文体模写(パスティーシュ)

村上春樹氏の文体模写「それはどちらかといえば集中力の欠如というよりもビタミンB1不足の領域に属すること」

投稿日:2018年1月22日 更新日:

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この記事のひとつ手前の記事は、

「夏バテを予防・改善する方法」

という内容でした。
前記事→夏バテ予防のカギは自律神経・睡眠・汗・水・ビタミンB1

私の手によるこの前記事を、もしも有名作家の誰かが読んで手を加えるとしたらどんなふうにするのかな〜〜

という前提で、遊び心の文体模写をしてみたのが本記事です。

前記事と本記事、併せてご笑覧いただけますなら幸いです。

さて、まずは文体模写について少しお話ししたいと思います。

文体模写、つまり他人の文章スタイルを真似て書くことは、筆力向上におおいに役立ちます。

ですからこれは、暮らしに役立つ情報を確認しながら、ついでに言葉力アップグレードをはかるという、一粒で二度おいしい企画なんですね。

年間シリーズ企画としてお届けする予定で、今回はその第3回目、村上春樹氏バージョンをお届けします。

暮らしに役立つ歳時記×パスティーシュ
第3回・村上春樹氏バージョン

「やれやれ」の作家だから、きっとこう書く


「それはどちらかといえば集中力の欠如というよりもビタミンB1不足の領域に属すること」

僕は彼女のためにビールとグラスを運んできた。
そして片手で器用にプルリングを取り、ビールをグラスに注いだ。

「あなた、食事はもうすんだのかしら」と彼女は僕に聞いた。
「昼に、外出先でウナギを食べた」と僕は答えた。
「私は朝から何も食べてないわ」とぽんやりした顔で彼女は言った。
その表情は快活というにはほど遠く、その声もまた何の感情もこもっていなかった。

「それで、食事はもうすんだのかしら」と彼女は再び僕に聞いた。

だからウナギを食べたと、さっき言ったばかりじゃないか。もう忘れてしまったのか。と僕は少々不審に思いながら、
「ああ、外出の途中で、ウナギを食べてきたんだよ」と答えた。

彼女はどうやら、この暑さで感情をなくしかけているだけでなく、集中力までなくしてしまったみたいだ。
それはどちらかといえば集中力の欠如というよりもビタミンB1不足の領域に属することではないかと僕はふと思ったが、もちろんそんなことは口に出さなかった。

僕はソファの上で黙って礼儀正しく微笑んでいた。
彼女はしばらくぼんやりとした目でビール・グラスを眺めていたが、
「ねえ、でも、それはそれとして、朝から何も食べていないのにおなかがすかないのはどういうわけ?」と言った。
「いや、正確に事実を述べるなら、君は朝から何も食べていないけれど食欲がない、僕はさっきウナギを食べたばかりだからおなかがすいていない、ということだよ」
「そうなのかしら」と彼女は言って目をつぶった。

「君だけが問題を抱えているわけじゃない」と僕は言った。
彼女は顔を上げて僕を見た。「ねえ、あなた人を慰めるってことができないの?」
「慰めているつもりだけど? たとえばこうしてビールを運んでくるとか、ね」
「いいえ、それは絶対に、慰めになんかなっていないわよ」
「どうして?」
「だって、ビールじゃ水分補給はできないのよ。そんなことも知らないの?」
と彼女は言って立ち上がり、僕に向かってクッションを投げつけた。

彼女が怒りを爆発させると、いつもこうなる。
「惨め」と彼女は首を振りながら言った。
やれやれ、僕の言うことなんて何も聞いていないのだ。

「さて」と僕は、できるだけ落ち着いた声で言った。
そしてグラスに一杯水を運んだ。
もちろん、彼女に飲ませるためだ。

「君も僕も今はまったく食欲なんかないけど、それは夏だからなんだ、きっと。それに夏だから、ウナギを食べなくちゃいけないのかもしれない」
そして僕らはウナギを食べに出かけた。
彼女にとってはこの日はじめての食事であり、僕にとっては二度目のウナ重だった。

(つづく)

関連記事→詩人アポリネール「ミラボー橋」の文体模写をしてみました。

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