文体模写(パスティーシュ)

林真理子氏なら「秋の衣替え」をこう書くだろう。

投稿日:2018年1月26日 更新日:

この記事のひとつ手前の記事は、

「秋渇き・秋乾き」

に関する内容でした。
前記事→秋渇き+秋乾き。それは衣替えと洗濯、魚の干物づくりに絶好の時季。

この前記事を有名作家の誰かが読み、手を加えるとしたらどんなふうにするのかな〜〜

という妄想的前提に立ち、遊び心で文体模写をしてみたのが本記事です。

前記事と本記事、併せてご笑覧いただけますなら幸いです。

さて、まずは文体模写について少しお話ししたいと思います。

文体模写、つまり他人の文章スタイルを真似て書くことは、筆力向上におおいに役立ちます。

ですからこれは、暮らしに役立つ歳時記情報をゲットしながら、ついでに言葉力アップグレードもはかるという、一粒で二度おいしい企画なんですね。

年間シリーズ企画としてお届けする予定で、今回はその第6回目、林真理子氏バージョンをお届けします。

暮らしに役立つパスティーシュ(文体模写)
第6回・林真理子氏バージョン

自他共に認める「おしゃれ」「グルメ」「怠惰」「太っ腹」の作家は、きっとこう書くだろう

「十月一日は衣替えの日」

十月を迎えると、海も越冬の準備を始めるという。
魚に脂がのり始めるのだ。

そして、これも例年のことだが、私の身体も来るべき寒風に備えてなのか、日に日に脂がのって丸みを帯びていく。
より正確にいうと、幅と厚みを増していくという感じだ。
「また一つ大きな仕事を成し遂げて、一段と大きくなられましたね」
と評されるなら大歓迎だ。

しかし、お腹のあたりにチラリと目をやりながら「また一段と」と言われるのは本当につらい。
そういうとき、私はいつもどうするかというと、
「はあ、おかげさまで。あはは」
と笑ってごまかすのである。

だが、無理やり笑うのにもいい加減疲れてきた。
そこで次なる手段は、目の錯覚を利用することである。
私が太って見えるのは、この寒さのためにたくさん服を着こんでいるからですよと、それとなく訴えるわけですね。
姑息といえば姑息、加えて、果たしてどれだけ効果があるとも知れぬ、危なっかしい作戦ではありますが。

しかし考えようによっては、案外合理的な作戦とも言える。
夏場はシャツやブラウス一枚でいいけれど、秋冬ともなるとその上にニットだのジャケットだの、さらにはコートまで羽織らなければならない。
着ぶくれすること必至である。
よって、言い訳がましいことを一切口にする必要がないのだ。

それに、二の腕のタプタプや背中のお肉なんかは、厚手のお洋服がすっぽりと覆い隠してくれる。
波打つお腹の贅肉も、夏服のときほどには目立たない。
「ハヤシさんって身体が大きくていらっしゃるから、さすが着映えがしますね」
と褒められたことだってあるのだ。

こうなったら一刻も早く、夏物と冬物を総とっかえしたい。
マメな人ならばとっくに衣替えを済ませているはずだが、私にはそんなことをしているヒマがなかった。

というよりも、季節ごとにタンスの中身を入れ替えるという発想自体がなかったのだ。
春夏ものも秋冬ものも、ウォークインクローゼットにズラッと並べておけばいいじゃん。
真冬にシルクのブラウスやドレスを着ることだってあるんだよ。
なのに、なんでわざわざタンスの奥のほうにしまったり、時季が来たらまたひっぱり出したりする必要があるの?
ムダだよ、ムダ。
と心からそう思っていたのである。

でも今年は、あえてそのムダなことをしてみたくなった。
時は今まさに十月一日、衣替えの日なのである。
着物ならば単衣から袷(あわせ)に、みなが一斉に着替える日である。
学校や職場の制服も、この日を境に冬仕様となる。

私の場合はただ単に、薄手の服が目に付かないようにしたいだけですが、この日を逃したら、衣替えなんてもう一生できないような気がするの。

ドレスやブラウス、そしてスカートも一式クリーニングに出し、そのまましばらく預かってもらうといいかもしれない。
毛皮のお預かりサービスがあるくらいだから、私のような常連客には多少の融通をはかってくれるだろうと、都合のいいことを考えてしまう。
もしもクリーニング屋さんに断られたら、冬物以外はすべて段ボール箱にひとまとめにしてレンタルスペースにぶちこんだっていい。

そうだ、それがいい。
来春、手元に着るものがなくて困った困ったと騒ぐことになりそうだけど、そのときはそのときだ。

かくして私の衣替え、いや着ぶくれ目くらまし作戦は、成り行き任せに進行していくのであった。

(つづく)

 

関連記事→林真理子がもしも「ハロウィーンの功罪」について書いたら・・

-文体模写(パスティーシュ)

執筆者:


comment

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください

関連記事

三島由紀夫氏の文体模写「菊ざかりの森」

この記事のひとつ手前の記事は、 「9月9日は菊のパワーで邪気退散と長寿祈願」 という内容でした。前記事→9月9日は重陽の節句・「菊」のパワーで邪気退散と長寿祈願 この前記事を有名作家の誰かが読み、手を …

