し(つばなながし)

・筍流し(たけのこながし)

・夕凪(ゆうなぎ)

・卯の花腐し(うのはなくたし)

・走り梅雨(はしりづゆ)

・青梅雨(あおつゆ)

・五月闇(さつきやみ)

・朝曇(あさぐもり)

・西日(にしび)

・油照(あぶらでり)

・片蔭(かたかげ)

・卯波(うなみ)

・土用波(どようなみ)

・青葉潮(あおばじお)

・滴り(したたり)

・更衣(ころもがえ)

・羅(うすもの)

・水貝(みずがい)

・沖膾(おきなます)

・花茣蓙(はなござ)

・夜濯(よすすぎ)

・真菰刈る(まこもかる)

・竹植う(たけうう)

・虫送り(むしおくり)

・夜振(よぶり)

・魚簗(やな)

・作り雨(つくりあめ)

・端居(はしい)

・帰省(きせい)

・薪能(たきぎのう)

・朝顔市(あさがおいち)

・茅の輪(ちのわ)

・四万六千日(しまんろくせんにち)

・羽抜鳥(はぬけどり)

・練雲雀(ねりひばり)

・通し鴨(とおしがも)

・空蝉(うつせみ)

・優曇華(うどんげ)

・余花(よか)

・茂(しげり)

・万緑(ばんりょく)

・木下闇(このしたやみ)

・病葉(わくらば)

・竹落葉(たけおちば)

・草いきれ(くさいきれ)

●季語・秋の部

・新涼(しんりょう)

・白露(はくろ)

・寒露(かんろ)

・爽か(さわやか)

・身に入む(みにしむ)

・冷まじ(すさまじ)

・秋の声(あきのこえ)

・待宵(まつよい)

・良夜(りょうや)

・無月(むげつ)

・雨月(うげつ)

・宵闇(よいやみ)

・後の月(のちのつき)

・色無き風(いろなきかぜ)

・野分(のわき)

・雁渡し(かりわたし)

・露霜(つゆじも)

・釣瓶落し(つるべおとし)

・花野(はなの)

・穭田(ひつじだ)

・水澄む(みずすむ)

・障子貼る(しょうじはる)

・添水(そうず)

・竹伐る(たけきる)

・薬掘る(くすりほる)

・蘆刈(あしかり)

・牧閉(まきとざす)

・下り簗(くだりやな)

・根釣(ねづり)

・毛見(けみ)

・眠流し(ねむりながし)

・草の市(くさのいち)

・風の盆(かぜのぼん)

・馬市(うまいち)

・地蔵盆(じぞうぼん)

・蛇穴に入る(へびあなにいる)

・渡り鳥(わたりどり)

・色鳥(いろどり)

・落鮎(おちあゆ)

・地虫鳴く(じむしなく)

・照葉(てりは)

・紅葉かつ散る(もみじかつちる)

・桐一葉(きりひとは)

・木の実(このみ)

・敗荷(やれはす)

・末枯(うらがれ)

●季語・冬の部

・冬ざれ(ふゆざれ)

・小春(こはる)

・数え日(かぞえび)

・年の夜(としのよ)

・短日(たんじつ)

・冴ゆる(さゆる)

・三寒四温(さんかんしおん)

・しばれる

・日脚伸ぶ(ひあしのぶ)

・凩(こがらし)

・神渡し(かみわたし)

・虎落笛(もがりぶえ)

・風花(かざはな)

・雪起し(ゆきおこし)

・鰤起し(ぶりおこし)

・名残の空(なごりのそら)

・山眠る(やまねむる)

・水涸る(みずかる)

・御神渡(おみわたり)

・波の花(なみのはな)

・狐火(きつねび)

・蒲団(ふとん)

・水餅(みずもち)

・寒晒(かんざらし)

・薬喰(くすりぐい)

・風呂吹(ふろふき)

・藪巻(やぶまき)

・すが洩り(すがもり)

・障子(しょうじ)

・口切(くちきり)

・冬耕(とうこう)

・網代(あじろ)

・竹筌 (たつべ)

・年木樵(としきこり)

・紙漉(かみすき)

・探梅(たんぱい)

・寒声(かんごえ)

・湯ざめ

・亥の子(いのこ)

・十日夜(とおかんや)

・年の市(としのいち)

・神の旅(かみのたび)

・神迎え(かみむかえ)

・十夜(じゅうや)

・臘八会(ろうはちえ)

・凍鶴(いてづる)

・綿虫(わたむし)

・帰り花(かえりばな)

●季語・新年の部

・去年今年(こぞことし)

・小正月(こしょうがつ)

・女正月(おんなしょうがつ)

・初霞(はつがすみ)

・初凪(はつなぎ)

・御降(おさがり)

・淑気(しゅくき)

・初景色(はつげしき)

・春着(はるぎ)

・鳥総松(とりぶさまつ)

・初湯(はつゆ)

・初山(はつやま)

・船起(ふなおこし)

・若水(わかみず)

・達磨市(だるまいち)

・宝恵駕(ほいかご)

・えんぶり

・なまはげ

・かまくら

・左義長(さぎちょう)

・白朮詣(おけらまいり)

・鷽替え(うそかえ)

・初鴉(はつがらす)

・嫁が君(よめがきみ)

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●まとめの一言


日本の四季折々の季語を紹介してまいりました。

普段あまり使われることのない語が多いのですが、

「余寒」

「油照り」

「空蝉」

「釣瓶落とし」

など、一度は耳にしたことのある語もいくつかあったでしょう。

季語は俳句を詠む人々が苦心して集めた、輝く言葉の数々です。

私たちも、何かをちょっと詩的に表現したいときなど、季語を使ってみるとよいですね。

海辺に起きる波の白い泡のかたまりは「波の花」(なみのはな)。

冬の烈風が吹き荒れる音は「虎落笛」(もがりぶえ)。

夏の盛りに鬱蒼と茂る草木は「万緑」(ばんりょく)。

薄い絹でつくった着物は「羅」(うすもの)。

こういう詩的な表現を頭の中にストックしておくと、ごくふつうの日常の光景も、文学的にとらえてイメージを広げることができそうです。

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