椎名誠氏の文体模写「銭湯でゆず湯につかってアヂヂヂヂ」

この記事のひとつ手前の記事は、 「冬至のカボチャとゆず」 にまつわる話でした。前記事→12月22日は「冬至」、12月上旬から翌1月初めにかけては「冬至日」 この前記事を有名作家の誰かが読み、手を加える …

吉田健一氏の文体模写「河豚とポン酢もみじおろし小葱」

この記事のひとつ手前の記事は、 高級食材の「河豚(フグ)」 について、でした。前記事→高級食材・フグ、その知られざる秘密 この前記事を有名作家の誰かが読み、手を加えるとしたらどんなふうにするのかな〜〜 …

東海林さだお氏の文体模写「梅雨とはつゆ知らず、毎日楽しいぼく」

この記事のひとつ手前の記事は、 「梅雨どきのジメジメ・イライラ・ダルダルを解消して快適に暮らす知恵と工夫」 という内容でした。前記事→梅雨どきのジメジメ・だるさ解消 この前記事を有名作家の誰かが読み、 …

田中康夫氏の文体模写「なんとなく、カレーが食べたくて」

この記事のひとつ手前の記事は、 「おいしく食べて元気モリモリになれるカレーの作り方」 という内容でした。前記事→カレーは薬膳。スパイスが胃腸を癒やして活力増進 この前記事を有名作家の誰かが読み、手を加 …

2023/06/29

「を抜き」「は抜き」を改善しよう

2023/06/23

「か抜き」言葉を改善しよう

2022/12/01

「お申し付けください」よりも「仰せ付けください」のほうが良いなあ

2022/08/15

男と女の日常茶飯劇

2022/04/01

ライターが習得した速読法

2022/03/30

「十分」と「充分」に違いはある?

2021/12/26

Kindleペーパーバック出版、私もやってみました。

2021/01/19

「XX時からXX時に行きます」という言い方は、変じゃない?

2020/09/07

主語がなくても通じる、日本語の不思議

2020/08/27

チーママ・オーママ/小ママ・大ママ

2020/02/27

表記統一の観点からいうと、「行う」ではなく「行なう」が正しい

2020/02/26

「語尾上げ」しゃべりが癖になっていない?

2020/02/06

TOKYO MXテレビ『5時に夢中!』に出演しました。

2019/11/29

ものの数え方・73選

2019/11/28

馬から落馬・顔を洗顔←重ね言葉はやめよう

2019/11/27

カタカナ語の乱用防止に、この日本語を!!

2019/11/16

「理想」の対義語は□□、「流行」の対義語は□□。

2018/10/18

頭から離れる?離れない? 正しい言い方はどっち!?

2018/09/18

横浜に代々伝わる「ハマ言葉」

2018/09/03

文章構成術/基本フォーマット12種類

2018/03/10

なぞなぞ傑作選・必笑78題

2018/03/09

テープ起こしをすると文章力が高まる!!

2018/03/02

ネガティブなことをポジティブに言い換えるレッスン

2018/02/16

「い抜き言葉」はカジュアルな場面でのみOK

2017/10/03

月の呼称/睦月・如月・弥生・卯月・皐月・水無月・文月・葉月・長月・神無月・霜月・師走

2017/06/02

読点の打ち方を完全マスター!! ①

2017/05/20

文章力/接続詞の乱用禁止!! 大事な場面で効果的に使おう

2017/05/16

文章力/説明がうまい人は「修飾語」(形容詞・形容動詞・副詞の3点セット)に強い

2017/05/05

悪文リライトにチャレンジしてみませんか

2017/05/04

文章力を高める10の行動。すべて試してみる価値あり!

2017/04/30

混じる?交じる? 漢字の書き分けは、頭をやわらかくする知的なゲーム

2017/04/23

先入感?異和感?それって漢字変換ミス? 同音異義語・同訓異字の落とし穴

2017/04/22

「れ足す言葉」は、くどい、しつこい

2017/04/21

「さ入れ言葉」は上品か下品か?

2017/04/20

「ら抜き言葉」はOKかNGか?

2017/04/16

アブない隠語も、正しく覚えれば失敗しない

2017/04/04

ビジネスマナー/尊敬語と謙譲語の使い分け

2017/03/24

日本語の乱れ/あざーす・やばくね? 変な言葉や言い間違いが増えていますね?

2024/03/14

知ればちょっと得した気分になる「名数」

2024/03/12

日本の豆知識(知っていると、たまに、ちょっとだけ、役に立つ、かも)

2024/03/11

小説を書きながら学んだ「文芸用語」

2024/03/06

日本古典文学と作者(撰者)名

2024/03/05

カタカナ語を日本語に変換してみよう

言葉をたくさん知っていると、話すのも書くのも自由自在。頭を整理しながら自分の思いや考えを的確に伝えられるので、いつも気分よく過ごせます。仕事や人間関係にきっと良い影響があるでしょう!!

当サイト「言葉力アップグレード」は言葉の世界を豊かにし、話し方・書き方をレベルアップする技術を紹介しています。どうぞご活用ください。

follow us in feedly